表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

水の晶

 立ち止まろう。偶にはそういう始まりにしよう。ここに立っていよう。

 ほんのすこしの痛みに寄り添って――彼らに名前はなかった。皆私に拾われる愛しい翠晶。零と一の羅列が呼び戻す水と光の柔らかな風。涙を誘うのはもうよそう。私の足はこれ以上耐えられない。

 諦めてしまいたい。緑の髪を揺らす赤い欠片には歪んだ記憶おもいでやおちたことばのかたちなどが映る。

 目を瞑って見上げれば、誰しもここを見ゆり浮かぶ筈。涙を落とそう――澄んだ青が足元から囁く。委ねてしまいたい。

 躊躇うのは手を伸ばす願望が上へ、躊躇いらしき心地好さは下より引くから。

 森と思えば冷たい光、君は私になって、そうやって泣こうとする。代わりになるのはそんなに楽しい?

 声を聞かせて――耳をいくら近付けても、澄んだ石の囁きはただ石の震えるをゆるすのみ。温もりも、冷たさすら、伝えてはくれない。堅い頼りは片便り、弾けばどこまでも響いて、だけどそれまで。響いているからまだ耐えられる。硬い音は心地好くて、だからまだ耐えられる。

 晶成る木に生る石為る実の、と笑う私は悲しく映る。

 彼女は元気だよ、エーラ。物語よりの哀れな落とし子。可憐の身は腐って、それでも貴方は彼女を美味しそうに――落ちるのを待つのはそうも辛いもの?

 傷付けて喜ぶ貴方、傷付けられて甘く肥える君。涙は美味しい?

 片目を覆うと幸せになった気がする。可愛らしい?

 人だけの為に、なら、きっと幸せ。何故皆私まで?

 人を救うのは人だから、貴方も人を救ってしまえばいいのに。孤独が心地好いのは、今いる場所を忘れられるから?

 探すから気付く。求めるから虚しくなる。この石も、人の一生まで縮めれば生きていると思う?

 私はずっと先送り。だから生きている実感が湧かない。貴方のように話し、貴方のように笑ってみたい。

 答えなんて欲しくなかった。彼の言う通り。進歩は私を置き去りにする。だからせめて残したい。安心を、束の間でも、得られるのなら。

 甘く冷たい石。私は皆の欠片の、名残りをここに――怠惰と、完璧を求める罪の、償いを、私は私の為に、肩代わる。

 過去が未来を留めようとして――未来は過去の手を振り払えない。いつまでも悩んでいるから、私は――私が板挟みって、思ったから、きっと留めるのは私なのね。私が離れたら――だけどやっぱり私は板挟み。どちらへも進めない。

 過去も進む?未来も止まる?私はずっとここにいる。少し可笑しい。四季には早い外れかれ石。

 後になって光るから、拾い集めては捨てられずに、光った石を余して去りぬ。

 石は燃ゆり、潰せず、だから枯れず、実は落ちず。

 同じ世界を、彼らの重なりに見るから、私たちには違って見える。悲しくはないよ。少し、羨ましいだけ。

 もう砕き終えて――全てここに残ってる。悲しくも美しい、私の褥。

 一つの(ひび)を隠せぬ為に、一つ/\を壊し行く。崩した後には輝くかとて、君は散るまで削ただけよ。

 なだらかにはそれが好き手触りか、歩むには滑って仕舞う、欠片は止めるが止め過ぎる。

 玉かぎるとは玉にかぎる。(よすが)の色は(ひさし)にて、散る姿など見せぬだろうに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ