3.どう見ても……マッチョだ
「…………」
「おい、ゴミ召喚士。どーいうことだ……」
アレクシス殿下の静かな怒りに、部屋の中が凍り付きそうな空気になる。
何故マッチョが召喚されてしまったのか。
「ひぇぇっ、この召喚式が間違っているはずはないのにっ……。か、彼にも鑑定をしてみましょうっ……!!」
召喚士様は泣きそうな表情をしながら、藁にも縋る思いで、マッチョな彼の手の上に水晶玉をのせた。すると──。
パァァァァァァァ──と部屋一面を照らすほどの光が水晶玉から発せられる。
「おおおお、この光は、間違いないっ……!!殿下、この方が聖女様ですぅぅぅ!!!!」
鑑定士様が歓喜の声を上げる中、アレクシス殿下は頭を抱えていた。
「おい……召喚士。『聖女』を召喚してくれと言ったはずだ。どう見ても……マッチョだ」
「ゴンザレスデース」
マッチョ……もといゴンザレス様は陽気に挨拶する。この国の聖女像とはかけ離れ、性別すら違う彼を、どうしたものかとその場が困惑に包まれる。
「ご、ご容赦くださいっ、もう再召喚できる魔力は残っていません。どうにかこのゴンザレス様で乗り切るしかっ……」
「なに言ってんだ。頭沸いたのかお前。こいつにどんな力があろうと、我が国が聖女信仰強いの知ってんだろう!?聖女と言えば見目麗しい異世界の女ってイメージだ。マッチョ連れてってどうなるか……」
「な、ならばっ!!」
召喚士様がバッとこちらを振り返った。パッチリと目が合って、嫌な予感しかしない。
「初代聖女様の特徴を持つあなたと……聖女様の力を持つゴンザレス様……」
──待って、本当に嫌な予感が……!
「それならば、二人で一人の聖女様にしてしまえばいいのではないでしょうか!?表に立つのはノルン様、力を使うのはゴンザレス様……これですべて解決です!!いかがですか!?」
名案とばかりに、輝く笑顔を見せる召喚士様の言葉に、私もアレクシス殿下も押し黙ってしまう。
それは、みんなを騙すことにならないだろうか。
偽聖女になってしまうのでは?
ゴンザレス様だって、急に召喚されて、いいように使われてしまうのはかわいそうじゃ……。
「タノシソウネ!ゴンザレスハ、サンセイヨ!!」
一番乗り気……!?
「……リスクは高いが……やむを得ないか……」
ボソリとアレクシス殿下が呟き、偽聖女で凌ぐ空気になっている。これはまずい。だって、平凡な私に聖女様なんてできるはずがない。
「わ、私には……」
「聖女様の文献なら全て頭に入っています。私の知識を総動員すれば、絶対に、露見しません。なので、私を処分するのはやめていただけると……」
「いいだろう。お前を聖女の側付きに命じてやろう。バレたら即刻首を落とすからな」
「ひぇぇっ、それだけはご勘弁をぉぉぉ」
私に構わず話が進んでいく。ここで、拒否しないと、本当にまずい。勇気を振り絞って声を上げた。
「私にはできませんっ!聖女様に成りすますなんて、無理です。私なんかじゃ……」
「……できないんじゃなくて、やるんだよ。王宮に仕えるメイドなら、王族に従うのが定めだよなぁ。保障はしっかりしてやるよ。文句言わずに従え!!わかったな!!」
もの凄い圧で睨まれた。これはもう……断れない空気だ。
「は、はぃ……」
こうして私、ノルン・ミーティルの運命は、とてつもなく激変してしまったのだった。
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