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終章:変化


 ──数日後。


 アルロは、エドアルド、ロマ、ユリと共に、王宮へと参じていた。

 魔石紛失の騒動から日が経ち、直属の上司である第2王子とユリたち『森の民』の今後について、そして今回の件について改めて話し合う場が設けられることとなったからだ。



 王宮内の小さな部屋──と言ってもそこそこに広い部屋だが──に通されてしばし待つ。

 その間、アルロは落ち着きなくキョロキョロと周囲を見回していたため、隣に座ったロマからかなり強めに叩かれた。


「待たせてすまない」


 そろそろ変な緊張が限界に達しそうな頃、エドワード王子が従者を伴いやって来た。その後ろには『森の民』の青年・アオイもいる。

 腰掛けていたアルロたちは立ち上がり挨拶を述べようとしたが、エドワード王子はそのままでと制し、アルロたち4人の向かいの席に腰を下ろした。


「さて、早速だが話に入らせてもらうよ」


 エドワード王子は従者から受け取った報告書を机の上に置く。


「魔石の管理については、今一度管理体制を見直しても良さそうだ。まあ、どちらかというと、管理と言うより鑑石の質を上げる方が優先されるべき事項だが、すぐに叶うものでもないからね。君たち管理課のほうも、対策を練っておいてくれ」


 そこまで言って、エドワード王子はひと息入れる。そして、視線をアルロとロマに向ける。

「それにしても、報告書で確認したが、魔石の昇華だなんて、滅多に見られない場面に出くわしたね。私もできれば見てみたかった」

「……正直、あの時は何が起きたか全く分からなかったんですけど」

 苦笑し答えたアルロは、あの時のことを思い出す。


『それは、魔石の昇華じゃないですか?』

 管理課に戻り、霊園での出来事をミアノとレイに話すと、2人はそう答えた。

『魔石の昇華?』

『かなりレアなケースです。ランクB以上、つまり魔石に生前の意識が残り、人に憑いたり、魔石自体の魔素により意識がある状態のものが、己の本懐を遂げることができた時に起こる現象と言われています』

『今まででも、観測できた事例は片手で数えれるほど。それだけ、珍しい現象なんですよ』


 つまり、かなり珍しい事象の現場に居合わせた。それはとても稀有な事なのだそうだ。


「まぁ、羨ましがっても、時間は戻ってこないしね。今後の話をしようか」


 パンっと手を打つエドワード王子の言葉に、今日の本題を思い出す。

 ユリとアオイも通訳者を通して今までの話も聞いていたが、ここからは自分たちの話だとわかったのか、心無しか姿勢を正したように見えた。


「ユリとアオイ、この2人はどうやら森に、自分たちが暮らしていた集落に戻ることはできないらしい。なので、彼らは今後、私たちの国の住民として受け入れようと思う」


 エドワード王子の説明に、ロマが「何で戻れないんですか」と問う。その問いには多くは語らず、ただ「掟……そういうルールがあるらしい」と言うに留まった。

 アルロはその理由にさほど興味は無いが、今この場に管理課が呼ばれている状況に、何となく今後の予定が透けて見えた。


「さて、そういう訳で、彼らの今後の身の振り方を考えたんだ。

 まずアオイ。彼については、王宮騎士団の者が彼の身元引受け人になると言ってくれてね。その者の親戚筋の家に預けられることとなった」

どうやらその親戚筋というのは、非魔法使いのようだが、手広く田畑を耕しているということで、人手が来るならと二つ返事で了承したのだそうだ。

「そして、ユリ。彼女については、どうやら魔法使いの素質があるようだ。せっかく才の片りんが見えるのなら、それを伸ばしてみないかと提案したんだ。支援はこちらでしよう、彼女に魔法大学校で学ぶ機会をさずけようと思う」

 アルロはその案に驚きはしたものの、すぐに納得した。ほんの数日であるが、行動を共にしていたのだ。ユリが魔法使いの素質があるかもしれないと薄々感じていた。

「だが彼女は言葉はおろか、この国のことを何も知らないに等しい。そんな状態で大学校に送るのも如何なものかと考えてね。なので、彼女が不自由なく生活できるようになるまで、このまま管理課預かりとしてもらいたいんだ」

 頼む、とは言うが、一国の王子からの頼み事はもはや命令と同じ。断れるはずがない。

「承知いたしました。しかし、うちでよろしいのでしょうか? 彼女に言葉や生活を教えるのなら、他に適した場所や人がいると思いますが」

 エドアルドが控えめに意見する。

 エドワードは1度頷いたあと、

「そうだね。その方がいいのでは、という声はいくつか聞いた。その上で、管理課に頼もうと思ったんだ。君たちの負担が増えるようで申し訳ないが」

「いえいえ、滅相もない。確かに、同世代の者同士の交流を通した方が、身につくものも多いでしょうしね」

 エドアルドは改めて承りましたと、今回の件について了承した。


 それから今回の件について、改めての委細報告と、ユリとアオイのことについて、もう少し詳しく話し合った。


 ──話し合いは思ったよりも時間がかかり、アルロたちが王宮を後にしたのは14時の鐘が鳴り響いた頃だった。10時頃から出向いていたため、実に4時間もかかった。


「と、言うわけで、これからしばらく、ユリさんは管理課預かりとなります」

 王宮から図書館管理課の部屋へ移動したアルロたち。エドアルドが王宮での決定を報告し、改めてユリの紹介を行った。当の本人は、まだ分からない言葉の方が多いだろうが、「よろしく、お願いします」と片言ながら挨拶をした。


「ひとまず、彼女は来年の学校入学を目標にしてもらおうとなりました。そのためにも、まずこの国のことを知ることから勉強していただこうかと」

「基礎的な勉強であれば、僕が教えられると思います。それに、『森の民』の言語にも興味があるので、そこは持ちつ持たれつでいきたいですね」

 ミアノが珍しく、我先にと勉強役を買って出てくれた。

 エドアルドも適任と思ったのか「お任せします」と二つ返事で了承した。

「他のお三方は、生活面でのサポートをお願いしますね。特にレイさん、あなたと彼女は同い年のようですし、他の方々とも年が近いようなので、仲良くしてくださいね」

 3人それぞれ返事をし、アルロたちも改めて自己紹介を行った。



「……なんか、この数日間でいろいろあったよなぁ」

 夜。地下室の見回りの時間がやってきて、アルロは久しぶりにレイとともに地下に降りていた。

「いろいろありましたね。と言っても、俺は現場に居合わせたわけじゃないから、正直突然すぎる感じでついていけてないんですけど」

 今回ほとんど留守番を任せられていたレイは、ユリとの接し方含め、かなり戸惑いが多く見られたいた。もともと人と接することが苦手らしいレイにとっては、新たな仲間との打ち解けに少し時間がかかるだろう。


「でも、一番変わったって思ってるのは、あのユリって子のほうだろうな」

「それはそうでしょうね。言葉も生活もまるきり知らないところにいるわけだし」

 『森の民』として今まで生活していたはずが、これからは全く知らない世界で生活していくのである。アルロたちには感じえない、大変さがこれから増えていくことだろう。

「ま、とりあえず、安心して暮らせるように手伝っていこうな」

「そうですね。まずは慣れてもらうのが大事ですしね」

 アルロにできることは少ないかもしれないが、少しずつ、この国での生き方を覚えていってほしいと思った。





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