伝えたい想い⑧
「──といった感じで、全員無事戻りました。魔石に憑かれた青年と森の民の少女が一緒にいたほうがいいだろうということで、付き添いとしてロマが彼女たちと一緒にいます」
森から戻った後、臨時の隊は解散となった。
ユリたちに付き添うことになったロマに代わり、アルロは図書館に一人戻り、エドアルドたちにことの経緯を説明しているところだ。
「なるほど、承知いたしました。アルロさんもお疲れさまでした」
エドアルドから労いの言葉を受け、アルロは近くのソファーへと体を投げ出す。
「しかし魔石に憑かれて正気を保っているなんて……これは研究者たちが黙っていませんね」
ぽつりとつぶやくミアノに、アルロは先ほどロマに聞いたことを再度投げ出す。
するとそれを隣で聞いていたレイが、やはり驚いたようにアルロを見やる。
「アルロさんって、魔石に憑かれた人を見たことがないんですか?」
「全くないってわけじゃないけど……でも探掘者でもない限り、そうそう出会うことないだろ?」
事実、一般人が普通に生活している上で、魔石に憑かれる確率はかなり低い。専門の職に就いているならまだしも、アルロがこの管理課に入ってからも魔石に憑かれた状態の人に出会ったことはない。
「だとしても、知識としてどのような状態に陥るのか、大抵の人は知っていると思いますけど」
「学がなくてすみませんね」
若干ひねくれた返しをしながらも、アルロは先ほどのことを思い出していた。
あの魔石となった人は、妻に会いたいと言った。
魔石は人の強い思いが魔素と融合し、それが石となって形作られる。
あの魔石は、非業の死を遂げた人なのだろうか。家族に会いたいというその強い思いだけで魔石と化したのなら、それはどのくらい強い思いだったのだろうか。
アルロはしばしソファーの上で、静かに逡巡していた。と言っても、もともと頭を使って考えることは得意ではないため、その時間もわずかで終わったが。
「……室長」
アルロが静かにエドアルドに話しかける。
「はい、何ですか」
「俺、この回の件、一部始終をこの目で確かめたいと思うんです」
アルロの言葉に、エドアルドはそれはなぜかと問う。
「理由があるわけじゃないんですけど……なんか、このまま報告書書いて終わりにしたくないというか……。俺、魔石に憑かれた人のその後ってよく知らないし、今後のためにも、こういう場合どういう風に対処しているのかとか、知っておいてもいいんじゃないかなって、思って……」
純粋に言えば興味がある。ただ、それはさすがに不謹慎であると理解しているため、あまり身のこもっていない答えとなってしまった。
きっとエドアルドは、そんなアルロのことなどお見通しであろう。それでも「分かりました」と承諾した。
「では、今回の報告書はアルロさんにお任せしましょう。そのためにも、詳しい状況というのは把握しておいて損はありませんね。ロマさんと一緒に、見届けていただけると助かります」
「あ、ありがとうございます!」
こんなにも簡単に承諾してもらえるとは思っていなかったので、アルロは驚きつつも素直にお礼を伝えた。
「じゃあ、アルロさんとロマさんは、解決するまで見回り当番から外れるのか」
「そうなりますね。二人で頑張りましょう、レイ」
ぽつりとつぶやくレイに対し、ミアノが優しく声をかける。
ミアノとレイに朝晩の地下室の見回りを任せっきりにしてしまい、アルロはさすがに少し申し訳ないと思う気持ちが芽生えた。それを伝えると、
「報告書作成のほうが何倍も大変です。頑張ってくださいね、アルロ」
と笑顔でミアノに言われてしまい、思わず顔が引きつってしまった。
大変だという報告書のことは後で考えることとし、アルロはロマがいるインゴルーゴ総合病院へと向かうことにした。