8.大丈夫。いや、心情的には大丈夫じゃないんだけど。
目が覚めたら。
全てが終わっていた。
正直、地割れに巻き込まれてからの記憶は曖昧だ。
アレクシス殿下が過去を思い出してパニックになる私を抱きしめてくれたような……。
いやいや、まさか!
一国の王子に私はとんだ不敬を働いてしまったのでは!?
記憶違いだと思いたい。
でも、アレクシス殿下の視線が、痛いほど突き刺さる。
エド様達に助けられて地上に戻ってから、ずっと視線を感じるのだ。
これは、早めに謝った方がいいのだろうけど。
なぜかアレクシス殿下を直視できないでいた。
遺跡の瘴気は、ゴンちゃんが頑張って全て浄化してくれた。
浄化にはあの大きな鈴を使ってみたらしい。
「リンリンシテ、オモシロカッタ!」
と言うゴンちゃんに、見てみたかった!と眠っていた自分が若干悔しくなった。
私とアレクシス殿下が落ちたところは、岩の洞窟ではなく地下神殿の跡だったらしい。遺されていた書物によると、初代聖女様が大きな鈴を奉納していたようだが、朽ち果てて無くなっていた。それで瘴気が発生したのではないかと、エド様たちが話し合っていた。
ゴンちゃんと一緒に、リドディア様作の鈴を地下神殿へ奉納した。これから先も瘴気が発生しませんようにと願いを込める。
私が願ったところで効果はないのだけど、ゴンちゃんがお祈りすると大きな鈴は光り輝き、浄化の力を発しているようだった。
これで、この地は安泰なような気がした。
「瘴気は……歴代の聖女様が浄化していた。初代聖女様は特に力が強くて、聖物に祈りを込めて汚れた地に奉納しその土地を浄化していたとの記録もある。その聖物が時間と共に朽ちて、瘴気が発生しているのかもしれない……」
「今回の鈴の件がなければ気が付きませんでしたね。エドワルド殿下が調べてくださった瘴気の発生場所と、我がムース家に伝わる聖女様の記録と照らし合わせれば、何かわかるかもしれません」
エド様やアレクシス殿下、リドディア様が難しい話をして、何かを結論づけたらしい。
やはり一回王都に帰ったほうがいいみたいだ。
リドディア様のもつ資料と、エド様の冒険者として集めた情報を分析し、今後の『聖女・ポティ』が浄化すべき場所を選定する必要がある。
なんだか、瘴気を片っ端から浄化するよりも、効率が良さそうだ。これで瘴気に苦しんでいる人達も早く解放されればいい。
そのためには──。
マレンディール公爵家の居る王都へ戻らなければ。
アレクシス殿下の婚約者候補であるキャスリーン嬢が『聖女・ポティ』に危害を加えるリスクは高いけど。
エド様も護衛についてくれると言うし。下手なことはされないだろう。エド様の婚約者になるっていう話は一旦保留にはなっているけれども、万が一の時には……その作戦を行使するっていう奥の手もある。
大丈夫。いや、心情的には大丈夫じゃないんだけど。
「ノルン、ダイジョーブ!ゴンザレスガツイテルヨ!!」
「うんっ!!ゴンちゃん、一緒に頑張ろうねっ」
覚悟を決める。
ゴンちゃんさえ無事ならば浄化は滞らない。もしもの時は、私が『聖女・ポティ』の囮として動けばいい。
「おい、また変なこと考えてないか?」
「えっ!?いいえ、考えてません!!」
聡いアレクシス殿下に探るような視線を向けられ、慌てて否定して
「お前は……目が離せないな」
「えっ!?問題児扱いですかっ!?」
「ああ。問題児だ」
アレクシス殿下の言いように言い返せない。
ちゃんと、役に立ってみせるんだから!
意気込みつつ、あっ……そうだ。と思い出す。
「アレクシス殿下。あの、遅くなりましたが、地下神殿ではお世話になりました。ありがとうございました」
「いきなりだな」
「その……」
「気にするな。お前が世話がかかることは十分承知だ。これからも仕方ないから面倒見てやる」
プイッと視線を外しながら言われる。
よかった。不敬罪にはならないようだ。ホッとしつつ、今までとどこか違った雰囲気のアレクシス殿下に少し違和感を覚えた。
「なるほど……ね」
私たちのやりとりを見て、エド様が微笑ましそうにそう呟いたのは、私には聞こえなかったのだった。




