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3.悪いが、夢じゃない。


◆◆◆



「───ン」



遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえるような……。

沈んでいた意識が徐々に浮上しゆっくりと目を開けると──



「ノルンっ、大丈夫かっ!?」


「うーーん……はっ!!アレクシス殿下……!!」



飛び起きると、目の前にはアレクシス殿下がいた。よかった、殿下は無事だ。


「怪しい奴に殿下が攫われちゃった夢を見てたんです。良かった、夢で──」


「悪いが、夢じゃない。俺に巻き込まれてお前も攫われたんだ」


「えぇっ!?」



攫われた……!?

辺りを見回すと、豪華な家具が揃った寝室のようなところだった。


まるで王宮の一室のような……。



「ここって……」


「王妃宮だ」


「は……?」



私は気の抜けた声を出してしまった。

なぜ、王妃宮に攫われたのだろうか!?


連れ去られる前に見たアレクシス殿下は怪しい奴の肩に担がれていたような。


王妃様はアレクシス殿下のお母様で……王妃宮に来て欲しいならそう言えばいいだけだ。

わざわざ人を使って息子を危険な目に晒す必要などないはずなのに……。



「巻き込んで悪かった。昨日……母上からの提案を俺が断ってしまったから、こんな強硬手段に出たんだ」


「提案って……」


まさか──。


「とにかくお前は早く逃げろ。今俺は魔力を封じられているから転移魔法が使えない。指輪があれば、窓から飛び降りても魔法の力で怪我はしないだろう。お前だけでも──っ」


「待ってください、アレクシス殿下を置いてはいけませんっ」


言い争っていると──

寝室のドアがバンッと音を立てて開かれた。



「起きたかしら?」




凜とした声に振り返ると、菫色の髪と瞳を持ち、美しいオーラをふりまく、アレクシス殿下とそっくりな顔立ちの……王妃様が立っていた。



「アレクシス、貴方には早く側妃候補を選ぶ席についてもらわないとねぇ。聖女様もお目覚めになったなら、この婚約届けの書類にサインして頂戴」


「え……」


今、なんと言った?

側妃候補とか、婚約届けとか……。

受け止めきれない情報量にポカンとしてしまう。



「母上、昨日お断りしましたよね。聖女様を妃に迎える予定もありませんし、側妃候補とも会うつもりはないと!」


「あら、貴方の意見など訊いてないの。これはもう定められた運命よ。アレクシスが王太子になるためには、聖女派を取り込まなければ。手っ取り早く聖女をお飾りの妻にしてしまえばいい」


え……!?

お、お飾りの妻!?


驚く私を気にもせず、王妃様は続ける。



「執務は側妃を娶り優秀な者に任せれば問題ないでしょう。側妃候補の中で好きな者を選ばせてあげようと優しさで見合いの席を用意したのに……逃げてしまうなんて情けない。だから強硬手段に出たまでよ。聖女もついてきたのは、まあ予想外だったけれども、余計な手間が省けたわ」



王妃様が異世界語を話しているのかしら?

というほど、意味が分からなかった。


淡々と話す内容は、全て王妃様に都合が良い内容で。

そこに人を思いやるような感情はない。


「お断りします……母上っ、聖女様を巻き込まないで頂きたいっ!」


私を庇う殿下に、王妃様は冷たい視線を向けた。


「幼い頃は言うことをよく訊く優秀な王子だったのに。あの汚らわしき女とその子どもに悪い影響を受けたのかしらねぇ。貴方だけはわたくしが正してあげないと」


苦々しい表情で毒を吐き続ける王妃様に、アレクシス殿下の表情は徐々に怒りを帯びている。


「わたくしの言うとおりにすれば、王太子になれるわ。わたくしの実家と連絡を取りたいと言っていたけれども、話など付けなくても、わたくしの力があれば大丈夫。ね、今まで間違ったことなどなかったでしょう?」


真っ赤に塗られた唇の端を上げ、優雅に微笑む王妃様に背筋が寒くなる。何を言っても無駄。聞いて貰えない……そんな諦めにも近い感情にさせられてしまう。


昨日、ため息を吐いていたアレクシス殿下の心情が理解出来る。

これは……。

一筋縄ではいかない……大物を相手にしているようだ。



「母上、俺は──」


「そうだ、影から聞いたわ。貴方、聖女様に好意を寄せているのでしょう。じゃあ、丁度いいじゃない」



王妃様が爆弾発言を投下した──。





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