伝えたい想い⑨
インゴルーゴ総合病院は、この国最大の病院である。
王族お抱えの専門医や、非魔法使い・魔法使い問わず対応してくれる病院として、知らぬ者はいないだろう。
アルロは図書館から相乗り絨毯に乗り、1時間ほどかけてインゴルーゴ総合病院へと着いた。
魔石関連の専門棟へと向かっていると、その途中で偶然ロマと出会うことができた。
「何でアルロがいるの?」
食料でも買いに行っていたのだろう。手には食べ物が入った袋を持っていた。
「エドアルドさんからは許可貰ってる。俺も今回の件が解決するまで、見届けることになった」
「ふーん……そうなんだ」
さして興味が無いのか、ロマは適当に返事を返すと、魔石関連の専門棟に向かって歩き出した。アルロもその後を追う。
いくつかの専門棟にわかれているうちの魔石関連の棟は、主に魔石に憑かれた人たちの治療・療養のための場所である。
今回、あの青年もここに搬送されている。
青年が診察を受けている部屋の前に着いた時、ちょうど診察室から鑑石課の人が出てきた。その後ろには、ユリもいる。
「お疲れ様です」
「あ、あぁ。お疲れ様」
「何か進捗ありましたか?」
アルロがそう問うと、監石課の人は首を縦に振った。
「身元が分かりそうだ。早ければ明日にでも、魔石と青年の切り離しに進むと思う」
「今までで最短じゃないか」と呟くと、鑑石課の人はその場を後にした。
ユリは話の内容を理解していないのか、戸惑ったようにアルロたちのことを見ている。
「……ずいぶん早い割当だね」
「何か、有名な人だったとか?」
「それだったら、納得かも」
そう言いながら、ロマは近くの長椅子に手に持っていた袋を置く。
そして片言ではあるが、ユリに手振り身振りでご飯を食べようと伝えていた。何とか通じたのか、ユリは頷いて、長椅子へと座る。
「ロマ、『森の民』の言葉話せるようになったのか?」
「そんな訳ないじゃん。通訳の人とかが話してるの聞いて、何となくで話しているだけ」
それと身振りで通じるのであるから、それはそれで大したものである。
アルロたちは、ひとまず遅い昼食を摂ることにした。思えば、まだ昼を食べておらず、今は特にすることもないので、ロマが買ってきてくれた携帯食をいただくことにした。
3人が昼食をとり終え一息ついた頃。
病室のドアが開き、中から側近と通訳者、そして青年が出てきた。
「お疲れ様です」
アルロたちは立ち上がり声をかける。
側近はアルロがひとり増えていることに眉をあげたが、特段何か言うことはなかった。
「ご苦労。魔石の特定に目処が立ちそうなため、明日、切り離しの治療を行う。管理課の同席についても主が許可済みだ。明日の立ち会いも同席するが良い」
ありがとうございますと述べると、隣にいたユリが何かを話す。通訳者がそれをアルロたちにも聞こえるように伝えてくれた。
「彼は今後どうなるのか、知りたいと言っています」
「……ひとまず、今日はこの病院にいてもらう。彼女も一緒のほうがいいか。病院側に掛け合ってみよう。それ以降は、また殿下のご判断によるな」
通訳者からユリに伝えられると、彼女はほっとした表情をした。
側近たちが立ち去ったあと、隣でロマがぽつりと呟く。
「私たちも一緒に泊まっていいのか?」
「あ……どうだろ」
ユリが青年と同じ病室にいるのなら、彼女と一緒にいたほうが良いであろう。だが、先ほどの側近の言葉からして、アルロたちのことは忘れられていそうだ。
「……病院側に聞いてくるよ」
ロマからの無言の圧を感じたアルロは、仕方ないというように、病院側への確認の担当を請け負った。
──結果、治療人とその関係者以外、大勢の泊まり込みを拒否られてしまい、尚且つ王宮の警備隊から数名の警備が入ると聞かされ、アルロたちは病院に泊まることはできなかった。
ユリが管理課預かりということを伝えてもそれは覆らなかったため、アルロとロマは図書館と病院の行き来を余儀なくされたのだ。