9.ゴンザレスニ、マカセテ!
「………?」
なんだろう。このモヤモヤする気持ちは。
言葉に出来ない……変な染みが心に広がっていくような感覚がして首をかしげる。
「アレクシス、タイヘン……」
「そうだね、ゴンちゃん」
心配そうにアレクシス殿下を見るゴンちゃんに、そうか、と納得する。
きっと、昨日も疲れ切っている殿下を見ていたから、心配なんだ。
このモヤモヤは、心配のモヤモヤ。
そう分かればスッキリする。はずなのに。
「ノルン、ゲンキナイ?」
「ううん!大丈夫だよ。私も、アレクシス殿下が心配なの。昨日元気なかったし、疲れているみたいだったから」
アレクシス殿下は王太子になって、ゆくゆくはこの国を背負っていく人だ。キャスリーン嬢を選ぶかはわからないけれども、それなりの貴族令嬢と婚姻する。『聖女・ポティ』ともいつまで行動を共にするのかもわからない。
瘴気を浄化して。竜の復活を阻止したら。
私とゴンちゃんはどうなるのだろう。
キャスリーン嬢が現れて。急に未来について考えてしまった。
私はまたメイドに戻るのだろうか。
エド様は冒険者を続けるのかな。そうしたら、私とゴンちゃんも仲間に入れて貰って、世界を冒険するのも楽しいかもしれない。でもそこには……きっとアレクシス殿下は居ないんだ。
返しそびれていた小指の指輪をギュッと握りしめる。
リドディア様だって『聖女・ポティ』について記録をまとめたりするのかもしれないから、一緒には冒険に行けないかも。
『聖女・ポティ』として、アレクシス殿下と、エド様。リドディア様とゴンちゃん。そして私──五人で過ごすのが当たり前になっていた。
けれどもいつかは終わりが来る。
アレクシス殿下が治めるラスティーノ王国を、遠くからそっと見守る日が、来るかも知れない。
「ノルン……?」
「い、今はそんなことを考えている場合じゃないよねっ。うん、どうやってキャスリーン嬢に穏便に帰って貰うか……」
「ゴンザレスニ、マカセテ!」
そう言ってゴンちゃんが部屋から飛び出してしまった。
「ご、ゴンちゃんっ!?」
「コンニチハ、ゴンザレスデス!」
そして、何故かキャスリーン嬢に挨拶していた。
◆◆◆
「なっ、なんですの、このマッチョは!」
「ゴンザレスダヨ!」
キャスリーン嬢は突然現れたマッチョなゴンちゃんに驚いて、若干被っている猫が取れかけていた。
「失礼、マレンディール公爵令嬢。ゴンザレスは聖女様の専属護衛です。ご挨拶したかったのだと」
「アレクシス殿下っ、い、いいんですのよ。少し驚いただけですわ」
手を差し出して握手を求めるゴンちゃんに、顔を引きつらせながらキャスリーン嬢が手を重ねた。
「クロイケムリ、ナクナレ──」
ポツリとゴンちゃんが呟くと、温かい光がキャスリーン嬢を包み込んだ。
「なっ……」
「おっと、君の美しさが溢れ出して光り輝いているようだ。ね?キャスリーン嬢」
「ふぁぁぁぁぁぁ!!!!!アレクシス殿下っ!!!!」
いきなり浄化してしまったゴンちゃんの力を誤魔化すように、アレクシス殿下がキャスリーン嬢を王子オーラで悩殺する。キャスリーン嬢は耐えきれずに腰を抜かし座り込んでしまった。
隙を見てゴンちゃんを回収する。
「ごごごご、ゴンちゃん、どうして……」
「クロイケムリ、コマラセテタ。ケシタラ、ノルン、ゲンキナル?」
「私の……ため……?」
黒い煙とは……瘴気のこと?
それがキャスリーン嬢に纏わり付いていたのを聖なる力を持っているゴンちゃんには見えて、それを浄化してくれたのだろうか。私が元気が無かったから、瘴気のせいだと思って……。
「ありがとう、ゴンちゃん。でも、無茶しないでね。キャスリーン嬢は危険な人だから……って、浄化されたキャスリーン嬢ってどうなったんだろう……」
こっそりとドアの隙間から覗くと──
「い、今の素敵なマッチョはどこに行ってしまわれたのかしら……」
と頬を染めて探すキャスリーン嬢が居た……。




