14.帰ったら……苺のケーキが食べたいなぁ……
「こ、ここは……?」
どれくらい気を失っていたのだろうか。石碑の中に吸い込まれて、目を覚ましたら……、木々が生い茂る森の中だった。
「石碑の中の世界……?」
木々は樹齢数百年は経っているだろう大きな大樹ばかりで、見上げても木の先が見えない。柔らかな木漏れ日に、鳥の鳴き声。人一人居なそうな……森の中。
「ど、どうしようっ」
私の情けない声が辺りに響く。
これはまずいかもしれない。
こんなに深い森の中では、魔獣や獣が出てくる可能性もあるし、飲み水や食料を確保できなければ命に関わる。
石碑の中の世界なのか、石碑によって違う場所に転移させられてしまったのかはわからない。
気を抜けば、恐怖で心が埋め尽くされそうになって、パシンと頬を叩いた。
幼い頃に母を亡くして、一人森の中で暮らしてきたから、普通の令嬢よりは生存率は高いはず。そうだ。弱気になっている場合じゃない。生き延びることを優先させよう。
生きていれば、なんとかなるかもしれないから。
「まずは、水の確保と、地形の把握。休める場所を探して……」
木の幹に拾った枝で跡を刻みながら、同じ道を辿らないように進む。耳を澄ませ、湧き水や川の音を探す。柔らかな蔓をみつけ、即席で籠を編む。途中で食べられそうなキノコや草を摘み、籠に入れて食料も確保しながら歩いて行く。
母が教えてくれたこと。
森での生き方。
数年間森で一人で生活した経験を反芻していく。
生まれ育った森じゃ無いけど、生えている草や植物はそう変わらなそうだから、大丈夫。
「よし、足場に気をつけて……あっ、水の音が聞こえた!」
かすかに水の流れる音がする。深くなる森は傾斜になり、岩が増えてきたから、近場に川があるのかもしれない。
足を取られないように、ゆっくりと傾斜を下った。
どれくらい歩いたのだろう。森の中に流れる小川に辿り着いた。これで水は確保でき、ホッと胸を撫で下ろす。
川辺には苔の生えた大きな岩が沢山あり、岩と岩が重なり合った隙間に入れば、一晩越せそうだ。この狭さなら他の野生動物や魔獣も入ってこられないし、安全な場所を見つけて安堵の息を吐く。
岩の隙間に潜り込み、一休みする。
途中で摘んだ草を口の中に入れムシャムシャと噛みしめる。この草は甘露草といって、甘い汁が出て美味しいのだ。
「帰ったら……苺のケーキが食べたいなぁ……」
お腹いっぱいに、ご馳走を食べたい。
でも、みんなの元に帰れるのならば……何もいらない。
小さい頃はずーっと一人だったのに。
エド様と出会って、ミーティル家の人達と家族になって。
王宮でメイドとして働いて、同僚と仲良くなった。
召喚されて、『聖女・ポティ』になって。
ゴンちゃんやリドディア様……そしてアレクシス殿下と仲間になって。エド様とも再会して。
私の周りはとっても賑やかで。
こんな風に一人で森で過ごしていた日々など忘れてしまっていた。
戻りたい。
そう思える場所ができたのは、奇跡なのかもしれない。
「大丈夫。大丈夫……っ」
小指に嵌まったままのアレクシス殿下から借りた指輪を握りしめながら蹲った。
いつの間にか眠ってしまったのか、何かの気配で目を覚ました。
『ヤチヨ……ヤクソク……』
幼い子どものような声が間近で聞こえた。




