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32:お姫様抱っこはどうでしたか?

 神の手ペタペタは時間との勝負よ!

 一度魔法を使うと、二分ぐらい手がびかびかっと光ったまま。

 ただ神の手の方が祝福よりごっそり魔力を持っていかれるみたいだから、五回以上は出来なさそう。


 効率よくペタペタするために、怪我人を二列縦隊で並んで貰う。

 治療が済んだら左右に分かれて、食堂を出て貰うことに。

 後ろに並んでいた人たちは、順々に前に出てきて貰う作戦よ。


「だいたい集まった。三十人ほどいるが、大丈夫か?」

「あ、そのぐらいなのね。えぇ、大丈夫よ」


 そのぐらいなら、全員の治療が出来そう。

 

 準備が出来たら魔法陣を思い描いて──小さな魔法陣が浮かんで、それがすぅっと私の掌に吸い込まれる。

 ぽぉっと白く輝いた手で、先頭の人の体をペタペタ触った。

 もちろん傷に近い所じゃないといけないんだけど。


「足を怪我されている方がいたら、ズボンを捲ってくださいね」

「じ、自分は腕だけですので、大丈夫です」

「痛み、とれてますか?」


 そう尋ねると、ビシィっと見事なまでに背筋をまっすぐに伸ばした騎士が頷く。

 そんなに緊張されると、逆に申し訳なくなるんだけど。


 さぁ、ひとり目完了!


 ・

 ・

 ・


「ふぅ、あなたが最後ね」

「大丈夫ですか、侯爵令嬢?」

「えぇ、どうやら気絶しなくて済みそう」


 神の手を四回使っているけど、効果が切れる前に彼の怪我も治癒できそうね。


「その魔法はどうしても体に触れなきゃならないのか?」


 グレン卿が急に尋ねてくる。

 さっきから気になってたけど、この人なぜか不機嫌なのよね。


「司祭様からはそう聞いてるんだけど」

「……そうだ! 別にお前が触れなくても、他の奴に神の手を付与すればいいんじゃないか?」

「んー……そうかも。でも魔力を消費するのは私だから、そこは変わらないんだけどね」

「よし、じゃあ俺に付与しろ」

「え、どうして? だってもうこの人の治療で終わるのに。っていうか、終わったわ」


 パパっと治療をして、はいしゅうりょ……ふぇ?

 大丈夫だと思ったのに、視界がぐにゃって曲がった。


 うぅ、魔力の少なさが恨めしい。


「魔力切れか?」

「あ、えぇ。でもだいじょ──ふぇっ」


 急に体が持ち上がって、なにごとかと思ったらお姫様抱っこされてる!?

 ちかっ。

 グレン卿の顔ちかっ。


「あっ、の、大丈夫です。ちゃんと歩けますから」

「魔力切れを起こしているんだろう。部屋まで運ぶだけだ、気にするな」

「いや、気にするとかどうかじゃなくって」


 恥ずかしいから下ろしてぇぇ。


「ル、ルシアナ令嬢っ」


 最後に治癒した人に呼び止められてグレン卿が立ち止まる。


「あの、ありがとうございました。どうぞ、ゆっくりお休みください」

「は、はい。傷は塞がっても、たぶん出血した分は戻らないと思うので。あなたも休んでくださいね」

「はいっ」


 彼が返事をすると、すぐにグレン卿が歩き出す。


「あのぉ」


 下ろしてくれる気は……ないらしい。

 こんな時間でもお城の使用人たちは起きてるから、廊下ですれ違う人みんながみんな私たちを見てる。

 恥ずかしい……恥ずかしぃよぉ。


「そ、そういえば、魔獣は、ど、どうでした?」

「幸い、こっちに近づいてはきていなかった」


 つまり私の祝福は、魔獣と遭遇する前に効果時間が切れたってことね。

 うぅ、お役に立ててない気がする。


「お前の魔法が、役に立った」

「立った!? で、でも魔獣の下に到着する前に効果が切れたんじゃ?」

「切れた。だが移動する間、魔法の影響なのか寒くもなかったしむしろ体は温まっていたからな。到着してもすぐに動けた」

「寒い? そ、そうか、日中でもあんなに寒かったんだもの、夜ともなれば」


 そう言うとグレン卿は頷いた。

 馬を飛ばせば更に風が当たって寒いはず。


 エリーシャの祝福を受けた時、確かに体がぽかぽかしたものね。


「お役に立てていたなら、よかったです」

「……あぁ」






「うにゃ……お、嬢様? お嬢様!?」


 部屋に戻って来ると、ぐっすり眠っていたローラを起こしてしまった。

 そしてこの状況を見て驚いてる。

 うん、ビックリよね。


「寝室」


 グレン卿が短くそう言うと、ローラが「ひえっ」と悲鳴を上げる。


「グ、グググ、グレン様っ、う、うう、うちのお嬢様と、な、なに、何をなさるおつもりですか!?」

「「え?」」


 グレン卿だけじゃなく、思わず私も声が出る。


「ローラ……大丈夫?」

「え、私ですか? はい、大丈夫です」

「そう。じゃあ……別に私はグレン卿と何かしようとかされようとかしていないから、ね?」

「でも寝室って仰いましたよ!」


 それは魔力切れを起こしてる私を休ませるためなのに。

 ローラ、寝ぼけてる?


「お前の主人は魔力切れを起こしている」

「え? 魔力切れ……お嬢様!?」

「そういうことだから、寝室のドア開けてくれる?」

「は、はいっ」


 まだ状況は飲み込めてないようだけど、ローラが部屋を開けてくれてグレン卿がベッドまで運んでくれた。


「あ、グレン様がいらっしゃるということは、討伐隊のみなさまはお戻りになられたのですか?」

「うん。ちょうど目が覚めたから、様子を見に行ったの。怪我をした方もいたし、私に出来ることをと思って魔法で治癒していたのよ」

「お嬢様が治癒……あっ、司祭様の神の手ですね」

「そう。祝福より魔力の消費が多いから、すぐに魔力切れおこしちゃって」

「それでグレン卿にお姫様抱っこされているんですか?」


 止めて。純粋そうに見えて実は興味津々なその目で私を見ないでっ。


「ゆっくり休め」

「う、うん。運んでくれて、ありがとう。重かった、でしょ?」

「軽い。ちゃんと飯を食え」


 おぉー。ここで重かった、なんて空気読めない男かもって一瞬思ったけど。

 ただ、飯を食え、はいらなかったかなぁ。


 グレン卿が部屋を出ていくと、ローラがにまぁっとした顔でやって来た。


「お姫様抱っこはどうでしたか?」

「おやすみなさい」

「お嬢様、初めてですよねぇ?」


 ちょっとでも何か言ったら負けな気がするから、ここは黙っておこう。

 そうでなくても、目を閉じただけで意識が沈んでいくのが分かる。

 ローラの質問攻めがいい子守歌だわ。


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