5.お前は鈍くて一生伝わらない気がするから
「アレクシスが反抗的になったのも、側妃選びの場に来なかったのも……全部あなたの所為だったのね」
王妃様の纏う空気が一気に不穏なものに変わる。
「いいわ。異世界から来てまだわからないことばかりだものね。これからはわたくしが直々に教育してあげる。二度とそのような口をきけないようにね」
ゾッとするような冷たい微笑みに、思わず後ずさる。私を庇うようにアレクシス殿下が王妃様の前に立ち塞がった。
「母上。彼女に手を出すのなら容赦はしません。彼女は私の大事な女性です」
凜とした声が響き、私は目を見開いた。
えっと……。
聞き間違いだろうか。
「わたくしに刃向かうの?」
「はい。母上が彼女の敵に回るのなら──」
アレクシス殿下の背中は真っ直ぐと伸ばされ、いつもより大きく頼もしく見えた。王妃様の発する圧にも全く怯まず、緊迫した空気も物ともしていない。
王妃様の怒りのオーラを感じ取り、私はゴクリと喉を鳴らした。
ど、どうしよう……。
この状況をどうしたらよいのか混乱していると──
「王妃様っ!大変ですっ……アルステディール公爵家の聖物が急に消失したと連絡がっ!!」
急に部屋に入ってきた侍従の報告で空気は一変した。
聖物が……消失!?
瘴気で闇に呑まれたんじゃなくて……消えてしまったということ……?
「なんですって……っ!?」
「それは大変ですね。側妃選びは取りやめにしましょう。母上も色々とお忙しいようだ。私は聖女様と共に失礼いたします」
「っ……く、アレクシス、まだ話はっ」
「では、失礼いたします」
対応に追われる王妃様を背に、アレクシス殿下に手を引かれ王妃宮を後にした。
「アレクシス殿下っ、だ、大丈夫だったんでしょうか、出てきちゃって……」
「ああ、平気だろ。母上は何よりもアルステディールを大事にする方だ。そっちに気を取られてしばらくは手を出してくる余裕もないだろう。それにしても……お前は……母上相手に無茶しすぎだ」
達観した言い方に、これまでも王妃様は実家優先で生きてきたのだと察してしまう。
タイミングが良すぎる聖物の消失に、まさか……という疑惑を持つ。
「殿下……まさか聖物の消失って……」
「いや、俺は関わっていない。先日マレンディール公爵家の聖物を浄化したことが、何らかの影響を齎したんだろう。リドディアに調べて貰う方がいいな」
良かった。アレクシス殿下は関与していないようだ。
「……悪かったな。巻き込んで」
「い、いえ……私も王妃様に不敬を……」
今後の『聖女・ポティ』にも悪い影響を与えてしまうかもしれない。
むしろ……なんらかの処罰が!?
「……まったく、勢いで突っ走るのはお前の専売特許だな。まぁ……今回は……俺もそれに救われた」
「えっ!?」
最後の方が声が小さくて聞き取りにくくて聞き返すが、答えてはくれなかった。
「それよりも、お前、俺に訊かないのか?」
「え……?なにを……」
首をかしげると、深いため息を吐かれた。
な、なんで……!?
「俺はさっき、遠回しにお前に想いを告げたんだが」
「えぇ……っ!?お、おもい……!?」
──『彼女は私の大事な女性です』
凜とした声が蘇る。大事な……女性。だいじな……。
「お前は鈍くて一生伝わらない気がするから、はっきり言う。俺はお前が好きだ」
アレクシス殿下のストレートな告白に、時が止まった気がした。




