3.大きくなったなぁ、こんなに小さかったのに
※残酷な表現が一部含まれます。ご注意ください。
『黒き子は災いを起こす。小さき内に災いに還さなければいけない』
遙か遠い国の小さな村には、古くからの言い伝えがあった。
私の母はその村の娘で。父は知らない。
母一人で私を産むことになって、生まれた私は髪の毛も瞳の色の真っ黒な『黒き子』だった。
母は私を隠しながら、村の外れにある森の中で私を育ててくれた。
けれども、女手一つで無理をして、母は私が幼い頃に死んでしまった。
母の死後、一人で何とか私は森で暮らしていたけれども、ついに村人に見つかってしまう。髪と瞳を隠すように目深に被っていた帽子を取られ。いくつもの憎しみと畏れを抱いた目が私を見つめた。
「『黒き子』だっ!!村が飢饉になったのも、災害が続いたのも、全部お前のせいだったのかっ!!!」
「忌々しいっ!!!早く葬ってしまわなければっ!!!」
痛くて。苦しくて。
心まですり切れていった。
「言い伝えに従い、お前は災いへ還す。恨むなら、お前を生んだ親を恨め」
──違う。お母さんは、優しいひとだった。恨んだりしない。
ボロボロに傷つけられた私は、まるで廃棄されるかのように、瘴気で満ちた谷底へと投げ捨てられた。
恐怖よりも、ただただ悲しかった。
はやく、はやく優しいお母さんに会いたかった。
「うわっ……、急に空から人が降って来た!……お嬢ちゃん、大丈夫?」
「え………?」
「すごい怪我だっ!!待ってて、治癒師に見て貰おう」
温かな腕の中で私は気を失った。
私を助けてくれたのは、エドと名乗る冒険者だった。彼は数人でパーティーを作り、瘴気を調べる依頼を受けてこの谷底を調査していたらしい。急に空から降ってきた私を、彼らは迷うこと無く助けてくれた。
「エド様、もう歩けるよ」
「ノルン、怪我は治っても無茶はダメだ。小さな君が心配だ」
エド様は瘴気を調べながら、人一倍過保護に私の面倒を見てくれた。まるで本当の兄妹のようだと、パーティーの人達は愉快そうに笑った。
小さいと言われていても、栄養が足りないだけで、実は10歳を超えているなんて、なんとなく言えずにいた。
エド様は、谷底から私を連れ出して、村の外へ、それからもっと遠い大きな街まで連れてきてくれた。
黒い髪も黒い瞳も隠して、見つかるんじゃないかとビクビクする私の頭をいつも優しく撫でてくれた。
「俺の国では、黒い髪も黒い瞳も忌み嫌われるものではないんだ。とても尊くて、皆に大事にされる。ノルン、俺の生まれ故郷で暮らさないか?俺は一緒に居てあげられないけど、働くところも住むところも手配する」
エド様は私に希望をくれた。生活できるように支援してくれた。
本当はずっと一緒に居たかったけれども。
足手まといになるのは分かっていたから。
「どうしてもその見た目が嫌なら、これをあげる。この眼鏡は姿を変えられるんだ」
別れの日。エド様がかけていた眼鏡を外して私につけてくれた。茶色だったエド様の髪の毛は一瞬で見事な金色の髪に変わり、緑色の宝石のような瞳に見つめられ、心臓がドキリと音を立てる。
エド様はニッコリと微笑み、帽子をかぶり色がついたサングラスをして、颯爽と去って行った。
私は、茶色の髪に茶色の瞳。平凡な容姿をエド様にもらった。
きっと、エド様を護るためにあった眼鏡だっただろうに。
エド様には感謝してもしきれなかった。
エド様の紹介で私はメイドとなり、ひっそりと生きていた。
穏やかに。
誰にも忌み嫌われることなく。
いつかエド様に恩返し出来る日を願って。
まさか偽聖女として、エド様に再会する日が来るなんて、思ってもみなかったのだ──。
◆◆◆
「いやぁ、大きくなったなぁ、こんなに小さかったのに」
「そ、そんなに小さくなかったですよね!?」
おにぎりサイズを示されて、慌てて否定すると、クスリとエド様は笑いを零した。穏やかで温かい雰囲気は昔と変わっていなくて、何故か泣きそうになってしまう。
「で、ノルン。何か困っているのかな?久々に会えたことだし、兄貴分として力になれることはある?」
全く躊躇することなく、手を差し伸べてくれること。
変わっていない。
「エド様……」
「困っているなら、言ってごらん。大丈夫だから」
エド様の優しい言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。
偽聖女になっていることはもちろん秘密にしなければいけない。
けれども、連れ去られて、ここが何処かもわからず、味方もいない今。頼れるのはエド様だけで──。
「エド様……あの──」
私は意を決して話すことに決めた。




