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26:よく考えておくといい

「わざ……と? ルシアナがエリーシャ嬢に罵声を浴びせたのは、わざとだと言うのか!?」


 さっさと婚約を破棄する書類を書かせるために、ベンジャミンの部屋へと訪れた。

 

「エリーシャ……あの女は帰したのか?」

「彼女には客室をあてがった。消沈しきっている状態でひとりにすれば、何をするか分からないからね。それよりルシアナがわざとあんなことを言ったとは、どういうことなんだ」

「どうもこうもない。親友にお前を譲るために、自分が悪役を演じたんだ。

 そうしなきゃあの女も、お前のことを諦めて身を引くだろう」


 そうさせたくないから、恐らく自分から婚約破棄をさせるつもりだったのだろう。

 だがなんの理由もなしに皇族との婚約を身勝手に破棄すれば、爵位の剥奪もされかねない。


「我が家と友人、双方を救うために彼女は悪役になったんだ」

「自分から……くっ。だとしたら、わたしはとんでもないことをしてしまった」

「分かっているのなら、とっとと婚約破棄の書類を作成しろ。今、すぐに」


 そうすれば明日には書類が侯爵家に届くだろう。

 荷造りに二日、三日掛ったとしても、すぐに出発できる。


「すぐに書類は用意するが、そう簡単ではないんだぞ。父上にも既に話は済ませてあるが、ルシアナ嬢の今後の補償もちゃんとして差し上げろと言われているんだ」

「皇帝に話を? ついさきほどの出来事だというのに、随分と早いもんだな」

「父上に話をしたのは、さっきお前が来たあとだ。庭園でエリーシャを見て、今までとはまったく違う感じがしたんだ。彼女こそが、運命の人だと……そう思ったんだ」


 う、運命? 何を言っているんだ、こいつは。

 どうせこれまでだって、一目惚れした女はみんな運命の人だとか思っていたくせに。


 しかし俺との会話のあと、皇帝に話を付けていたということは……。


「ではあのパーティーの席で、ルシアナとの婚約を──」

「彼女にはちゃんと話をするつもりだった。だからわざわざ妹をエスコートして入場したんじゃないか」

「だったらなんで、あいつの顔を──」

「あぁ……そうだね。彼女が演技していることを、見抜けなかった俺に責任がある」


 こいつにも、良心の呵責が残っているようだな。


「とにかく急いで書類の作成をしろ」

「するが、何故そうも急がせる? さっきも言ったが、このことで彼女が今後、良縁に恵まれないというようなことがあってはならないんだ」

「りょ、良縁!? まさか皇帝はあいつに、別の男との縁談を!?」

「あぁ、考えているようだよ。我が国の重鎮のひとり、カイチェスター家のご息女だからね」


 ……なんでこいつは笑っていやがるんだ。

 

「第一皇子の元婚約者だ。そんな彼女への良縁といったら……公爵家か、わたしと同じ皇子の誰かになるだろうね」

「はぁ? こ、公爵家で未婚といったら、中年かガキの二択しかいないだろうっ」

「君の後継人であるリュグライド公爵も独身だったね。それにダグラスとキルケルスもまだ未婚者だ」


 第二と第四の皇子だと?

 

「ルシアナ嬢は美しい女性だ、きっと二人とも喜んで縁談を受けてくれるだろう」

「お、おい……」

「ん? そういえばもうひとりの弟も、未婚だったかな? いや、あいつは色恋に興味はなさそうだし、声を掛けなくてもいいかな? そう思うだろう、我が弟グレン」

「きさっ──」


 くっそっ。ニコニコしやがって。ぶん殴りたい。


「ところで書類を急がせたい理由はなんだい?」

「……北部に」

「ルシアナ嬢を北部に招待するというのか!? それで彼女は承諾したと?」

「か、勘違いするなっ。侯爵家所有のロウニュウト城を見に行くためだ。城の中に掘り出し物のお宝が眠っているかもしれないからと、鑑定するために行くんだ」

「眠った宝……そういえば帝都にある別荘に、有名な画家の絵が見つかったと噂にはなっているな。絵画好きの大臣が、オークションに自分も参加すればよかったと嘆いていたよ」


 ベンジャミンは考えたあと、何日以内に必要かと尋ねて来た。

 十月までに北部に到着したい。その為には長くても半月だと説明。


「半月か」

「早ければ早いほどいい」

「まぁそうだようね。雪が降りだす前に到着させてやりたいとは思う。分かった。数日中に書類は用意しよう」

「そうしてくれ」


 それだけ言うと、退室するために踵を返した。


「グレン」

「あ?」

「春まで彼女は北部から戻ってはこれないだろう?」

「当たり前だろう。雪が深くなれば馬車は走れないのだから」


 行ってすぐ帰るというなら、積もる前に戻ってこれるかもしれないが……。

 そうでなければ、春になるまで北部から出ることは出来ない。


「半年ぐらいかな? それまでに決心しておくんだな」

「な、なにをだっ」

「彼女が帝都に戻って来た時ひとりだったなら、その時はわたしと父上とでよい縁談を探すことになる」


 半年。

 それまでにルシアナを──。


「あいつが誰と結婚したいのかは、あいつが決めるべきだ」

「彼女自身が決めるとして、その相手がいなければどうにもならないがね」

「……帰る」

「あぁ、よく考えておくといい」


 くそっ。

 奴を責めるためにきたってのに、何を考えろってんだ。


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