6.見ててください。練習に練習を重ねた……私のオテダマンを……
『ヨシアっ!あんたは、母さんがお腹を痛めて産んだ、可愛くて愛おしい、世界でたった一人の愛する息子だ!どこにいっても胸張って生きなっ。母さんはずっと見守ってるよ。幸せになんなよっ!』
母子で過ごした家から、豪華な馬車に乗せられる時に、母は豪快に笑って見送ってくれた。いつでも帰れると。手紙を出せると。そう思っていた。
貴族にとって平民との交流がこんなにも難しいなど、思ってもみなかった。
今思えば、母は分かっていたのだろう。
これが今生の別れになるのだろうと。
あんなに大きく感じた母は、今では小さな棺にすっぽりと入るほど小さくなっている。
「ヨシアさん。お母さんとの約束、果たしましょう!」
母の死を受け入れられずに、遠回りをした。間違った道を長い間彷徨い、取り返しのつかない所まで墜ちていた。
すくい上げてくれたのは──
「見ててください。練習に練習を重ねた……私のオテダマンを……」
「ノルン、大丈夫だよね?本当に大丈夫だよね?嫌な予感しかしないけど」
「大丈夫ですっ!エド様。私は必死に特訓しましたから。さあ、ヨシアさん、エド様、いきますよっ!!!」
小高い丘に、母の棺が置かれ、聖女様と冒険者様、私で夜空を見上げた。
聖女様が勢いよく何かを空に投げると──
ドカァァァァァァァァァン!!!!!!!!
と大爆発が起きた。
「ノルン──っ!???なにやってるんだっ、わ──っ!!!」
「あ、あれ、威力が……っ、どどどどうしましょうっ!!!」
空一面に広がるほどの大爆発で。色々吹き飛びそうになった所で、冒険者様が魔法で爆発を彼方遠くへ吹き飛ばしてくれたようだ。
その爆発は、いつか母とみた花火のようで。
『また花火を一緒にみようね』
そう約束して、絵に描いて渡したことを思い出す。
天国の母も見ているだろうか。
この大爆──大輪の花火を。
「ありがとう……ございます。聖女様、冒険者様」
こうして私は母の死を受け入れ、母との約束を果たしたのだった。
◆◆◆
「ノルン、そこに正座して」
「……はい。すみませんでした」
「あんなに大爆発になるなんて、危ないじゃないか!そんな危険な武器も安易に持ってたらいけないよっ」
オテダマンで花火作戦を決行した私は、その後こってりとエド様に叱られていた。
まさか改良型オテダマンの威力があそこまで上がっているとは思いもしなかった。パーンと弾けて、「あ、綺麗」で終わるかと思っていた。
エド様が機転を利かせて風魔法で吹き飛ばしてくれなかったら、今頃木っ端みじんだったかもしれない。
ヨシアさんには感謝され、約束を果たせたことで思いも振り切れたのか、そのままお母さんは墓地へと埋葬された。ヨシアさんは侵した罪を償うために憲兵の元へと自ら赴いた。
聖女誘拐については、罪が重くならないようにしたいと言ったら、エド様が書状を送っておいてくれると言ってくれた。ついでに王宮にも知り合いがいるから、私が無事なこともアレクシス殿下たちへ伝えてくれるらしい。
薄々感じてはいたのだけど、エド様はかなり偉い立場の人なんじゃないだろうか。凄腕の冒険者ということで、簡単に連絡が取れるほど王族とも懇意にしているのかもしれない。
偉い人しか使えない王都へ続く転移門を「これで王都まで帰ろうか?近道になるよ」と言って躊躇なく使おうとするくらいだ。
やはりエド様って凄い人なんだ!
幼い頃に出逢った英雄が本当に凄い人物なのだとわかり、少しドキドキしてしまう。もしかして、絵本に出てくる勇者様ってやつだったりして。
「ノルン?聞いているのかな?」
ワクワクした表情に、オテダマンの一件を反省していないと思われたのか、またエド様によるお説教が始まってしまった。
エド様に、オテダマンはもう安易に使わないことを約束し、一件落着で王都へ帰ろうとした時だった。
転移門が光り、門の中に人の姿が浮かぶ。光が収まり、その姿が露わになると、凄い勢いでこちらに駆け寄ってくる。
「ノルン!!!!」
この素敵なマッチョ具合は、この世に一人しかいない。
ギュッと抱きつかれ、なんだかんだ張り詰めていたらしい心が安らぐのを感じた。
「ゴンちゃんっ……」
「シンパイシタヨ!!!」
分厚い胸板を感じていると、背後にリドディア様と、アレクシス殿下も居たようだ。
「やっぱりあの大爆発はお前だったか。騒ぎを聞いて来てみて正解だったな。いきなり消えて、大爆発を起こすとは……色々訊きたいことが山積みだな」
「そんなこと言って、心配されてたじゃないですか。転移門を使っちゃうくらい」
「うるさい、黙れっ!!!」
オテダマン大爆発事件を聞きつけ、王都から即座に駆けつけてくれたらしい。
何だか、この三人に会えるとホッとする。
アレクシス殿下の尋問が始まりそうで怖いけど……。
久々の再会を喜んでいると──
「迎えが来たようだね、ノルン」
「エド様っ」
蚊帳の外にしてしまっていたエド様が輪に入ってきた。そうだ、エド様のことや、ヨシアさんの事件も説明しないと、と思っていると、
「あ、兄上……?」
「やあ、アレク。久しぶり」
アレクシス殿下とエド様が何故か親密そうに見つめ合っている。
って……。
『兄上』って今言ったの……?
まさか……エド様は──
勇者さまじゃなくって……
「え、ええええええええええ!??!?!?」
私のアホみたいな声が響き渡ったのであった。




