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10.なんか……お疲れ様でした



「マレンディール公爵令嬢?」


「アレクシス殿下、わたくし……今までとんだご無礼をはたらいてしまい申し訳ございませんでした。頭の中に靄がかかっていた感じが一気に晴れて……ああ、なんてことをっ……」



キャスリーン嬢は座り込んだまま頭を下げ謝罪する。あのプライドが高く傲慢な性格からは考えられない行動に、アレクシス殿下は動揺しているようだった。



「ずっと、暗い闇の中で、心が蝕まれていくようでした。酷いことを沢山するたびに心が満たされて……。駄目だと、どんなに叫んでも、止められなかった。でも……あの素敵なマッチョと握手した瞬間──全てが解き放たれたのです。ああ、こんなにも心が自由になるなんてっ……」



ポロポロと涙を流しながら話すキャスリーン嬢に、ポカンとしてしまう。濃いメイクが流れおち、凄いことになっている。メイクを維持することに命を懸けていたはずの彼女は、全く気にした様子は無く涙を零していた。まるで、別人のよう──。


まさか、今の彼女が本来のキャスリーン嬢!?

瘴気で心の闇に……呑まれていた……?



「ゴンザレスくんが、浄化したんだね……」


いつの間にか事態を見守っていたらしいエド様がドアの横に立っていた。


「やはり、公爵家は闇に呑まれ掛けていたのですね」


リドディア様まで姿を現す。


「ゴンザレス、イッテイイ?」


ドアから顔を出し、二人に訊くゴンちゃんに、エド様は優しく頷いた。



「カナシイ?ドコカ、イタイ?」


号泣するキャスリーン嬢に駆け寄ったゴンちゃんは、ハンカチで涙を拭う。


「マッチョさまっ……」


「ゴンザレスダヨ!」


「ゴンザレス……様……」


何かが生まれた感じだった。



「おい。どーいうことだ、これは」


「アレクシス殿下、なんか……お疲れ様でした」



一生懸命苦労したはずのアレクシス殿下に哀愁を感じてしまう。ゴンちゃんに全て持って行かれた感があるよね。でもゴンちゃんの浄化で、キャスリーン嬢は救われたのかも知れない。



キャスリーン嬢が落ち着くのを待ち、私たちは応接間に移動したのだった。



◆◆◆


「我がマレンディール公爵家が……闇に……」


一度お風呂に入ってメイクを落とし、髪を下ろしてシンプルなワンピースに着替えたキャスリーン嬢は、吃驚するほど清楚な美人だった。


応接間のソファに腰掛けながら、瘴気についてと、マレンディール公爵家の聖物が闇に呑まれている可能性があることを説明する。キャスリーン嬢は驚いた表情で言葉を詰まらせた。


「聖女様にも失礼を働いてしまい申し訳ございませんでした。どうか、どうか我が家の聖物を浄化していただけませんか。わたくしはどう断罪されてもかまいません。三大公爵家である我が家の聖物が瘴気に侵されれば……この国は破滅に向かってしまいますわ……それだけは避けなければ……っ」



誰だろう。この国を思う清らかな令嬢は。

浄化パワーの凄さを思い知り息を呑む。


私のことは『聖女・ポティ』で、ゴンちゃんは護衛だけど、ポティから力を貰って浄化を手伝っているマッチョ、という認識で誤解してくれたみたいだった。


あんなにアレクシス殿下に恋い焦がれていたのに。

今では上司を見るような目で見ており、熱い視線はゴンちゃんへと注がれていた。


アレクシス殿下……。

不憫になって、何も言えなくなった。



「その、マレンディール公爵家の聖物を浄化するには、公爵家に出向き、聖物実際に見せていただくことになりますが、ご当主へ話をつけていただけますか?」


「勿論ですわ、聖女様。ああ、寛大なお心感謝いたします。すぐに父に話を通しますので、お待ちくださいませっ」


でも、公爵家に戻ったらまた心が闇に呑まれてしまわないだろうか。

不安に思っていると、リドディア様が葉っぱが沢山ついた枝を差し出した。これは、ミーコの舞で私が使っていた葉っぱ!?


「ゴンザレス様が浄化をかけた聖物です。闇を弾くでしょう。これを持って公爵家へ帰って頂けば問題ないかと」


コソッと耳打ちされる。

え?キャスリーン嬢がこの葉っぱを持って帰ったら、みんなビクリするんじゃ……。


でも、これしかないのか。



「キャスリーン嬢。これをお持ちください。闇を弾く葉っぱです」


「ああ、神々しい。ありがとうございます。必ずや父を説得いたします!」


こうしてキャスリーン嬢は葉っぱを片手に公爵家へと帰っていったのであった。





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