6.これは非常にまずいかもしれないね
「お帰りなさい。ノルン様、ご無事でなによりです。殿下が慌てて消えてしまったので何かあったのかと心配していたのですよーっ」
「リドディア様っ、ご心配をおかけしました。大丈夫、無事に生きて帰れました!!」
一人留守番をしていてくれたリドディア様に出迎えられ、帰ってきたのだとホッとする。
広間に集まり、一息ついたところでお茶会の報告をした。
「キャスリーン嬢は『聖女・ポティ』を完全に敵として見ているようでした。恐らく国や公爵家のことはあまり考えていない様子で……恋敵として認識されている印象を受けました」
「なるほど……」
三大公爵家の令嬢が国のことも公爵家のこともお構いなしで突っ走るなんて頭を抱えてしまう状態にエド様は苦笑する。
元王宮メイドとしてもその危うさは分かってしまう。これは……アレクシス殿下が婚約者にできないわけだと……失礼ながら納得してしまった。
「ノルン、イジメラレタ……?」
ゴンちゃんが心配そうに言ってくれてゴンちゃんの優しさが胸にしみる。
「その、……令嬢が行う典型的ないじめは一通り試されたという感じ……です。お茶会の席が用意されてなくて立たされたり、お茶をいれろと促されたり……」
「うわーっ、陰湿ですね」
リドディア様は顔をしかながら、キャスリーン嬢たちのいじめに引いているようだった。エド様もアレクシス殿下も表情を険しくしている。
「令嬢にとってはいじめになるのでしょうが、私はメイドでしたので普通にやり過ごせました。その後アレクシス殿下の婚約者にはキャスリーン嬢が相応しいことを力説され、同意したのですが、お菓子の誘惑に勝てずにお菓子食べてもいいですかと聞いたらお茶を頭からかけられそうになって、指輪がお茶を跳ね返してくれたのです。でもお茶がキャスリーン嬢へかかってしまい、激高されて扇で殴られそうになったところでアレクシス殿下が間に入ってくださったんです」
「……お菓子……。まあ、それは置いておいて、聖女様に手を出そうとするなんて、マレンディール公爵家はなにを考えているのかな」
「ノルン、ヨシヨシ、スル」
静かに怒るエド様と、泣きそうになりながら私の頭を撫でてくれるゴンちゃんに、心がじんわりと温かくなった。
「アレクシス殿下が助けてくれたから……大丈夫ですよ」
アレクシス殿下に視線を向けると、思いっきり視線を逸らされた。な、なぜ……!?
「アレクがノルンが傷つけられる前に助けてくれて良かったよ。まあ、これで、マレンディール公爵令嬢は限りなく黒に近いことが分かったね。『聖女・ポティ』を害そうとしていたのは、マレンディール公爵家か──」
もしくは、キャスリーン嬢の単独での暴走か……。
その可能性が高いような気がする。
「アノイエ、イヤナカンジシタ。ダカラ、タクサン、オイノリ、シタ」
「ゴンちゃん……?」
聖なる力が使えるゴンちゃんが、嫌な感じがしたということは……。マレンディール公爵家になにか邪悪なものがいたということだろうか……?
「少し良いでしょうか。我がムース家に残る初代聖女様の記録と、エドワルド殿下の瘴気の発生場所について照らし合わせてみたところ……。初代聖女様が浄化の儀式を行ったところを中心に、現在瘴気が発生していることがわかりました。初代聖女様は、聖物に祈りを込めて汚れた地に奉納しその土地を浄化していた。その聖物が時間と共に朽ちて、瘴気が発生していると仮定できます」
リドディア様が、真剣な表情で資料を見ながら話し始める。今、ラスティーノ王国に発生している瘴気は、遙か昔に初代聖女様が聖物で浄化していたものが、時を経て聖物が朽ち果てて浄化できなくなったことで溢れ出た……?
「マレンディール公爵家が黒幕に近いという推測が私は不思議でなりませんでした。初代聖女様はラスティーノ王国の王子と婚姻し、その子どもが今の三大公爵家となり現代まで受け継がれている。マレンディール公爵家が聖女様を蔑ろにするなど考えられないことなのですが……」
え?三大公爵家ってそうだったの!?
とても偉い公爵家だと思っていたが、まさか、初代聖女様の血を受け継いでいたなんて。
だから……キャスリーン嬢は「尊い血」と言っていたのか。
召喚された聖女よりも初代聖女の血を受け継ぐ自分の方が相応しいと思った……?
「三大公爵家には初代聖女様が我が子へ受け継がせた聖物があるといわれています。もしも今ゴンザレス様が仰った嫌な感じというものが、公爵家で受け継がれている聖物が他の聖物同様に効力を無くして邪なものが溢れ出ているのを感じ取られたのだとしたら……」
「さすがは記録の長とも呼ばれるムース家だね。我が国の内情をここまで知り得ているなんて。しかし……これは非常にまずいかもしれないね」
よくわからないが、深刻な雰囲気になっている。
三大公爵家の聖物が効力をなくすことがそこまでまずいことなのだろうか……。
「マレンディール公爵家にもう一度行く必要があるね」
エド様の視線が私とアレクシス殿下へ向けられたのであった。




