おまじない ーTNstory
久しぶりに会った、馴染みの顔ぶれに、なんだか気が抜けた。日々の仕事が忙しすぎてなかなか集まることができないメンバー。新年に集まるはずが、もう半年以上過ぎてようやくだ。貴重な時間だなと意気込んだものの、4人で会ってしまえば、昔と何も変わっていない。たぶん俺も。
集まってしまえば、ただ飲んで食べてバカな話で笑っているだけ。テーブルの対角に座るネオが、緩んだ顔でお酒を口にしているのを見て、俺は思わず口角が上がった。それを誰かに見られるのが恥ずかしくて、飲むピッチをあげた。
「おいタア、ペース早すぎないか? 面倒だからほどほどにしろよ」
と、隣からオーの手が伸びてきて俺のグラスは取り上げられた。
「またかよ。この前、飲みすぎるなっていったばかりだろ」
ネオが呆れた風の大袈裟な顔芸つきで、俺を非難する。
いや。ネオ、お前のせいだからな。忙しくて忙しくて。俺もオーも忙しいが、特にお前は2か月以上休みなしだろう。毎日朝早くから働いているはず。そんなお前がふにゃふにゃの顔で、食べたり飲んだりしているから、 俺もついつい飲む量が増えるってもんだろ。
お前のせいだ、ともいえず。俺は場の空気を変えるために、用意したものを取り出した。
「なんだ、それ?」
とみんなが笑うそれは、トラのぬいぐるみ。寅年の新年のお祝いに、全員分のプレゼント。
本当は。中国ではトラグッズを厄除けとして持つんだと聞いたから。どう考えても忙しすぎる上に、足を怪我した状態で無理を押して仕事をするネオへ。この1年が良い年になりますように。これ以上辛いことが起こらず、たくさんの幸福が訪れますように。
当の本人は「あのドラマみたいに、録音できるぬいぐるみじゃないよね? ぬいぐるみのプレゼントとか怖いんだけど」とかなんとかぼやいていて、無事に持って帰ってくれるのか、不安しかない。自由人め、そこらへんに置いていくなよ。
視線を感じて横を見ると、オーが何か言いたげだ。オーのことだ、意味は知らなくても、俺の気持ちは気づいているんだろう。
じっとぬいぐるみを見ていたネオが急にキョトン顔。
「そもそもさ。これってさ。なんの動物?」
イヤイヤわかるだろ
「トラだろ。今年は寅年!」
そう答えたのに、
「これ……模様から考えると、ユキヒョウだよね?」
「え?…」
そうなのか? 確かによく見ると、確かに模様が少しずつ違う…。俺としたことが、トラを4種類買ったつもりだったのに!
トラに願いを込めるなんてまどろっこしいことをしないで、むしろ録音できるぬいぐるみに、俺の願いをしゃべって入れといたらよかったのか。ああ。俺はいつもそうだ。大事なところで、外してしまう。
「まあ、でもこの子、僕ぽいよね」
とふふと笑ってまんざらでもないネオを見て、俺は何もいえなくなった。確かに色白のぬいぐるみはネオっぽいと言えなくもない。この様子だと、きっと持ち帰ってくれるのだろう。なあ、ネオ似の白いトラもどき。俺はあまりネオの近くにはいられないから。お前がネオを守ってくれよ。ピンチのときは俺に……は無理なら、俺のトラにでいいから、念を送ってこいよ! とさらに願をかけた。
「何、また変な顔してるの?」怪訝な顔のネオに覗き込まれて、
「いや確かに、ネオに似てるなって思っただけ……」
俺はそっぽを向いた。
08.05.2022