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謁見

次の日、朝食に白米と味噌汁が出てきた。ベーコンエッグにサラダも付き、豪華な食事となった。


「豪華だね!」


兄上も嬉しそうに味噌汁を啜っている。聞けば兄上も公爵家の息子とは名ばかりの扱いを受けていた様だ。食事も1日に1度しか当たらず、それもパンと牛乳のみだったという。父上はそういった事にはノータッチだったため、恐らくメイド長の判断だろう。私には食べきれないくらいの食事を用意したくせに。スティーブも怒りを滲ませていた。怒りの滲ませ方がセバスと似ている。親子なだけはある。


「ジェイコブ様。お昼はジェイコブ様のお好きなものをお作り致しますよ。何でも仰ってください」

「何でも.......」

「はい。大体のものはお作り出来ますので」

「.......」


固まってしまった。無理もないだろう。パンと牛乳のみの生活を送っていたのだから。


「とりあえず、スティーブが用意してみたら?パンと牛乳以外で。好きな物って言ったって分からないんじゃない?」

「なるほど。では腕によりをかけて作らせて頂きます」

「頼むね」


ジェイコブは少しホッとした様に言う。スティーブは料理も掃除も一通りをこなせる男だ。彼がいるだけで、あとはメイドが数人で済んでしまう。ありがたい存在だ。


「ところでリリア様」

「はい?」

「今朝早く、国王陛下から城に来るようにというお手紙が」

「.......今日はお休みなのに.......」

「仕方がありませんよ」


スティーブは苦笑いをする。陛下からの呼び出しは絶対なのだ。文句を言っても仕方がない。


「ロベルト様の所の馬車がお迎えに来て下さいます。『エンシェント☆キラーズ』として呼ばれていますからね」

「陛下にも知られてるんだ.......」


あの厨二病大爆発が知れてしまっているのだ。ハズカシイ.......


「大丈夫だよ、リリア。カッコイイよ」

「はい.......ありがとうございます.......」

「あはは.......」


ジェイコブは苦笑いをしている。朝食を終えて支度をすると、ロベルト家の馬車が到着した。すでに全員を拾い、リリアが最後だった。


「おはようございます。お待たせしました」


バルトは馬車を降りて頭を下げる。


「いえ、私も丁度支度が終わった所です。.......ではスティーブ。兄上をお願いします」

「はい。いってらっしゃいませ」


バルトのエスコートで馬車に乗り込む。こういう所でロベルト侯爵の育ての良さが出てくるのだろう。


「おはようございます」

「おはようさん」

「おはよう」

「おっす」


席に座ると、バルトもリリアの隣に座る。


「では出発致します」

「ああ、頼む」


ロベルト家の御者が一声かけて扉を閉めた。


「しっかし、陛下からの呼び出しやて。おとんがビックリ通り越して失神してたで」


メイベルはため息を吐いた。確かにいくら貴族でもそうはない話だ。


「普通は学園生なんて呼ばれないよねぇ」

「リリア嬢は生まれてすぐに謁見しましたけどね」

「生後半年で勲一等とか、どういう事だよ」

「知りませんよ.......」


そんな話をしているとメイベルは少し考えている。


「何かありましたか?」

「それや」

「はい?」

「ウチらはクラスメイトやし、パーティーメンバーやろ?それが敬語はアカンやろ」


ああ、そういう事か。確かに壁を感じるかもしれない。しかし、前世でも陰キャだった私にとって敬語を外すのは高いハードルがある。


「確かに、特にリリアは敬語が強いよねぇ」

「せや。しかもバルトの呼び方も『リリア嬢』て呼んどるしな。この際やし、敬語外したらええんとちゃう?」

「.......そうだな。そうしたら俺も『リリア』と呼んでもいいかな?」


バルトに少しはにかみながら言われると思わずドキッとしてしまう。いや、相手は子供だ。ときめいてどうする。


「構いませんよ。私も.......まあ、努力するけど」


あまり期待しないで欲しいと言うと皆笑った。顔が熱い。


「はぁ.......仲ええなぁ」


メイベルの言葉に首を傾げると、フィアンは笑う。


「リリア。お前、思ってる以上に表情に出てるからな?」

「自覚はないみたいだけどねぇ」

「こら、バルトも大変やな」


バルトを見ると、バルトも苦笑いをしている。


「まあ、少しづつで良いよ」


.......意味が分かんない。そう言って頬を膨らますと、ポンと頭を撫でられる。


「そのうちに分かってくれたらいいよ」

「.......はい.......?」

「天然過ぎやろ.......」


そんな話をしているうちに城に到着した。学生は謁見の装いは制服で良いのがありがたい。大きな扉が開かれる。中は謁見の間。両脇には騎士と政治の中核を担う貴族達が並んでいる。玉座の前の階段下まで行くと、全員最敬礼をする。少しすると重い足音が響く。


「面を上げよ」


顔を上げると、玉座に国王が座っていた。


「リリア嬢、久しいな。元気そうでなによりだ」

「ご無沙汰致しておりました、国王陛下」


優しい笑顔。国王陛下が慕われるのはこの笑顔が理由だ。


「ギルドから報告が上がってきたぞ。ギルド登録初日から活躍した様だな。問題もあったが、まずはGランクでブラックウルフを討伐したと聞いた。ランクの問題で処理できなかったようだが、それではあまりにも可哀想だ。一応、私の命で討伐処理はさせておいた。時間がある時にでもギルドに行ったら報酬が出るだろう」

「お心遣い、深く感謝申し上げます」


やはり陛下の命は強いな。ありがたい。


「すぐにランクを上げさせても良いのだが、順番を無視はできないしな。そこは了承してくれ」

「もちろんです」

「して、ここからは例の問題だ」


謁見の間に緊張が走る。


「皆も周知だとは思うが、今回の謁見での情報は全て箝口令を敷く。良いな?」


同意として軽く頭を下げる。


「王都近くの森でエンシェントウルフが出たそうだな」


周囲がザワつく。何しろエンシェントは災害レベルだ。それが王都の近くで出たなんて、まさに非常事態だ。


「今回はリリア嬢率いる『エンシェント☆キラーズ』が討伐した様だな。改めて感謝をする」

「もったいないお言葉です」

「陛下!お待ちください!」


そう言ったのは1人の貴族だ。確かに伯爵だったはず。


「こんなまだ学園に入ったばかりのガ.......子供たちにエンシェントウルフが討伐できるわけがない!おかしいですよ!」


この伯爵、ガキって言おうとしたな。


「それについては.......宰相」

「はい。ギルドに確認した所、リリア嬢はレベルの限界突破を行い100レベルに到達している事が確認された。その上で、リリア嬢が討伐を、ほかのメンバーは支援を行ったそうです」


淡々とした宰相の言葉に会場はどよめいた。100レベルというのは伝説上の話であり、現実で行えるとは思わなかったのだろう。


「リリア嬢。相違はないな?」

「はい。メイベルが土魔法で動きを封じてくれたおかげで楽に倒せました」


エンシェントウルフが楽に倒せた.......にわかには信じられない言葉だった。少なくとも、見た目と中身が相反するのである。


「そうか、楽だったか!これは参ったな!」

「そして話によると、エンシェント系の魔獣を討伐したのは初めてではなかったそうだな?」

「はい。限界突破の条件が古代上位魔獣5種の討伐でしたから」


無自覚天然爆弾ポイポイである。会場が水を打ったように静かになる。


「.......素材は?」

「持ってますよ?出しますか?」

「……頼む」


アイテムボックスからエンシェント素材を出す。ギルドでの一件以来、倉庫をもうひとつ作りエンシェント素材だけを入れておく事にした。事故防止だ。


「その様子だと、ギルドでも売ろうとはしていないな」

「そんな簡単には売れませんので」


そんな事をしたら市場が荒れてしまいますよね?と言うと陛下と宰相は苦笑いをする。


「そう言う問題やないで?リリア」

「うん?」

「エンシェント素材は討伐例も少ないし、大体は国の騎士団が討伐したもんを国が主宰するオークションに出すもんや。一般人が持ってるもんとちゃうし、前例があらへんで?」

「あ、そうなんだ。素材って自力で調達してたから買った事なくて……」

「「「「「……」」」」」


何か全員から同情の目を向けられている様な?だって、武器だって魔法使いだって理由で買ってもらえなかったし、防具だって必要ないと言われたから……でも欲しかったから素材を自分で調達して錬金術を使って作ったりしたのだ。


「エンシェント素材は主に防具や魔道具なんかに使われる。リリア嬢は何に使っているのか?」

「そうですね……魔道具ですかね。雨除けとか魔獣除け、小さなナイフとか……」

「作れるんだな」

「はい。独学ですが」

「十分だがな」


国王はもう驚くことは止めたらしい。これ以上は身がもたないと判断した様だ。


「して、ギルドマスターのケインから聞いたが、奴を含めたパーティーメンバー全員のレベル上げを考えているとか」

「はい。ギルドマスターは60レベルだと言っていましたが、正直低すぎます」

「……ほぉ」

「せめてエンシェントウルフを単独討伐出来るレベルに、80レベルまでは伸ばしたいかと思います。うちのパーティーは今年中に50を目指そうと思います」


斜め後ろから『このアホォォォォォ!』という空気を感じるが知らんぷり。大丈夫。メイベルは強い子。


「その達成確率は?」

「達成させます。死なない程度に扱き上げます」

「そしてランクはCを目指すと……」

「はい」


天使の様な見た目のご令嬢からは到底想像出来ないアグレッシブな言葉だ。陛下はフゥと息を吐いてしばし考える。そして……


「それを達成した暁には、お前達は全員叙勲、学園無条件卒業。ギルドのランクもSSに引き上げる。そして我がお抱え冒険者としてパーティとして騎士男爵に。加えて王国軍騎士団並びに魔法師団の育成を頼みたいのだが、良いか?」


貴族達がザワついた。リリアも予想外だった。しかし、断る理由はない。


「ありがとうございます。必ず、陛下の期待に応えられる様に精進いたします」

「うむ。期待しているぞ」


こうして規格外の謁見は終了した。


日本人は白米が恋しくなるはず!


予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします。

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