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13 証明




「それで私はお父様の靴を履いて叔母様の屋敷まで家出したのです。追い掛けてきた侍女たちの目を掻い潜るのは大変でしたが、楽しい冒険でした」


「君がそんなお転婆だったとは想像がつかないな」


「私は貴方が知るよりも勇敢なのですよ?」


 デイジーの訴えをセオドアは笑ってやり過ごす。


 夕食を済ませてセオドアから部屋に呼ばれたデイジーは、書類の対応に呼ばれる婚約者のかたわらで自分の武勇伝を話して聞かせていた。「何か面白い話を」と、そうすることを催促したのはセオドアの方だ。


 部屋を出る際はペコラやエミリーがオロオロしていたが、デイジーは清々しい顔でセオドアの部屋へ向かった。彼女にとって今や、王太子は自分の信頼できる人間の一人になっていたから。


 バーミング邸でのことがあってから、二人の距離はいっそう近付いたように思えた。セオドアはかつて一人で取っていた朝食の時間をデイジーに合わせるようになったし、暇ができれば彼女を散歩に誘った。


 並んで歩く二人の姿は側から見れば立派な恋人同士のように見え、初日に自分の未来の妻を「お飾りの妻」呼ばわりした男とは思えない進展だった。


 しかしながら、当の本人はというと。




「最近どうも寝付きが悪い。同じような夢ばかり見るんだ。君はよく眠れているか?」


「どのような夢ですか?」


 何気ないデイジーの質問にセオドアは顔を赤らめた。

 そのままモゴモゴと口を動かすと「つまらないものだ」と言って咳払いをする。婚約者の夢の中身が気になるデイジーはその後も何度か追及したが、内容を知ることは出来なかった。


 セオドアは、毎晩夢の中に現れるデイジーに悩まされていた。夢の内容は日を追うごとに現実味を増し、とうとう昨日デイジーは自分を押し倒して口付けを落とした。そんなことを本人に伝えるわけにいかないし、これはあくまでも夢の話だ。


 苦い顔で胸を押さえるセオドアを見て、デイジーはクスクスと笑う。まるですべてを見透かすようなその表情に、セオドアは軽い目眩を覚えた。


 お飾りの妻となるはずの女が自分の心に居座っている。

 それは認め難い状況で、恥ずべきことに思えた。



「デイジー、これを機に改めて伝えておきたいが…」


「なんでしょう?」


「顔合わせの際に伝えたように、俺は君に多くを求めてはいない。来賓が来た際や両親などの手前では妻として振る舞ってほしいが、それ以上の気遣いは不要だ」


「………と、言いますと?」


「ここ最近、君は熱心に俺に尽くそうとしてくれている。無理をさせているんじゃないかと思うんだ。この結婚は恋愛ではなく政略的なものだから、すべてを俺に合わせようとする必要はない」


 デイジーはしばらくポカンとした顔で黙った。


 実のところ、この数日間にデイジーを呼び寄せて二人の時間を設けようとしているのはセオドアの方だ。しかしながら、王太子はそうした事実を認識しておらず、まだデイジーのことを飾り物として扱いたいようだった。



「セオドア様は私に愛人を作れと仰っているのですか?」


「いや………そういう意味ではないが、」


「まさか、愛することは出来ないとか?」


「それは………」


「私のことを妻として愛することが出来るのであれば、今ここで証明してくださいませ」


「証明?」


「キスをしてください」


 セオドアは文字通り、口を真一文字に結んで固まった。

 デイジーの手が鍛え抜かれた厚い胸板に置かれる。


 窓の外では、木の上で合唱を奏でていた小鳥たちが、部屋の中の変化を察知して慌てて枝から飛び立って行った。



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