11.元に、戻りましたの……?
わたくし、キャスリーン・マレンディールは、久しく感じていなかった、光溢れる世界に涙が滲んだ。
マレンディール公爵家は、初代聖女様を始祖に持つ由緒正しき家柄だ。
その血筋に誇りを持ち、清く正しく生きることが家訓だったはずなのに、気が付けば湯水のようにお金を使い、豪華な調度品にドレス、キラキラギラギラしたものに囲まれることが素晴らしいという思考へと変わってしまった。
気高き誇りは傲慢さに変わり、権力を振りかざし生きることに快楽を得る。王太子妃になることに執着し、何人もの令嬢を蹴落としてきた。
闇に呑まれるように、わたくしは歪んでいった。
苦しくて。
もうやめたいと、誰かに止めて欲しいと、心の中で叫んでも、どうにもならなかった。
この暗闇の世界から解放してくれたのは──
光に包まれたあの方。
わたくしの重ねた罪は決してなくならない。
傷つけてしまった令嬢達や、傲慢に振る舞ってしまった者達。数え切れないほどの罪は、必ず償うつもりだ。
聖女様からいただいた葉っぱを胸にわたくしは公爵家に帰った。
「キャスリーンっ、どこに行っていたのだ。その無様な格好はなんだ!我が家に相応しい装いというものがっ」
「お父様っ、わたくしは目を覚ましましたの。この家はおかしくなってしまったと気づいてくださいませっ」
「お前……。何を吹き込まれた?」
ギラギラした宝石に彩られた衣服で身を包み、脂ぎった顔で傲慢に振る舞うマレンディール公爵家当主である父の異様さに目眩がした。浄化されるまでは自分もこうだったのかと、恥ずかしさでいっぱいになる。
「お父様、聖物が闇に呑み込まれ、瘴気を発しているかもしれません。聖女様に浄化していただきましょう。そうすれば……元に戻るはず……」
「うるさいっ!浄化などいらんっ。我がマレンディール公爵家がこの国を手に入れる。お前が王太子妃に、後の王妃になれば……それも容易に……」
「は……?」
「聖女など邪魔だっ。我が権力を使い聖女に関わるもの共々亡き者に……」
「ふざけんなよ、クソ親父──」
常軌を逸している父親に、自分の中で何かが切れた音がした。
聖女様を、ゴンザレス様を──絶対に傷つけさせない。
「キャス……」
「いい加減に目ぇ覚ませや、闇に呑まれてんじゃねーよ、クソがっ!!!!!!」
目の前が真っ赤に染まったように怒りで震え上がる。聖女様にいただいた葉っぱを数枚引きちぎり、お父様の口の中に入れ、無理矢理咀嚼させた。
「やめっ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………」
お父様が葉っぱを呑み込むと、優しい光に包み込まれた。
「はっ、わたくしったら、我を失ってなんてことを……。大事な葉っぱをどうしましょうっ」
「ううん……わ、私は一体……。キャスリーン……っ!」
お父様の眼に光が宿る。知的な表情は、幼い頃に見た父のようで……。
「お、お父様……、元に、戻りましたの……?」
「ああ、私はなんてことをしていたのだ。キャスリーン、ありがとう。罪深いわたしは、わたしは……っ」
涙を零すお父様に抱きついた。お父様も闇の中に居たのだ。
闇が消えて……本来のお父様に戻ったのだと、わたくしと同じように罪の意識に苛まれているのだとわかった。
「お父様、聖女様たちから……我が家の聖物について、お話を聞きました。それは──」
◆◆◆
「と、いうことでお父様も正気に戻りましたの。ありがとうございます。聖物についても許可をとりましたわ」
翌日──。
私たち『聖女・ポティ』一行はマレンディール公爵家に招かれていた。
「……葉っぱ、食べさせたんだ……」
ゴクリと喉が鳴ってしまう。
キャスリーン嬢……。やっぱり恐ろしい令嬢なのかもしれない。
清楚に微笑むキャスリーン嬢の横には、渋い感じの公爵が立っていた。
「今までの行いを心より謝罪申し上げます。どうか、我が公爵家をお救いください」
殊勝な態度にアレクシス殿下は驚いていたから、葉っぱを食べる前はキャスリーン嬢同様だったに違いない。ゴンちゃんパワー恐るべしである。
「はい!任せてください」
公爵に案内され、私たちは聖物が祀られた、公爵家の持つ神殿へと向かったのであった。




