子悪魔ちゃんは頑張れない
「……ん?ここは天……」
「なに?」
「なんでもない」
「そっか。…………なんで黙ってるの?」
「ここって多分地獄だろ?全裸で拘束されてるし、拷問具ばっか置かれてるし。……死んだ気するし。だからほら、下手なこと言ってもっと酷いとこにまわされたら嫌だから」
「それは大丈夫。もう一生ここだから」
「ならいんだけど……あっ、いや、分かったぞ。上げて落とす気だろ。急にごつい鬼が出てきたり」
「私一人だよ」
「一生?」
「うん」
「……何言っても許されるらしいから言うけど、ここは天国か?……あーいや、でも確かに好きな子と一緒になれない上に繋がれっぱなしは地獄かもな」
「ずっとこことは言ったけど、許すとは言ってないよ?」
「あーもうその言い方!最高!!声も可愛い。でも……」
「でもなに?」
「……もしかして妬いてるの?あの子の方がとか言うと思って。それとも単純にもっと褒めてほしかった?……どっちにしろ可愛いなぁ。でも……ややこしいけど、でも、でもって言ったのはそうじゃなくて……てか一生一緒みたいな駄洒落言ってなかった?」
「言ってない」
「言ってないっけ?」
「死後混乱かな」
「何それ。てか、一生って、僕死んでるんだよね?」
「うーん、まあ?」
「なんだその含みのある言い方。てかそもそも何で僕地獄に落とされたの?自殺したから?盗み?人に迷わ……ああ納得した」
「私も理由は知らないんだよね〜」
「そんな相手を拷問して罪悪感とかないの?」
「拷問は意味が違う気がするけど……罪悪感がないと言えば嘘になるかな」
「だったら親切な僕が罪悪感を取り払ってあげるよ。……君めっちゃ好み、虐めてくれるなら先ず手始めに君の靴下を口に詰めてくんない?てかもう舐め回したい、無理だけど。あとちょっと喋り方がカマトト……てかアホっぽい。まああざといのは好きだし君自身が可愛いから」
「私男だよ?」
「だから?……いやごめんそっか、貶すとこ増やしてくれたんだね。親切に親切はちょっとあれだけど、一人称私とかおかま?」
「男でも私って言うでしょ」
「男のはそんなにあざとくない。てかさ、言っとくけど可愛い人は生えてる方が興奮するんだよ?」
「……なんかさ、そんな間抜けな格好で言われても全部ギャグにしか」
「ギャグっていうか半分冗談みたいな感じではあるけど、でも全部本当だよ。……いやてかほら、だから、君の罪悪感を払ってあげようと僕は……あれ?いつの間にか普通にからかってた?」
「うん」
「……でも嫌な相手の方が虐めやすくない?」
「そうでもないよ、めんどくさくなるし」
「じゃあ……え、どうしたら僕のこと好いてくれる?」
「君は何もしなくていーの。私が私の好きなように虐めてあげるから」
「……僕は面倒なこと何一つないの?」
「うん」
「なにそれ、やっぱ天国じゃん。ご苦労さまです」
「思ったより普通に辛いんだけど」
「だから?」
「……これ狂ったりしない?」
「大丈夫。狂わないように優しくしてあげるから」
「……正直もうかなり恐れてるし嫌なんだけど、君が素敵過ぎて……」
「うん……ありがと?」
「やっぱ駄目だ一回」
「それはだーめ、そんなことしたら本当に……」
「本当に?」
「なんでもない」
「やっぱり可愛いなぁ」
「なんかちょっと落ち着いてきちゃった。どうしよ」
「さあ」
「痛みがただの痛みでしかない。割に、そんなに痛くない。段々慣れてきたりしない?これじゃあ」
「それも大丈夫。少しづつ増していくようになってるから。疲労も溜まりっぱなしだし。いつかは、私が何もしなくても今まで誰も感じた事がない程の苦痛を抱くようになって……尚もわたしに虐められる。でも、君なら、平気だよね?」
「……これより上がないって確信できるのは幸せだ。けど、それを狂わない程度に優しいと思ってる君が……何より可愛い。死にたくなってきた」
「どうしたの?笑みを浮かべて……涙を滲ませて。……おーい」
耳鳴りは聞こえるんだな。
鳴り始めた途端に、それまでの音がこもっていた事を気付かされる。どうしてか嬉しい。元より動かない体が、固まってしまった。
「なあ、やっぱり、少し怖いというか、寂しいな。このまま……ずっと、このままは」
「私が優しくしてあげてるのに?」
「寂しいはただの比喩だよ。言葉なんて全部そうだ。感情を何かに例えてるんだ。だから何一つ、俺の心は形を持たないし、だからといって、俺だけの言葉じゃ、何も伝わらない。……死にたいなんて比喩は、ここにこそ、俺達にこそ相応しい」
「何が言いたいの?」
「優しくしてあげてるのになんて、少し嫌かと思ったけど、やっぱり君は可愛い」
「おかしいな、少し狂い始めてる?」
「俺達がどういう存在か知ってるか?」
「えっ?」
「俺達人は、好きな時に、自由に、記憶を選んで、振り返れるんだ。……いつだって繰り返せる」