4.では、お菓子をいただいてもいいですか?
「ようこそ、聖女様」
花のように微笑み、私を出迎えてくれたのは──キャスリーン・マレンディール公爵令嬢だった。
ピンクゴールドの美しい髪をクルクルと豪華に巻き上げ、濃い化粧に強烈な香水の匂い……。王宮で見かけた記憶の中の彼女と全く変わっていなくってすぐに分かった。お茶会の席についている彼女の取り巻き令嬢達も派手な見た目で、目がチカチカしそうだ。
「お招きいただきましてありがとうございます。ポティ・シヴァイーヌと申します」
「キャスリーン・マレンディールですわ。さあ、席にお着きになって。あら?申し訳ございません。席がひとつ足りなかったようです。用意させるまでしばらくお待ちになってくださいませね」
申し訳なさそうな表情をしているけれども、令嬢達はクスクスと笑いを零している。
これはわざとか。
お茶会に呼んで立たせたまま会を進行する。先輩メイドからも聞いたことのある、お茶会いじめの典型的なものだ。
やはりキャスリーン嬢は、私が『聖女・ポティ』だからといって手加減するつもりは無いらしい。敵意をヒシヒシと感じる。
「立ってお待ちになるのもお暇ですわよねぇ。そうだ!聖女様。わたくしたちにお茶をいれていただけません?教養ある聖女様ならさぞ美味しいお茶をいれてくださるのでしょう。ねぇ?みなさま、楽しみですわね」
「まあ!加護が得られるかもしれませんね。是非頂戴したいですわ」
「聖女様、お願いいたします」
ここ、これは……!!
典型的ないじめその2!!
普通貴族令嬢はお茶などいれない。それは使用人がする仕事だからだ。お茶がいれられずあたふたする姿を見て笑い、いれたお茶も不味いと言ってその場で捨てるという……。
先輩メイドから聞いたときには、「貴族令嬢って陰湿だな……」とゾッとしたのを覚えている。
しかし、私にとっては──
「はい。わかりました」
ニッコリと微笑んで、ティーポットに手を伸ばした。
王宮メイドとして何年も働いたから、お茶をいれるのなんて朝飯前なのだ。手際よくお茶を注ぎ、令嬢たちへとお出しする。
「どうぞ」
「え…………」
呆気にとられたような令嬢達だったけれども、キャスリーン嬢だけは表情を崩さずにお茶に手をつけた。
「まあ、美味しそう。さぁ、いただきましょう」
令嬢達を促してお茶を飲む。誰一人言葉を発しなかったが、お茶を捨てる令嬢はひとりも居なくてホッとした。
「聖女様は異世界から召喚されたのでしょう?召喚される前はどこぞの小間使いでもしていたのかしら。だからお茶を上手にいれられますのね」
「召喚に関わることについては公言できない決まりですので。でも、お茶をお褒めいただきありがとうございます」
メイド時代に鍛えたメイドスマイルで敵意を跳ね返す。ビクビクしてお茶会に臨んだけれども、嫌みや嫌がらせだけで、今のところ命の危険はなく、メイド時代に覚えた貴族への対応方法で何とかなりそうだ。
「……ふうん。聖女だからって尊い血が入っているわけではないのですわよねぇ。王族と婚姻し、後世へ血筋を遺せるのは尊い血のみ。アレクシス殿下と親しくされているようですが、勘違いなさらないでくださいませね。あの方と結ばれるべきは、このわたくしなのですから!今日は可哀想なあなたに、現実をわからせるためにお茶会に呼びましたのよ」
「そうです!アレクシス殿下とキャスリーン様は相思相愛なのです!」
「聖女様は立場をわきまえられた方がよろしくってよ」
キャスリーン嬢に続いて、一気に令嬢達も捲し立てる。
なるほど。こうやってアレクシス殿下の婚約者候補の令嬢を蹴落としてきたのか。集団で言い詰められたら、いつも大切に育てられてきた令嬢ならば恐怖だっただろう。
「わかりました。では、お菓子をいただいてもいいですか?」
「は……?」
つい、美味しそうなお菓子を目の前に本音が出てしまった。ポカンとする令嬢達に慌てて口を閉じた。
「随分食い意地が張った聖女様だこと。そうそう、お茶もお出しせずにごめんなさいね。どうぞ」
そう言ってキャスリーン嬢は立ち上がり、こちらへ近づいたかと思ったら、私の頭の上で手にしていたカップを傾けた。
これは典型的ないじめその3!!
飲み物を相手にかけて服もろとも駄目にするいじめだ!!
すごい、キャスリーン嬢。
すべての典型的ないじめを実践してくるなんて。
恐怖を通り越して何故かワクワクした気持ちになってしまった。
って違う!!暢気に傍観している場合じゃ無かった。
どうにか直撃しないように避けようとすると、私の小指の指輪が光り輝き、降りかかるはずのお茶が一気に吹き飛ばされた。
「なっ……!!!!」
「ええっ!?」
そういえば、アレクシス殿下がこの指輪が護ってくれるとか言っていたような……。まさか、攻撃を跳ね返すような魔法でもかかっていたのだろうか!?
私の聖女の衣装にはシミ一つなく。キャスリーン嬢のドレスには弾き飛ばされた紅茶によってシミがいくつも出来ていた。
「聖女様は……聖なる力に護られているのだわっ……」
「まさか、神の天罰がくだされないわよねっ!?わ、わたくし帰らせていただきますっ……」
「わたしもっ……」
サーっと波が引くように令嬢達は慌てて帰って行った。残されたのは、紅茶まみれになったキャスリーン嬢と私だけに。
「だ、大丈夫ですか?」
一応気遣ってみたが、キャスリーン嬢は鬼のような顔で私を睨み付けた。
「ポティ……シヴァイーヌ。よくもわたくしに恥をかかせましたわね……」
キャスリーン嬢が持っていた扇子を振り上げ、私に手をあげようとした瞬間──
「やあ、マレンディール公爵令嬢。ごきげんいかがかな?」
私を庇うように誰かが目の前に立ち、キャスリーン嬢は動きを止めたのだった。




