8.でも次からは禁止だ!
いつになく弱々しいアレクシス殿下に息を呑む。こ……これは──
疲れている……疲れているのね、殿下っ!!
今私は真っ白な聖女服を着ている。マレンディール公爵家は全てがキラキラギラギラと派手派手しい色で統一されていた。キャスリーン嬢も同様に、着飾っていたから……。酷使された殿下の眼が癒しを求めているのかも。それにキャスリーン嬢の香水の匂いは強烈だった。
国の未来の為といえども……少しアレクシス殿下がかわいそうに思えてしまった。
「アレクシス、ツカレテル?」
いつも私にするようにゴンちゃんがアレクシス殿下をヨシヨシと撫でる。殿下はされるがままに机に伏せている。ゴンちゃんに癒やされているのだろうか。
「ノルンモ、ヨシヨシ、シテアゲテ!」
「えぇ!?」
「ハヤク!」
ゴンちゃんに促され、そっとアレクシス殿下へと手を伸ばす。柔らかな髪に触れてしまい、心臓が鼓動を早める。
わ、私……不敬罪で捕まったりしないよね……?
ビクビクしながらアレクシス殿下の頭を撫でると、勢いよく殿下が目を開ける。
「っ……!?!?な、なにを……っ」
「えーっと……」
「アレクシス、ツカレタ、ノルント、ヨシヨシシタ!」
「ヨシヨシしましたっ!」
驚いた表情をしていたけれども、私とゴンちゃんの言葉を聞き、深いため息を吐いた。
「ツカレ、ヨクナッタ?」
「あーーー、くそ、よく聞け、無防備な頭を撫でるのはな……」
「ヨクナッタ?」
「良くなった!でも次からは禁止だ!」
ゴンちゃんの純粋な瞳に見つめられ、流石のアレクシス殿下も怒れなかったようだ。良かった。不敬罪は免れた。
「いやー、若いねぇ……」
何故かエド様は微笑ましそうにアレクシス殿下を見ていた。
このときは、若干人ごとにように思っていられたのだけれども、翌日……見事に巻き込まれるとは思ってもみなかったのだ。
◆◆◆
「アレクシス殿下ぁぁぁ!!本日はわたくしが会いに参りましたわ~!」
聖女宮の入り口に、眼を開けるのもチカチカするほどの豪華な馬車が停まり、中から現れたのは、原色カラーが所々に散り込められ、宝石で光り輝く眩しいドレスに身を包んだキャスリーン嬢だった。
な、なんで、キャスリーン嬢が聖女宮に……!?
「わたくし、思いましたの。殿下にばかり我が家に出向いていただいて申し訳ないなって。会いたい気持ちは同じですわ。ならば、わたくしもアレクシス殿下の元へ会いにいかねばと!!喜んでくださいました?殿下っ」
「マレンディール公爵令嬢……」
「もうっ、キャスリーンとお呼びくださいとあれ程言いましたのにっ。恥ずかしがり屋なんですわね。さあ、聖女宮を案内してくださいませーっ」
強烈だ。
約束も取り付けずに訪問するのは失礼にあたるのだけど、全く気にしていない。
護りが固い聖女宮にも押し入る強引さ。アレクシス殿下も咎めたいのに、マレンディール公爵家を探る任務があるため下手に口出しできない様子だった。
「ご、ごきげんよう、キャスリーン嬢。先日はお茶会にお招きいただきありが──」
「あら。聖女様。ごきげんよう。お邪魔しますわよ、さあ、お茶を出してくださいなっ」
一応聖女宮の主として挨拶してみたが、軽く流され、キャスリーン嬢はアレクシス殿下の腕に自身の手を絡めてわがまま放題だった。
「こ……これは……どうしたら……」
「アレクに任せよう。俺たちが刺激したらもっと面倒なことになる気がするからね」
エド様はそう言って私とゴンちゃんを奥の部屋に促したのだった。
ドアの隙間からゴンちゃんと様子をのぞき見していると、
「アレクシス殿下ぁ~!」
アレクシス殿下がキャスリーン嬢に抱きつかれていて。何故か胸がズキンと嫌な音を立てた。




