15.ノルン、ミツケタヨ!!
日が暮れたのか、辺りは薄暗かった。
目をこらして、岩の隙間から外をのぞき見る。すると、子どもの足のようなものが、岩の前に立っていた。
こちらを……みているの……?
ドキドキと心臓の鼓動が速くなる。
こんな森深くに子どもがいる可能性は低い。
子どもの姿をした……魔物と考えた方がいいかもしれない。
魔物は力が強いものは変化能力があると聞いたことがある。
知能がある魔物は強く、残虐だとも。
『ヤチヨ……出てきて。おねがい……っ』
子どもの声が震えて、まるで泣いているようだった。
ヤチヨ……。
初代聖女様と同じ名前。
もしかして、この子どもは初代聖女様に食べられた魔魚の子どもなのだろうか!
たしか……カラカラに干し、その身を削り巨釜で茹でて成敗した……んだっけ。
恨まれてる!?絶対に恨まれてるよねっ!
「ご、ごめんなさいぃっ、私はヤチヨ様じゃないけど、同じ聖女なので謝りますっ……」
『ヤチヨ……じゃないの?聖女……?』
悲しそうな声色に、なんだか段々かわいそうになってくる。
魔魚の子どもだとしても。
同じように悲しむ心を持っているのだとわかると、胸が締め付けられた。
ほふく前進でゆっくりと岩の隙間から顔を出すと──真っ黒な色が目に入った。
私と同じ黒くて長い髪に、赤い瞳。人の姿を保っていても、腕や頬に綺麗な鱗が生えていた。子どもの姿なのに、その美しさに息を呑む。
これは……魔魚の妖精さん……!?
「こんにちは。あの、私はノルン。あなたは……ヤチヨ様の……」
『トモダチ。ヤチヨと約束……した。でも、ヤチヨ、来ない。ずっと、ずっと……』
魔魚の妖精さんはポロポロと涙を流した。
カラカラに干して、その身を削って巨釜で茹でたんだよね!?それなのに友達……。なんて健気な妖精さんなんだろう。
きっと、何か約束したのに、初代聖女様は果たせずに死んでしまった。魔魚の妖精さんは、長い間初代聖女様を待っていたのかもしれない。初代聖女様って……。
『ヤチヨ……。嫌いになったの……?会いたい……っ』
魔魚の妖精さんは、悲しそうに涙を流している。その体からジワジワと黒い霞が涌き出てきて目を丸くした。
瘴気……?
竜ではなく魔魚からも瘴気は発生するの……!?
魔魚の妖精さんにそっと手を伸ばし、小さな頭をそっと撫でた。
「ヤチヨ様のことは、ごめんなさい。私にできることがあれば……」
「ノルン……。代わり、してくれる?」
「代わり……?」
何を──そう訊こうとしたところで、魔魚の妖精さんは姿を消してしまった。
「消え……ちゃった……」
魔魚の妖精さんが消えたところには、うっすらと黒い靄だけが残っていたけれども、靄も風邪が吹いてどこかに飛んでいってしまった。
呆然としていると、
「ノルン、ミツケタヨ!!」
蔦にしがみつき、こちらへジャンプしてきたゴンちゃんらしき人と目があったが、そのまま茂みへと消えてしまった。
「ご、ゴンちゃん!?」
蔦が切れてしまったのだろうか!?
心配していると──
「ノルンっ!」
岩山の上からアレクシス殿下やエド様、リドディア様が顔を出し、傾斜を下ってくる。
「よかった……っ」
一番先に駆けつけてきたアレクシス殿下に抱きしめられた。




