猿の一人歩き――二疋
何だか最近酔い易くなった。而も酒に弱い。――そんな曖昧な中に一つ浮かんだ。――きっと、だから、それは、全てがそうなら好きな物程深く広がるから、だよ。見てないものは分からない。考える程強く弱くなる。全てが想像なら、それが愛なら、奪うとも与えるとも、ただ自我が世界なら、存在を確実にする。
何かしらあるかしら、なんて駄洒落なのか何なのかも分からない下らない一人言を、心の中で何度も唱えながら歩いてた。
かしら、かしらん、小説では良く見掛けるけど、所謂書き言葉って奴なのか、それとは違うのか、兎に角実際に使う事は少ないようで……だけど小さい頃に度々ドラえもんを見てた俺は、はじめの一歩を読んでいる俺は、偶に使ってしまう訳で――という所で思わぬ好い道に出くわした。あの道が案の定、時間が限られた公園の通路だった事で、思わぬ好い発見をした。
うっわ焦ったお前なんだよ巫山戯んなよ。
大きいな公園の隣の、河原の広場。その水道の隣で用を済ませた後、手を洗いつつ水をかけつつ、それにしても好い月だ、風も心地好い。なんて事を小さく呟いて、その場を後にしようと――今何時だ?なんだまだ半か、と目線を前に向けると人が居た。出入り口の階段の、二段目に立って空を見上げて居た。来る時には居なかった筈だ。本当に驚いた。つい笑いが零れた。
灰皿に隣るベンチに腰を下ろす。一休みだ。
――なぁんかいんなぁ。またぁ。
――蛙の鳴き声なんて久しぶりに聞いたよ俺の事笑ってんのか?
――おいなんだ?超怖ぇ何が居んだ?小池ですっげぇじゃばじゃば……こんなのも初めてだよ。この池何か居たか?この前狐は見たけどさ。……アライグマか?まじで?
――おい今度は物音だよ。足音ともつかない何かだよ。怖ぇよ。今日は何があんだよ彼処も明るいしよお!
〽︎煙草が美味しい。少しのお酒も――
――今度は何か、音でも影でもない、右頬に何かが纏わりついた。触れた訳でも、風が髪を押し付けた訳でもない。本当に初めての感覚だ。最早恐ろしいというより、心地好く、また嬉しい。矢張り煙草も美味であるし。
此処等でトイレを済ませておかないと――そう急ぎ足で立ち寄った公園――一先ずベンチの上に荷物を置こう。トイレを横切る間際、その目の前でイチャつくカップルと目が合った。当然小走りと暗闇で眼どころか顔すら見えなかったのだが、微かに漏れる男女の声と私の驚きとで、それは確実な事に思われた。どうせなら中でイチャつけよ。そう思いつつも、その二人を割って入る勇気は無いし、不思議と尿意は引いていたので、それでも何かはしておかないとそれもそれで気が引けると一先ず文字通りに手を洗ってその公演を後にした。生憎にも私は、そんなものを傍らに置いておく程酔狂でも無いし。
その公園の直ぐ側に在る公園へ向かう途中の、とっくに閉まったドラッグストアの前に座り込んで、誰にとも無く喋り続ける気狂いの婆さんを見た。
暫く歩いて別の公園に着いた。その公園は前に水が出なかった事があったから、試しに蛇口を捻ってみたらやっぱり水は出なかった。カラカラと空回るだけである。仕方が無いので、また直ぐ近くの、また別の公園へと向かった。
今度はもう我慢の限界だ。目前にして限界だ。――然し今度は何の障りも無い、静かな静かな公園だった。水も良く出る。此処にこの公園を汚す者があるとすれば私くらいなものだろう。それでも私は何の躊躇いも無く用を済ませた。
一つ落ちた。震えながらも考えるきっかけを得た。
寝覚めには過ぎた宵だ。でなければ覚醒を自覚できぬから矢張りこれは幸いだ。望みに崩れる後付けの叶いくにしても。
或いは夢の心地揺れ淡れむが。
だから基準を設けた。それが恋や恋や、愛とは付かぬ性の、得情、能的な消失、消沈的哀れ。――忘れ得ぬ訳だ。