1.聖女様の名前はそこから頂いてポティ・シヴァイーヌにしましょう
「初代聖女様は、ニッポーリから来たヤチヨ様と記載されています。初代様の情報は古すぎてあまり知れ渡っていないので、そこから設定を頂きましょう」
召喚士様──リドディア・ムース様は分厚い古書をめくりながらそう言った。
「初代様は、シヴァイーヌのポティと、タダノネコのタマンが元の世界に居た友達だと話していた、という伝聞があります。なので、聖女様の名前はそこから頂いてポティ・シヴァイーヌにしましょう。これで万が一未来に本当の聖女様が召喚されたとしても嘘だとは露見しないはずです」
見惚れてしまいそうなほどの綺麗な顔で真面目に言われ、私はポカンと口を開けてしまった。
リドディア様は聖女召喚を何代にも渡って行ってきた召喚士一族の末裔だ。聖女様の知識はこの国の中で一番持っている。
だから疑うわけではないのだけど……。
ポティ・シヴァイーヌって響きが何となく胡散臭く感じてしまうのは気の所為だろうか。
まあ、タマン・タダノネコよりはまだいい気がするけど。
「いいですか?ノルン様。ゴンザレス様。あなた達は今日から二人で一人。ニッポーリから来た聖女ポティ・シヴァイーヌです!」
「は、はい……」
「ヨクワカラナイケド、ワカッタヨ!」
メイドのノルンは急用で実家に戻ったことになり、私はポティとしてゴンザレス様と共に偽聖女を演じることになった。ゴンザレス様はそのマッチョな見た目を利用して、ポティの専属護衛として傍にいることに。
メイドとして王宮で働いていたので、ノルンとポティが同一人物だと露見しないかハラハラしていたが、聖女の遺物である姿を変える眼鏡を外すと、私の容姿は黒髪・黒目となって印象がガラリと変わるから同一人物とは誰も思わないと太鼓判を押された。
「さあ、聖女のお披露目まで、ノルン様!ゴンザレス様!頑張りましょうねっ!!」
「ハイ、ガンバルヨッ!!」
「……はい……」
◆◆◆
「リドディア様……本当に……鬼……」
私はぐったりしながら、聖女に与えられた聖女宮の敷地内にある鍛錬場でしゃがみこんだ。
何故聖女に持久力や格闘スキルがいるのだろう……。
ここ数日は教養と、ダンスなどの淑女教育、それに加え戦闘訓練など、わけがわからないほど多岐に渡る聖女教育が詰め込まれていた。
「ノルン、ガンバル!」
この辛い聖女教育の唯一の救いは、一緒に教育を受けているゴンザレス様もとい、友人になったゴンちゃんの存在だ。
遥か遠い国から召喚されたゴンちゃんは、鍛え抜かれたマッチョなボディと、ポジティブな心意気でいつも明るく前向きに私を応援してくれている。
元居た国では、男なのに聖女の力を有しているゴンちゃんはあまり良い扱いを受けて来なかったようだ。
「ココハ、ミンナ、ヤサシイネ。ヒトリ、チガウ。ウレシイ」
教育もあまり受けられなかったようで、召喚陣に翻訳機能もついていて、こちらの国の言葉も話せる魔法がかかっているものの、片言なのは、あちらの国でゴンちゃんが言葉をあまり学べなかったかららしい。
「アッチデハ、ゴンザレスノ、チカラ、カクス。ゴンザレスモ、カクサレタ。ココデハ、チカラ、ヨロコバレル。ウレシイ」
恐らくだけど、聖女の力を持ったゴンちゃんは、その異質さに隠された……幽閉されながら誰にも相手にされず寂しく暮らしてきたのかもしれない。そしてやることがないから体を鍛えたら凄いマッチョになってしまったのだろうか。
私もこの黒髪・黒目に生まれて、碌なことは無かった。だから、ゴンちゃんの気持ちは少しだけわかってしまう。
「ゴンちゃんが一緒で良かった。鬼みたいな環境だけど……頑張ろうねっ」
「ゴンザレスモ、イッショ、ウレシイ。ガンバルヨ!」
こうして私達の友情は深まっていった。
「おい、よく聞けっ!聖女の認定を貰うために、瘴気を浄化することになった。絶対失敗すんじゃねーぞ!!」
そんな私達に、アレクシス殿下は偉そうに言い放ったのだった。