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2.どうか母に奇跡を起こしていただけませんか?


──まずい、これって、誘拐!?


目の前で微笑みながらこちらを見ている男に見覚えなど無い。身なりから推測すると、平民のようにも見えるが、堂々とした態度から位の高さも感じる。身分がバレないように偽っているのだろうか。


「あ、あの……苺ケーキは……」


「あのような嘘に騙されるとは、聖女様はお心まで清らかなのですね。清らかな聖女様を独占するとは、強欲な第二王子のやりそうなことだ。聖女様は民の為にある。そうでしょう?」



アレクシス殿下を卑下するような言い方から、第二王子派閥と敵対している人物だと予測できた。やはり、リドディア様が言っていた第一王子派閥なのだろうか。



「私の母が不治の病にかかりました。何度聖女様の力を貸していただきたいとお願いしても聞き入れてもらえなかった。治療方法を捜して、私財を全て注ぎ込み我が家は没落寸前だ。それでも、母が助かるのならかまわなかったのに……結局奇跡でも起こらなければ母は助からない。だから、ある方のお力を借りて聖女様をお連れしたんです。どうか母に奇跡を起こしていただけませんか?」



そう懇願する男の目は、焦点が定まらず虚ろになって居た。大事な人のために、聖女を誘拐してまで奇跡を願った。その気持ちはわからないでもない。


──でも、私には無理なの……!!ど、どうしたらいいのっ!?



そもそも、聖女の力は、『浄化』であって、治癒能力ではない。不治の病を治せるかといわれたら、恐らく無理だ。病が瘴気によって齎されているのなら……なんとかなるかもしれないが。


それに浄化の力を使えるのはゴンちゃんだし。でも、そのこともバレるわけにはいかない。


かなりの窮地に私は頭を抱えたくなった。



「さあ、母を診てくださいっ!!聖女様っ……!!!」


男に無理やり連れてこられた寝室で、私はハッと息を吸いこんだ。


ベッドの上には、白骨化した骸骨が横たわっていたからだ。



「母を……母を……治してください」


「あの、お母様はもう……」


「治せるはずだ。死者を生き返えらせる奇跡は、聖女様にしかできないと……あの方は言っていた……!!さあ、早くっ!!!」



──どうしよう。本気で。



不治の病って言われても、これはもう天に召されている。聖女云々の話ではない。


ここで聖女の真似事をしても、身の危険が迫るだけ。対話を試みようとも、目の前の男は話が通じる状態じゃ無い。


──『怪しい奴が接触しようとしてきたら、オテダマンを遠慮なく使うようアレクシス殿下より言付かっています』


身の危険すら感じる状況に、リドディア様の言葉が脳裏に蘇る。


今が正にその時なの……? オテダマンを使用するしかないのだろうか!?



ポシェットに手を触れようとしたが、肝心のポシェットが無いことに気が付いた。誘拐されたときに落としてしまったのか、取られてしまったのか。


これでは手立てはない。


とんでもなくピンチな状況である。



「あ、あの……私のポシェットはどこに。その中にお祈りに使う神具が……」


「ああ、すみません、聖女様。途中で落としてしまったようで。神具など無くても聖女様なら大丈夫です。さあ、母に奇跡をっ!!」



──駄目だった……!!


希望の光が潰えた気がした。これはもう、逃げるしかない。


「神具がないと、不安で、祈りが捧げられないわっ、ポシェットはどこ、ああ、探しに行かないとっ……!ってことで、探しにいってきまーす!!」



「えっ……ちょっと……待てっ」


下手な芝居をして、私は一気に窓を開け、外へと飛び降りた。どうか無事に着地できますように、と祈りながら衝撃を待っていると──。



「うわっ……、急に空から人が降って来た!……お嬢さん、大丈夫?」


「へ……っ!?」



ガッシリとした腕の中で、受け止められていた。驚いて顔を上げると──。頭巾の端からのぞく金色の髪に、色眼鏡がずれてのぞく緑色の瞳が目に入る。


忘れたことなどなかった。

死んでしまうかと思ったときに差し伸べられた手を。

救いようのない状況から、私を助け出してくれた恩人──。



『ノルン、君は自由だ』



脳裏に蘇るのは、屈託無く笑う、私の英雄。


まさか。

こんな偶然ってあるだろうか。



「エ……エド……さま……?」


震える声で問いかけると、彼は目を丸くして私をジッと見つけた。


「その黒い髪に黒い瞳……まさか、ノルン?あの、小さかったノルンなのか……!?」


やはり、エド様だ。

思いがけない再会に、私もエド様も信じられない気持ちで見つめ合う。



「どこに行ったっ!!逃がさんぞっ!!!」



怒り狂った男の声に、ハッと我に返り、エド様の腕の中から飛び降りた。



「は、話は後で!すみませんっ、一緒に逃げてくださいっ!!」


「え、ええええっ!?」



エド様の手を引いて街中へと逃げ出したのであった。





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