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遠い遠い国のゴンザレス



「男なのに聖なる力の適応者だとっ」


「不吉だ……。隠しておかなければ」



ある遠い遠い国で、一人の赤子が生まれた。

この国では生まれた時に、鑑定石で赤子の適性や魔力値を測定することが義務づけられていた。


月が丸く変化する夜。

「おぎゃあ」と産声をあげた赤子は、母親に抱かれることなく連れて行かれた。


誰が育ててくれたのか。世話をしてくれたのか。

知らないまま、物心ついたときには岩造りの壁に囲まれ、高い位置にある鉄格子がされた窓の光がわずかに差し込む部屋に居た。



遊び相手は、岩の壁だった。


壁に登っては、落ち、登っては落ちを繰り返した。

いつか、あの天辺にある窓から外を見てみたかった。



食事は一日三回。

気が付けば机の上に置いてあり、食べ終わると消えた。


一人で過ごすことが当たり前だった。

一生懸命に岩の壁を登って、いつの日か光の元まで辿り着いた。

岩の部屋とは違う、光の世界があることを知った。色がついた景色を初めて見た。



色のついた世界は、なんて綺麗なのだろう。


力が続く限り、その世界を眺めていたけれども、力が入らなくなると岩の壁を一番下まで滑り落ちた。



なんどもんなんども、光の差すところまで登った。


耳を澄ませると、声が聞こえる。


自分にもあんな声が出せるのだろうかと、見よう見まねで口を開ける。


「あーーーー」


喉が痛くて、掠れたものしか出なかった。それからは毎日声を出す練習をした。



色のある世界を見ながら、声を出す練習をする。


喉を痛めずに声が出せるようになった頃。

色のある世界が自分に近づいてきた。



「お前がおばけの正体か!?」



いつも耳を澄ませて聞いていた音がすぐ傍で聞こえた。



「おばけの塔から毎日声が聞こえるってみんな怖がってたんだ。大人はおばけの塔に近寄ったらだめだって言うけど、俺は勇者だから、おばけの正体を確かめに来たんだ。おまえがおばけか?」



とても綺麗な音だ。

呆然としていると、鉄格子にキラキラとした違う色が現れた。


「俺は魔法で飛べるから、こんな高い塔の窓でもひとっ飛びだ。すごいだろう。なんだ、お前、こどもなのか?仕方ない。暇つぶしにまた来てやるよ」


キラキラした色は、それから何回もきてくれた。


「お前、何も知らないんだな!俺が教えてやるよ!!」


キラキラした色は、自分を勇者だと言った。

言葉を教えてくれた。外のことを教えてくれた。


ある日、たくさんの色がついた本をくれた。

勇者と聖女の絵本だと言われても、よくわからなかった。


よくわからなかったけど、何度も何度もその本の内容を教えてくれた。勇者ゴンザレスと聖女の話。キラキラした物語は一番好きになった。



「お前名前ないのか?じゃあ、ゴンザレスでいいじゃん。この絵本好きだし」


「ゴンザレス……」


「そう!お前は今日からゴンザレスだ!」



名前をもらった。

ゴンザレス。

うれしくて、何度も何度も自分の名前を呼んだ。




しばらくして、何度太陽が昇っても、夜になっても、勇者と名乗る彼は来なくなった。



だから代わりに本を何度も読んだ。

勇者ゴンザレスと聖女の物語。

岩の壁を登っては、色のある世界を眺めては、あのキラキラした色を探した。



「バカな子よね。正義ぶって子どもを助けようとして魔物に喰われるなんて」


「本当。親に捨てられて、自分は勇者だって言って暴れ回ってた子でしょう?」


「勇者なんてこの世界にはいないのにね」



色のついた世界から聞こえる音の意味はわからなかった。


ポロポロと目から水がこぼれ落ちる。



「ユウシャ……」



いつの日か一緒に冒険すると約束したから。

毎日、岩の壁を登った。


そして──岩の壁の部屋から、色のある世界へと呼び出されたあの日。



「ドウモ、ゴンザレスデス……ココ、ドコ?」



勇者じゃなかったけれども、ゴンザレスは『聖女・ポティ』になった。



「ゴンちゃんっ、大好きっ!」



ニコニコと笑うノルンは色は違うけどユウシャに似ている。



「ゴンザレスモ、ダイスキヨッ!!」






~遠い遠い国のゴンザレス~


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