まさかの転生者
王都の屋敷に戻ったリリアは紅茶を片手にほっと一息吐く。父上が死んでからというもの、色々と騒がしかった。紅茶を飲んでゆっくりと過ごすなんてなかった。兄上は夕食を終えて自室に戻ってしまった。決して仲が悪い訳ではないのだが、少し気まずさもあり仲良くおしゃべりとまでいっていない。そろそろ思春期なのもあるかもしれない。
「お疲れですか?」
そう声をかけてくれたのは執事のスティーブだ。セバスの息子で、城で執事をしていたのを陛下の計らいで雇ったのだ。
「ここ数日、色々ありすぎだからね」
「確かに充実、とはまた違った忙しさで翻弄されていらっしゃいましたからね」
「今日も冒険者登録してついでに軽く依頼を受けて、と思ってたのに結局問題に巻き込まれちゃったし」
「お話は伺っております。まさか王都の近くでエンシェントウルフが出現するとは思いませんでした。それを難なく倒したというリリア様も流石は神にまつわる称号をたくさんお持ちのお嬢様でございます」
「そうだ、聞こうと思ってたんだけど」
「はい」
「あの神系の称号ってやっぱり珍しいんでしょう?」
「少なくとも私は初めてお目にかかりました」
「先生も同級生達も割と冷静だったんだけど」
もちろん驚いたり呆れたりはしてたが、もっと大騒ぎになってしまうかと思っていた。正直ありがたかったが、想像より冷静に受け止められていた事に少々驚いたのだ。
「お嬢様の事に関してはすでに箝口令を敷かれていますし、一方でお父上に関する事は周知の事実でございます。内容はともかく、非常識な教育を受けられ、その方法はもはや折檻と同等であるという事は知られています。その情報があっただけに、逆によく無事であったという考えもありました。魔物の子供なのではないかという噂まで跋扈していたので、むしろ納得したのではないでしょうか」
「神の称号を持っていたからこそ無事であったと?」
「ええ。そんな存在を折檻していたお父上は天罰が下ったのだろうという判断をしたのでしょうね」
色々納得した。王太子達はどうだか知らないが、少なくとも神系の称号を手に入れている人間だから逆に恐れなくてもいいという判断をしたのかな?
「私、家庭教師の先生からお勉強程度に知ってる程度なんだけど、この国の宗教ってどうなってるの?」
「そうですね……」
スティーブは少し考えて壁際の本棚に向かう。そして一冊の本を取り出して来た。その本は古びていて装丁も少し汚れている。
「書庫にあった本の一部をこちらに持って来ました。基本的な情報のものだけですが、学園に通っている間にさっと調べるのに必要になるかと」
「流石はセバスの息子さんね。ありがとう」
「勿体ないお言葉です」
セバスは国内で有数の執事だ。そんなセバスの一人息子であるスティーブはその経験や知識を余す事なく教え込まれている。そりゃあ優秀にもなるよね。
「この国で信仰されているのはウトピア創神教です。この世界の神は創造神によって作られ、創造神の加護によって守られている世界です」
「一神教ね」
「その通りです。この世界は元々、神に捨てられた世界でまさにカオスだったと言います、秩序もなく、悪戯に命を奪う様な事が横行したそうです。そんな中に1人の人間が生まれました」
貧乏な生まれだったかの者は名もなく、ボロを纏いその日を生きるのもやっとだった。しかしかの者は、神として力が弱く人間に加護を与えることができず、別の世界で神々から迫害を受けこの世界に落とされたれっきとした神だったのだ。それを見て不便に思った創造神はかの者に『イニティウム』と名付け加護を与えた。イニティウムは実りに恵まれない自身の村で畑を耕し、作物を育てた。森に入りわずかばかりの木の実を採取し、一部を家の側に埋めた。イニティウムは力こそ弱いものの確かに生命の神だった。毎日畑仕事を行い、狩りに出ては捕まえた動物の命を頂くことに感謝をし、ひたすら神に祈りを捧げた。村人達も両親さえも『神などいない』『彼は気が触れた』と嘲笑ったがイニティウムは毎日欠かすことなく祈り続けた。すると耕した畑は少しずつ実り、木の実も採取出来るまでになった。徐々に両親や村人達も考えを改め始め、荒れた村には活気が出始めた。強欲な領主からの迫害にも屈せず、村人達で力を合わせて領主の座から引き摺り下ろしイニティウムが領主となった。周辺の村の村長や街の領主とも話し合い、創造神の加護も助けとなりイニティウム達は王の座に君臨していた怠惰な国王に反乱を起こし、王家を滅したのだ。
「その後、国王の座にイニティウム様がつき、イニティウム・フォン・アトラスと名乗りました。こうして創造神様を信仰するアトラント王国が誕生しました」
「創造神様はこの世界をずっと見ていらっしゃったの?」
「話によりますと、創造神様は異界より現れ出て荒れたこの世界を憂いてイニティウム様に加護を与えたと言われています。そして、創造神様はイニティウム様に穀物の種を渡したと言います」
「穀物?」
「はい。“コメ” と呼ばれる穀物で、エルドランの領地では実りは期待出来ませんでしたが、ロベルト領では特産として国王への献上もされています」
「……」
まさかの創造神様が転生者説。いやぁ、まさか創造神まで転生者だなんて誰が思うだろうか。王国の歴史なんかを勉強してイニティウム国王が転生者の可能性は考えていた。何しろ “コメ” をロベルト領で栽培しているのは知っていたし、その最初がイニティウム国王だというのも知っていたから。でも、それを与えたのが創造神だとは思っていなかった。
「“コメ” に興味がおありでしたら、明日の朝食にお出しいたしましょうか?」
「食べたい……!」
この世界の主食はパンだ。もちろん、決して不味くはないし領地での田舎パンも美味しかった。学園の食堂で出てくるバケットも、屋敷で出てくる白パンも美味しい。しかし、やはり白米が恋しい。湯気から匂い立つ白米の香りがなつかしいのだ。しかもロベルト領での食事で欲に火がついてしまった。
「かしこまりました。朝食にご用意いたしますね」
あまりのリリアの熱意にスティーブは苦笑いをする。確か味噌もあったはずだ。ついでに味噌汁も希望するとそれも受け入れられた。明日の朝がとても楽しみになって来た。
まさかの創造神が転生者。これから結構、転生者説増えます。
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