16.お前はこっちだ
「あああ、アレクシス殿下!?」
「心配したっ……。お前が無事で……よか──」
「ノルンっ!!ゴンザレスモ、シンパイシタヨーーっ!!」
アレクシス殿下の抱擁にドギマギしていると、いつの間にか現れたゴンちゃんにも更に上から抱きつかれた。
「ノルンを見つけて嬉しい気持ちはわかるけど、このままじゃノルンが潰れてしまうよ。はい、二人とも離れて。ノルン、無事で良かったよ。石碑の中に入れたはいいけど、森の中で巡り会えないかと心配していたんだ」
ゴンちゃんとアレクシス殿下を軽々引き離して、エド様が微笑んだ。ゴンちゃんは楽しそうに笑っているけど、アレクシス殿下は拗ねたような表情だ。
「野生動物のように、しっかり木の幹にマーキングしてありましたからね。さすがノルン様です」
「野生……動物……」
褒めているのか、けなしているのかわからない賛辞をリドディア様からもらう。
「皆さんも石碑に触れて吸い込まれてしまったのですか?」
「いや、俺たちは吸い込まれたノルンを追ってきたんだ。石碑に公爵の血を垂らして、ここまでの道を開いてもらってね。ノルン、怪我はないかい?」
「はい、エド様。無事ですっ。そうだったのですね、私だけ……石碑に触れたら吸い込まれてしまった……」
私は鱗のような石に触れた瞬間にこの空間に吸い込まれた。
みんなは公爵の力でここに来た。
この違いはなんなのだろう。
「あの石碑は色々と調べた結果、慰霊碑のようです。誰かの死を悼み……造られたもの。ノルン様をここへ呼んだのも、慰霊碑の主が関わっているのかもしれません」
「慰霊碑……。ま、魔魚です……っ、その慰霊碑は魔魚のために造られた物だと思います」
私の言葉に皆ポカンと固まった。
あれ?
いや、説明すればわかってくれるはず。
「私、さっきまで、小さな子どもの姿をした魔魚の妖精さんと一緒にいたんです。妖精さんは初代聖女様を知っている様子でした。何か約束をしたと、それを果たされるのをずっと待っていたと悲しそうに言っていました」
「魔魚の……妖精……」
「ほら、リドディア様が言っていたでは無いですか。初代聖女様の記録に、魔魚をカラカラに干し、その身を削り巨釜で茹でて成敗したという記載があったと。妖精さんの体には鱗が生えていました。初代聖女様に成敗された魔魚か、その子どもに違いありませんっ!」
私の名推理に皆気圧されているようだった。
私だって、この目で見なければ信じられなかった。
けれども、あの子は魔魚の妖精に違いない。
「……詳細を訊いて、十分に検証を重ねる必要がありそうですね」
リドディア様が少し疲れたように言う。
「そうだね、取りあえず祭壇へ戻ろう」
「え!?戻れるのですか!?」
「ああ。一度行ったことがある場所ならば転移魔法が使えるからね。俺とアレクで転移魔法を発動させれば戻れるよ」
なんと……!
さすがは、王族兄弟っ!!
使える魔法が桁外れだ。
「もし転移魔法が駄目なら、もう一度公爵が血を垂らしてくれる手はずになっているんだ。じゃあ、魔法を展開させよう。ノルン、俺かアレクの傍に」
「はい」
大きな魔方陣が足下に現れる。
エド様の方へ行こうとしたら、グイッと腕を引っ張られた。
「えっ」
「お前はこっちだ」
アレクシス殿下に抱き寄せられ、私は殿下の魔方陣の中へと入る。なんだろう。さっきは抱きしめられたし、……アレクシス殿下と距離が近いような。
もしや、石碑に触れるなと忠告されたのに触ってしまい、こんな騒動になったことを怒っているのだろうか。
もう勝手な行動はさせないと、監視の意味もこめて、こんなに距離が近いとか……。
申し訳ない気持ちを込めて、アレクシス殿下を見上げると──真っ直ぐに私を見つめる緑色の瞳と目があった。
「もう……どこにも行くな」
切なげに目を細め、そう囁かれ、私の心臓は止まりかけた。




