12.え?そうなんですの?
「この神殿の鍵は、我がマレンディール公爵家当主にしか見えない魔法が施されています」
「え?そうなんですの?」
「ああ。当主のみに伝えられる秘密なのだ。聖女様ご一行にならば惜しみなくお伝えしましょう」
公爵が神殿の扉の鍵を開けるが、鍵自体は本当に見えなかった。キャスリーン嬢も知らなかったようで、アレクシス殿下が必死に聖物を探しても情報が得られなかったわけだ。当主しか知らない情報なのだから。
それにしても……。
公爵の視線が熱い。ものすごい熱気を含んだ視線を感じる。
闇に呑まれていたときには聖女を廃そうとしていたようだが、葉っぱに浄化されたら、聖女信仰に目覚めてしまったのだろうか。
神殿の通路には、歴代当主の肖像画が飾られていた。そして、一番奥には、黒髪・黒目の女性の肖像画があり……この女性が、初代聖女様、ニッポーリから来たヤチヨ様?
長い艶やかな黒髪をなびかせ、優しそうに微笑む彼女は、リドディア様が語る、色々な危険を冒す初代聖女様とはかけ離れた、儚い女性に見えた。
「彼女はマレンディール公爵家の始祖であり、初代聖女のヤチヨ様です。こうしてみると、聖女様とよく似ておられますね。我が家にはこの肖像画しかヤチヨ様についての情報は残ってないのですが、きっと聖女様のような方だったのでしょうね」
うんうんと頷く公爵に、私は首をかしげた。
「肖像画だけ……?でもリドディア様は色々初代聖女様の記録を……」
「我がムース家は聖女召喚に携わり、特殊な形で記録を後世まで遺しています。初代聖女様については、かなり昔の話なので、現代まで幾度も戦争を繰り返しているラスティーノ王国で記録が残っている方が珍しいのですよ」
コッソリとリドディア様に訊くと、そう返答される。なるほど。リドディア様の一族にしか伝わっていない記録が沢山あるのか。
大きな魔魚をつかまえて、カラカラに干し、その身を削り巨釜で茹でて成敗したとか、腐った豆も平気で食べていたとか、オテダマンという武器を華麗に使いこなしていただとか、そういった情報は、この儚げな肖像画を敬っている公爵には知らせない方がいいんだろうな。
初代聖女様の肖像画を背に、しばらく進むと、祭壇へと繋がる通路へと出た。
「祭壇への道を開くには、当主の血が必要となります」
公爵は躊躇なく自分の指を小刀で切り、魔方陣のような図が描かれた上に血を落とす。すると、図が光り出し、空間が歪み、目の前に祭壇への道が現れた。
しかし、その道からは黒い霞が漂ってきていた。
「っ……、なんてことだ、祭壇にここまで瘴気が漂っているとは……っ」
公爵が顔を苦しげに顰める。やはり、聖物は闇に呑まれて瘴気を発してしまっているのだろうか。
「マレンディール公爵、ここからは、私たちだけで進もう。聖女様の力は繊細で強力なため、我々特殊な修行を受けた物しか浄化の儀でお側に居られないのだ」
「なんと……、そうでしたか。危険な場所へ聖女様たちや殿下をお見送りするしかできないなんて……非力な我らをお許しください。祭壇はこの奥です。どうかご無事でお戻りください」
「聖女様っ……ゴンザレス様っ……、みなさま、わたくしも、心よりご無事をお祈りしておりますわ。どうか、宜しくお願いいたしますっ」
……。キャスリーン嬢、アレクシス殿下とリドディア様まとめて言ったな。本当にもう、アレクシス殿下のことはどうでもいいのだろうか。ゴンちゃんへの熱い視線に、あれだけ被害を受けていたアレクシス殿下がやっぱりかわいそうに思えてしまった。
「……なんだ?その目は……」
「い、いえっ!なんでもないですっ」
慌てて視線を逸らした。私にまでかわいそうだと思われていると知ったら、更に殿下が不憫になってしまう。
「では、行って参ります」
『聖女・ポティ』と、護衛のゴンちゃん、眼鏡で変装したエド様、リドディア様、アレクシス殿下で瘴気の満ちた祭壇へと歩を進めた。
◆◆◆
「クロイケムリ、イッパイ、キエテ!」
ゴンちゃんがミーコの舞で使っていた舞用の剣を振り下ろすと、私たちの周りの瘴気が一気に浄化された。
しかし、聖物を浄化していないため、すぐに瘴気が満ちていく。
「ゴンザレスくん、ありがとう。これではきりが無いから聖物を早く探してしまおう」
「ワカッタヨ!アッチ、ケムリ、タクサン!」
「あっちだねっ!」
「おい、ノルンっ、勝手に動くな!」
ゴンちゃんの指さす方へ駆け出すと、祭壇に宝石のような石が埋め込まれた石碑が祀られていた。
石碑の文字は所々ヒビがはいっておりよく読めない。宝石のような石は……薄く、まるで……
「鱗……?」
まさか……初代聖女様が捕まえて食べたという魔魚の鱗だろうか。私の手のひらくらい大きな鱗に、魔魚も大きかったのだろうなと想像できて、ますます初代聖女様があの儚げな肖像画の女性と結びつかなくなってしまう。
『聖女……待ってた……』
石碑から声が聞こえたような──。
そっと指を伸ばした。
「ノルンっ……無闇に触れるな、バカッ──」
「え……?」
石に触れた瞬間、目映い光が溢れ、何かに引き込まれるように体が軽くなり……石碑に吸い込まれてしまった。
「ええええええっ!?」
クルクルと光の中で空間が回り、私の間抜けな声が響いたのであった──。




