6.アレクシス殿下、ご心配なさらないでください。
こ、これは──。
薄々感じてはいたけれども……!!
「アレクシス殿下、ご心配なさらないでください。私はエド様をアレクシス殿下から奪うつもりなんて一切ないですからね!」
私はアレクシス殿下を安心させるために、はっきりと言い切った。
アレクシス殿下のエド様への態度から、それとなく感じ取っていたことは、やはり間違っていなかったのだと納得する。
エド様の前では完璧な第二王子を演じて好感度を上げようとしているし、エド様が私と仲良く接していると痛いくらいの視線を感じた。そして、『聖女・ポティ』をマレンディール公爵家から守ろうと婚約者になるとまで言ってくれたエド様に、私が恋心を持っていないかを確認してくるって……。
間違いない。
アレクシス殿下は大好きなお兄様に近づく私に嫉妬しているのだ。兄を取られたくないという……可愛らしいヤキモチなんじゃないだろうか!!
「………なにを言っているんだ?」
名推理を披露したが、アレクシス殿下は心底呆れたような声を出す。
「わかっています。アレクシス殿下がエド様を大好きなことはっ!私みたいな者が親しげにしていたら、それはヤキモチやいちゃいますよね。大丈夫ですよ、エド様の一番はアレクシス殿下に違いありませんから!」
「バカか!お、俺は別に兄上のことは……、それにヤキモチなんてっ!!」
動揺しているのを見ると図星らしい。あんなに偉そうな態度をしていたアレクシス殿下が実は兄大好きな弟だと知ってしまうと、なんだか可愛らしく見えてくるから不思議だ。
「あー、お前と話していると馬鹿らしくなってくるな。俺はただ、お前の傷が浅い内に兄上のことは諦めろと助言したかっただけだ。兄上が誰にでも優しいのは誰も特別じゃ無いからだ。それには俺も含まれているがな……」
寂しそうに言うアレクシス殿下に私はポカンとした。
エド様が分け隔て無く誰にでも優しいのは勿論知っている。でも──
「アレクシス殿下はエド様の特別ですよ」
「は……?」
「幼い頃、王都まで一緒に旅をした際に、話してくれました。年の離れた弟が居ること。とっても可愛いんだって。立ち寄る街でも、弟が喜ぶかなってお土産を買おうとしては、荷物が増えるからやめろって他の仲間の方に注意されるくらい、弟さん宛のお土産袋がパンパンになっていて。ああ、エド様に愛されている弟さんが羨ましいなって何度思ったことか」
まさかエド様の弟が、第二王子であるアレクシス殿下とは思ってもみなかったけど。
「お、俺は兄上にお土産など貰ったことはない。お前の記憶間違いだ。逆に憎まれているはずだ。俺は兄上から全て奪い取ったから……」
「えーー!!じゃあ、あの大量のお土産まだエド様渡せずに持っているんじゃ……。憎まれているなんてあり得ませんよ。だって、アレクシス殿下を見つめる瞳は、誰に向けるよりも優しくなっているの気が付きませんでした?エド様は……」
「うるさいっ。俺は兄上に許されないことをした。俺は……兄上に優しくされる資格など……ない」
二人の間で何があったのかわからない。でも、すれ違っている気がした。なんとか、絡まり合った糸をほどくことはできないだろうか。だって、私は知っている。エド様が嬉しそうに目を細めてアレクシス殿下との思い出を話してくれたのを。大好きだって教えてくれたことを──。
「でも、アレクシス殿下はエド様が好きなんですよね?」
「…………」
「私は、エド様が好きですよ。幼い頃に命を救われて、自分の足で生きていけるように道まで示してくれた。私の英雄です。たとえエド様に嫌われたって、きっとこの思いだけは変わらない。アレクシス殿下もそうじゃないですか?」
「お、俺の方が兄上を尊敬しているし、お前よりも気持ちは大きい!!」
「ふふっ、そうですね。お互いエド様を大好き同士ですね」
やはりアレクシス殿下はエド様が大好きなのだ。そしてエド様も。
「お前の好きは……」
「……?」
何か言いかけて口をつぐんでしまったアレクシス殿下に、私は首をかしげた。何か言おうとした瞬間──
グラグラと地面全体が揺れ出した。
「──っ!?!?」
また地割れが起きたのか、少しずつ瘴気が洞窟の奥から漏れ出してくる。
その様子に私の脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。
谷底──瘴気……大人達……
息が苦しくなって視界がぼやけた
「ノルンっ!?」




