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4.アレクシス殿下はよい子なんかじゃありませんよ!



え………?

今、なんて……?


影とは、王族に仕えている隠密のような部隊だ。

その情報は正確なはずで……。


好意とはっ!?

いいい、いや、身内、身内に向ける好意ってことだよね。



「母上、どうしてそれをっ……」


「影の報告では、聖女様をみつめて想いにふけること数十回、手を伸ばそうとして怖じ気づくこと数回、執務中も窓から見える聖女様に視線を向け──」


「お願いします、黙ってくださいっ!」



アレクシス殿下が焦ったように王妃様の言葉を遮った。

今聞こえた内容はいったい……。


いや、聖女宮の中までは隠密部隊は入れないはずだから、遠目で見て報告されたことだよね。いつも『聖女・ポティ』の正体がバレないように気を張っているアレクシス殿下の行動は端から見れば熱視線に見えるのかも。


うんうん。

勘違いされてしまったアレクシス殿下が少しかわいそうに思えてくる。



「異国から来た聖女に物珍しくて惹かれるのは若気の至りで仕方ないわ。好意があるのならば婚姻は喜ばしいことなんじゃなくて?」


「…………っ」


言葉に詰まる殿下に、王妃様は幼子に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「でも聖女は尊き血筋ではないのだから、婚姻しても跡継ぎは側妃の子から選定しないとならないの。だから側妃を選びなさいと言っているでしょう?」


「母上っ!……私はっ……」


「王族の婚姻にはね、愛も夢もないの。必要なのは尊き血を絶やさないこと。それだけよ。でなければ、わたくしもあの男の妻になんてなろうとは思わなかった。貴方さえ生まれ、貴方が王位を継げればわたくしは役目を果たせるの。国外から来たあの女の血など……後世に遺せないわ……っ」



尊き血……。


確かエド様のお母様、側妃様は外国から輿入れされた方だ。

小さい国の貴族で、夜会で国王陛下と恋に落ちたって何かの歌劇で見たような。


最近は伏せってしまい姿をお見かけしないが、まるで絵本のお姫様のように可憐で儚げな方だった。王妃様は国王陛下の寵愛を受ける側妃様を嫌っていると噂で聞いたことがあったけれど、そうではなかった。


流れる血が違うから。

だから王妃様は側妃様を忌み嫌うのか。



『溺愛というよりは執着に近いかも知れないね……』



エド様の言葉が脳裏に蘇る。

王妃様はアレクシス殿下をただ一人の人間として見たことはあるのだろうか。


血筋しか……アルステディール公爵家と王家の血が流れている子どもとしてしか見ていないのでは……。



「アレクシスはよい子だから、お人形のようにお母様の言うことはきけるわよねぇ?」


まるで薔薇の花のように優雅に微笑む王妃様のもつ棘に、アレクシス殿下は何度傷ついてきたのだろう。



「あ、アレクシス殿下はよい子なんかじゃありませんよ!」


「……は?」


「いつも偉そうにしているし、無茶振りばっかりしてくるし、そのくせこっちが無茶すると怒るし……心配してくれるし、ピンチの時には絶対に助けてくれる……人間味のある暴君です!」


私の言葉に、王妃様もアレクシス殿下もピタリと動きを止め、目を丸くする。


「お、おい……お前……」


「人形のように微笑んで何でもできる王子様を演じていますが、それは違いますっ!ちゃんと……感情の上下も激しいし、自分の気持ちも持ってます。アレクシス殿下は……っ」


「もう、いい。やめ──」


「私たちにとって……掛け替えのない存在で、大切な人なんですっ!!あなたの操り人形なんかじゃないっ!」



分かって欲しかった。

血筋だけの存在なんかじゃないこと。

まるで物のように扱われることが許せなかった。


私の中のよくわからない感情が爆発するように言葉として飛び出して。


気が付いた時には、王妃様もアレクシス殿下も黙って私を見つめていた。



こ、これは……。

不敬罪で捕まるやつだろうかっ!!



「ふうん、よく分かったわ」



沈黙を破ったのは、王妃様だった──。




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