2.ミッソシールン……?
「うーん、眠れない……」
その夜、中々寝付けずにベッドの上をゴロゴロする。
ふわふわな布団に包まれて、いつもなら数秒で眠りにつくのに。
『ノルンは、アレクが婚約しちゃうと……寂しいのかな?』
エド様の言葉が頭から離れない。
アレクシス殿下に婚約者が……。
決まった事実ではないのに、頭の中はそのことでいっぱいになっていた。
やはり、最近は『聖女・ポティ』を通して、いつの間にかアレクシス殿下を身内のように感じていて、急に婚約者が出来てしまうことに寂しさを感じているのだろうか。
母親に恋人ができるのが寂しい娘……みたいな心境なのかもしれない。
自分に置き換えてみると、うん、想像しただけで寂しくなってくる。アレクシス殿下に向ける感情も、そんな感じなんだ、きっと。
胸が苦しいのも、泣きそうな気持ちになるのも、身内へ向ける感情のはず。
無理矢理自分を納得させて目を閉じるけれども、全く眠りにつく気配は訪れなかった──。
◆◆◆
「ノルン、カオ、アオイ……!」
「おはよう、ゴンちゃん。ちょっと寝不足で……」
「それはいけませんね、これを飲んでみてください!初代聖女様が発案したミッソシールンという飲み物です。寝不足に効くらしいですよ!」
リドディア様に渡された器には、茶色い独特な香りがするスープがいれられていた。
「ミッソシールン……?」
「はい!豆を腐らせたミッソという調味料と、魔魚をカラカラに干したものを削ったもので味付けした、ミッソシールンです!!魔魚の文献を漁っているときに見つけて昨夜作ってみたんです。さあ!」
腐った豆に……魔魚……。
もう嫌な予感しかしない。
「えええええ遠慮しますっ!!!!」
全力で逃げ出した。
ミッソシールンは間違いなく、やばい料理に違いない。
どこかに隠れてやり過ごそうと、廊下をコソコソと歩いていると──いつもは使われていないはずの部屋から誰かの話し声が聞こえた。
幽霊っ!?
それとも、不審者……!?
声の主を確かめようと、部屋に近づくと──
「なっ、やめろ、ここに居る者を巻き込むなっ」
「全ては──様のご意志に従うまで」
「俺だけでいいだろうっ、抵抗などしないっ!」
アレクシス殿下と、聞いたことのない男の言い争う声がする。
これは……アレクシス殿下のピンチでは!?
「アレクシス殿下っ!?」
慌てて部屋のドアを開けると、黒いローブを纏った男に、アレクシス殿下が荷物のように担がれていた。
「殿下、今助けを呼び──」
「ノルン、やめろ、今すぐ逃げろっ!!」
「これは……目撃されては仕方ありませんね」
「えぇっ!?」
助けを呼びに走ろうとした瞬間に、腹部に鈍い衝撃を感じ、意識が遠のいた。
「ノルンっ──」
アレクシス殿下の声を聞きながら、私の意識はそこでプッツリと途切れてしまったのだった。




