伝えたい想い⑪
ほどなくして、相乗り絨毯は霊園へとたどり着いた。
王都から南に進んだところにある、開けた山の上に、間隔等しく墓石が並んでいる。
一行は、霊園の管理者に事情を説明し、彼の妻の場所を尋ねる。管理者は幾ばくも経たずに、その場所を教えてくれた。
その間ギッスルは緊張しているのだろうか、おとなしくその様子を見ているようだったが、彼の表情は固いように見えた。
管理者にお礼を言い、一行は教えられた場所に向かう。
アルロたちの他に人はおらず、ただ厳かに墓石が立ち並んでいるだけ。普段霊園に足を運ばない身としては、この独特な雰囲気はあまり好きにはなれなさそうだ。
鑑石課の人を先頭に、目的の墓石を探す。
しばらく歩き、立ち止まったその先には、周囲に比べまだ新しい墓石があった。
「ギッスルさん、こちらが奥さんが眠っている場所です」
アルロからはギッスルの後ろ姿しか見えないが、その姿はどことなく沈んでいるように見えた。
しばらくして、ギッスルは膝を折り、墓石へと手を伸ばす。
何か話をしているのだろうか。微かに声は聞こえるが、その内容までは聞き取れない。
「……ギッスルさん。実は、あなたの息子さんから、ひとつ預かっているものがあります」
鑑石課の人がそう言うと、1枚の紙を取り出した。
「息子が……?」
ギッスルは差し出された紙を受け取り、恐る恐る開く。
アルロの位置からは、彼の後ろ姿しか見えない。その手紙の内容なんて、さらに分からない。
だけどその内容は、ギッスルにとってその場に崩れ落ちてしまう程のものだったようだ。
「アンネ……!」
彼の妻の名前だろうか。
涙を流しながら、彼はひたすらに妻の名を呼び続けた。
──どのくらい経っただろうか。
ギッスルの泣き声が小さくなり、蹲っていた彼が体を起こしたあと、それは起こった。
「待っていてくれて、ありがとう」
そう呟くや否や、ギッスルの──『森の民』の青年の体がまばゆい光に纏われる。そしてそれに比例するように、突然周囲の魔素量が増えた。仕舞いには、滅多に見られないであろう、魔素が視認できるほどに凝縮されている。
周囲の者たちは、ただその様子を口を開けて見るしかできなかった。
時間にして数十秒のこと。
光が消えるとともに、その場に青年の体が倒れた。
皆が呆然と立ち尽くす中、いち早くユリが青年の元に駆け寄る。その姿を見て、医療班もハッと我に返り、彼女に続いて青年の元に駆け寄る。
「……夢でも見てるのか」
隣に立つ鑑石課の1人が呟く。
アルロは何が起こったのか全く分からなかった。けれどアルロだけではなく、この場で何が起こったのか理解しているのはほんの少ししかいなかった。
「……彼の体から、魔石の魔素が完全に抜けています」
医療班の1人が、全員に状況を伝えるように報告をする。
側近も皆と同じようにしばし呆けていたが、ひとつ咳払いをするとその表情を引き締める。
「1度詳しい検査が必要だろう。少年と医療班は病院へと戻っていただきたい。鑑石課の方々については、改めて魔石の鑑定を。管理課の諸君は、この少女と共に別途指示があるまで図書館で待機」
解散という声と共に、一行はそれぞれの仕事に取り掛かる。
アルロは今の状況を詳しく聞きたいと思ったが、さすがに聞ける雰囲気ではなくなったため、仕方なしに隣にいるロマに話しかける。
「……ひとまず、俺らも戻るか」
「うん、そうだね」
ロマも頷き返し、二人はユリの元に駆け寄った。