4.わかった。俺も一緒に行く
「……なるほど。ノルンは今、聖女ポティと呼ばれていて、そのせいで連れ去られた。白骨化した母親を生き返らせて欲しいと願う男に追われている……か」
聖女というのは、この格好からしてもう隠しようがないため、『偽聖女』という部分は隠して、黒髪黒目が露見して聖女として過ごしていることを話した。エド様は何かを考えるように黙ってしまったけれども、その瞳は心配そうに揺れていた。
「はい。出来れば王宮へ帰れれば一番なのですが」
連れ去られたのは王都から少し離れた街のようだった。すぐに帰れる距離ではない。
打ち明けたのはいいけれども、どうしたものかと考えていると、エド様は辛そうな表情をして口を開いた。
「この国に来ればノルンが安全かと思ったけど……。色々巻き込まれてしまったようで、悪かったね」
「い、いいえ。ずっと、平穏に暮らしていました!エド様には感謝しかありませんっ」
「そう。でも、ノルンが望んでいないのだったら、俺がノルンを攫い出して、もっと安全な場所へ連れて行く」
「……っ!!あ、ありがとうございます。でも……わ、私は、聖女ポティとして、やるべきことをやります。そう、決めたんです」
ゴンちゃんや、アレクシス殿下、リドディア様と、一緒に頑張るって決めたから。今更役目を放り出して逃げるなんてできない。
私の決意が固いことを察したのか、エド様は心配そうだけど、それ以上は言わなかった。
「ノルンがそう決めたなら、俺は応援するしかないな。さて、そうなったら、王宮へ戻るのが先決だが、あの男も放ってはおけない」
「はい。きっと、目的が達成されるまで、ずっと諦めないと思います」
「……それほど、その白骨化してしまった母親への思いが強いのだろうな」
ポツリと言ったエド様は、なんだか悲しそうな表情をしていた。もしかしたら、エド様もお母様をすでに亡くしているのだろうか。
『ノルン。わたしの可愛い子。大好きよ』
もう朧気な母の記憶。死が受け入れられない気持ちは……よく分かった。
「でも、受け入れなきゃ……お母さんは天国へ行けない」
「……ノルン?」
「心配していると思うから。大丈夫だよって言ってあげなきゃ、ずっと心配で安らかに休めない」
病に侵され、日に日に痩せ細っていく母は、自分のことより幼い私のことばかり心配していた。だから、寂しくて、怖くて、一人になりたくなかったけど。最期は『だいじょうぶだよ』って伝えた。ホッとしたように息を吐いた母は、二度と目を開けることはなかった。
白骨化した男の母親と自分の母が重なり合う。
「エド様。私、もう一度、あの男と話してみたい」
さっきは動揺しすぎて逃げることしか考えられなかった。でも、冷静になって振り返ると、やはり逃げるべきじゃなかった。
聖女の力も使えないし。非力で無力で何にもできないかもしれないけど。
「わかった。俺も一緒に行く」
エド様は当然のようにそう言い切った。巻き込んでしまうのは申し訳なく思うけれども、男と二人きりで話すのも少し怖かったので、ここは甘えてしまおう。
「お願いします。力をかしてください」
「ああ、もちろん!」
こうして私とエド様はもう一度あの男の元へ向かうこととなった。
◆◆◆
「ごめんください。は、入りますよ~」
エド様が私が飛び落ちてきた家を覚えてくれていて、堂々と正面から訪ねてみたが返答はなかった。
ドアノブに手をかけると鍵はかかっておらず、恐る恐る中に足を踏み入れた。
昼間なのに中は閉め切っていて薄暗い。奥の部屋から明かりが漏れており、そこへ導かれるよう歩を進める。
「我が命と交換に母をこの世へとどめたまえ、アロイム***ッサイ**ム、ドン***カート、アライムム****」
蝋燭の炎に向かい怪しげな呪文を一心不乱に唱えている男が居た。
「……黒魔術だね」
「……っ!!!」
──追い詰められてとんでもない方向に手を出してる──!!!
危険度MAXな状況に、せっかくの覚悟が鈍りそうだった。逃げたい。いや、エドさんも一緒なんだから、勇気を出さないと!と気合いを入れ、息を吸い込んだ。
「ごめんくださいっ!!」
「っ……!?せ、聖女様っ!!!お戻りになったのですかっ!!」




