3.私、きっと生きて帰ってきます
「お、お茶会に、行かなきゃ駄目でしょうかっ」
「三大公爵家からのお誘いだからね。辞退するのは難しいだろう」
ついに、ついに恐れていたマレンディール公爵家の令嬢であるキャスリーン嬢と対峙するときが来てしまったようだ。
裏から『聖女・ポティ』を害そうと色々と手を回しているらしい彼女のお茶会なんて。
危険な香りしかしない。
しかも、『聖女・ポティ』ご指名だけど、実質私が出向くわけで。ご令嬢達のお茶会なんて想像しただけでも魔の巣窟イメージしかない。
しがないメイドだった私には別世界だ。
ドレスとか着なきゃだめだろうか。
あ、お菓子は高級で美味しいのだろうか。
いや、緊張で味がわからないよね、勿体ない。
「百面相だな……」
「えっ!?」
呆れたように言うアレクシス殿下に、エド様はクスリと笑いを零した。
「どうする?やはり第一王子と婚約話が上がっていることにしておく?」
「えっ」
「そうすれば、下手に手出しはしてこないでしょう?」
そういえば……エド様との婚約話が出ていたんだった。
奥の手だよね?いきなり婚約なんて心の準備ができていない。
「兄上、それは……っ」
「アレクは反対なのか?」
「……はい」
揶揄うように言ったエド様にアレクシス殿下は真面目な顔で頷いた。アレクシス殿下っ。やっぱり大好きなお兄さんが嘘でも婚約するのが嫌なのだろうか!
「そうか。ノルン、どうす──」
「私、大丈夫です!お茶会、頑張ります。いざとなったオテダマンをっ」
「オテダマンは置いていこうね」
オテダマンは没収された。
でも、私はアレクシス殿下の気持ちもわかる。婚約って言葉に浮き足だってしまっていたけど、よく考えればエド様は立場上、婚姻することは命を狙われることに繋がりかねない。聖女と婚約したら、王位継承権をまだ諦めていないって思われて、第二王子派に危険な目に遭わせられる可能性が出てくる。
自分の安全よりも、『聖女・ポティ』の安全を考えてくれるエド様の気持ちは嬉しいけど。
婚約しないで解決できるのなら、それが一番だと思う。
今回は女の戦場だから。
護衛も付き人も同行できない。
私が頑張るしかない。
恐いけど。メイドとして王族主催のお茶会の給仕したこともあるから。きっとなんとかなるはず。
「私、きっと生きて帰ってきます」
「ノルン、カオ、アオイヨ!」
決死の覚悟でお茶会に行くことを決めたのだった。
◆◆◆
「おい。ノルン。これつけてけ」
お茶会当日の朝に、アレクシス殿下が私の腕を引き、指に何かを嵌めてくれた。
小指に光るのは、小さな宝石がついた指輪だった。
「ある程度はこの指輪が護ってくれる。絶対に外すな。わかったか?」
「えぇっ!?このような高級な指輪っ、私には──」
「わかったか?」
圧が凄かった。
頷くしか選択肢はなさそうだったので、ありがたく指輪を借りることにした。
緑色の宝石が輝く指輪は、アレクシス殿下の瞳と同じ色。
アレクシス殿下が一緒にいるような気がしてソワソワするけど、少しだけ心強かった。
うん。きっと、無事に帰ってこれる。
「ありがとうございます。アレクシス殿下」
「ああ。何かあったら、すぐに帰ってこい。責任は俺が取ってやる」
「……はいっ!」
アレクシス殿下に勇気をもらって、私はお茶会へ向かう準備をした。
ドレスを着るのは遠慮して、聖女の衣装に身を包む。聖女ですよー、害さないでくださいねーという無言の圧をかけるためだ。
行き帰りの馬車には、心配したエド様とゴンちゃんが護衛の振りをして同乗することになった。
誘拐を防ぐ目的もあるらしい。
でも、マレンディール公爵家の中までは着いては来られない。
ドキドキする胸を押さえていると、馬車が豪華な門の前に停まった。
「ノルン、ゴンザレス、マッテル。タクサン、オイノリシテル!!」
「うん。ありがとう、ゴンちゃん」
「ノルン、何かあったら不敬とか考えずに逃げてきてね。いざとなったら俺の権力使ってどうにかするから」
「はいっ!全力で逃げてきます!」
頼もしい二人の言葉に、緊張が少し和らいだ。
小指の指輪をぎゅっと握りしめる。
大丈夫。
「じゃあ、行ってきます!」
私は馬車から降りて、お茶会へと一歩踏み出したのだった。




