水の晶
立ち止まろう。偶にはそういう始まりにしよう。ここに立っていよう。
ほんのすこしの痛みに寄り添って――彼らに名前はなかった。皆私に拾われる愛しい翠晶。零と一の羅列が呼び戻す水と光の柔らかな風。涙を誘うのはもうよそう。私の足はこれ以上耐えられない。
諦めてしまいたい。緑の髪を揺らす赤い欠片には歪んだ記憶が映る。
目を瞑って見上げれば、誰しもここを見ゆり浮かぶ筈。涙を落とそう――澄んだ青が足元から囁く。委ねてしまいたい。
躊躇うのは手を伸ばす願望が上へ、躊躇いらしき心地好さは下より引くから。
森と思えば冷たい光、君は私になって、そうやって泣こうとする。代わりになるのはそんなに楽しい?
声を聞かせて――耳をいくら近付けても、澄んだ石の囁きはただ石の震えるをゆるすのみ。温もりも、冷たさすら、伝えてはくれない。堅い頼りは片便り、弾けばどこまでも響いて、だけどそれまで。響いているからまだ耐えられる。硬い音は心地好くて、だからまだ耐えられる。
晶成る木に生る石為る実の、と笑う私は悲しく映る。
彼女は元気だよ、エーラ。物語よりの哀れな落とし子。可憐の身は腐って、それでも貴方は彼女を美味しそうに――落ちるのを待つのはそうも辛いもの?
傷付けて喜ぶ貴方、傷付けられて甘く肥える君。涙は美味しい?
片目を覆うと幸せになった気がする。可愛らしい?
人だけの為に、なら、きっと幸せ。何故皆私まで?
人を救うのは人だから、貴方も人を救ってしまえばいいのに。孤独が心地好いのは、今いる場所を忘れられるから?
探すから気付く。求めるから虚しくなる。この石も、人の一生まで縮めれば生きていると思う?
私はずっと先送り。だから生きている実感が湧かない。貴方のように話し、貴方のように笑ってみたい。
答えなんて欲しくなかった。彼の言う通り。進歩は私を置き去りにする。だからせめて残したい。安心を、束の間でも、得られるのなら。
甘く冷たい石。私は皆の欠片の、名残りをここに――怠惰と、完璧を求める罪の、償いを、私は私の為に、肩代わる。
過去が未来を留めようとして――未来は過去の手を振り払えない。いつまでも悩んでいるから、私は――私が板挟みって、思ったから、きっと留めるのは私なのね。私が離れたら――だけどやっぱり私は板挟み。どちらへも進めない。
過去も進む?未来も止まる?私はずっとここにいる。少し可笑しい。四季には早い外れかれ石。
後になって光るから、拾い集めては捨てられずに、光った石を余して去りぬ。
石は燃ゆり、潰せず、だから枯れず、実は落ちず。
同じ世界を、彼らの重なりに見るから、私たちには違って見える。悲しくはないよ。少し、羨ましいだけ。
もう砕き終えて――全てここに残ってる。悲しくも美しい、私の褥。
一つの罅を隠せぬ為に、一つ/\を壊し行く。崩した後には輝くかとて、君は散るまで削ただけよ。
なだらかにはそれが好き手触りか、歩むには滑って仕舞う、欠片は止めるが止め過ぎる。
玉かぎるとは玉にかぎる。縁の色は庇にて、散る姿など見せぬだろうに。