リリアと紗智
「よく来たな」
目の前にはスグルがいた。
「創造神様。ご無沙汰いたしております」
リリアは最敬礼をする。バルト達も慌てて最敬礼をする。
「魔王リリアは消滅した。裏の世界は……まあ、また再構築されてはいくだろうがな」
「捻れた状態からは戻るでしょう」
「ああ、そうだな。まさか裏の世界のリリアがあの時に暴走してたとは思わなかったがな。どうしてそうなったのか……」
「恐らく『あれ』のせいではないかと」
リリアが視線を送る先にはうずくまっている1人の少女がいた。何かをボソボソと言っている様だが、よく聞き取れない。
「あれは……」
「私の前世の幼少期よ」
バルトの問に簡単に答える。ここに連れて来たら浄化されるかと思ったのだが……
「『あれ』だけは消滅出来なかった。その剣を召喚させて何とか魔王から切り離しはしたんだがな」
「十分ですよ。ありがとうございます」
リリアは立ち上がって剣を鞘にしまう。とりあえず、前世の事をあそこで出来ないから、こっちに連れて来れてよかった。
「魔王が私ほどになれなかったのはこの『病み』も原因でしょうね」
「どう言うことや?」
メイベルは首を傾げる。
「表の世界の『私』は、前世の意志や記憶をしっかり引き継いで訓練もしてたし。でも裏の世界での『私』は、前世の『病み』がずっとこの状態だったからどうしようもなかったんでしょうね」
「そうか。つまり裏の世界の『リリア』は『リリア・フォン・エルドラン』だけで生きて来たってことか」
フィアンは納得したように言う。そう、前世の記憶を引き継いでいない素の『リリア』だけで裏の世界の『リリア』だけであそこまで強くなったのだ。そう言う意味では、『リリア・フォン・エルドラン』自身がポテンシャル的にも高い存在だと言う事でもある。
「そう考えると、何だかやるせないな」
「これで父親がまともだったらねぇ……」
レオールもレオンも同情している。確かにこれで父上がまともだったら未来も変わったのだろう。本当に父上の罪は大きかったと言う事だ。
「あの男は今後の転生で罰を受けることになっている。そして『学び』も与える」
「『学び』ですか?」
リリアはスグルを見る。
「転生後の世界は一種の修行なんだ。転生を繰り返して修行を通して『学ぶ』事でそのうちに他の世界の創造神になるためのな」
「あ、そういうシステムなんや」
良い創造神として世界を作っていくために、転生をして修行を重ねる事で創造神になる事ができるそうだ。スグルもそう言うものの1人だそうで、創造神として初めて自分で一つの世界を任されたのがこの『アトランティス』なんだそうだ。
「もちろん、創造神として駄目なヤツは修行し直しなんだけどな。そう言う意味では僕もお前らはかなり『特殊』なんだよ」
「片や消滅寸前の創造神、片や異世界からの転生者によって『規格外』になった神候補ですものね」
「そういうことだ。まあ、悪い奴らじゃなくて良かったって所だな。……さて」
スグルは紗智を振り返る。まだブツブツと何か言っている。
「リリア、お前の創造神候補としての初仕事だ。こいつを浄化してやれ」
「はい」
リリアは静かに紗智に歩み寄った。膝を突いて紗智の横に剣を置いた。チラッと紗智の視線が剣に向く。
「……『宝剣エクスカリバーと聖騎士の伝説』。懐かしいね。小さい頃に憧れたよ、あのエクスカリバー」
まだ幼稚園の頃、子供の間で流行ったアニメ。ごく普通の少女がたまたま河原で拾った宝石がエクスカリバーの封印を解くもので、少女は聖騎士として世界を混沌に落とす悪をエクスカリバーで倒すというお話だった。リリアもエクスカリバーに憧れ父にねだった。真剣の師範でもあり鍛冶師でもあった父は、玩具屋に行ってあまりにちゃちな上に高いエクスカリバーを見て『これだったら俺が作る』と言って自分で作ったのだった。その方が余程高いだろうに、父は一切の迷いもなくアニメに出てくるエクスカリバーを見ながら再現した。父は刀も洋剣も嗜む真剣の師範であったために出来た事であった。それをクリスマスにプレゼントされた紗智はとても喜んで毎日それで真剣を学んでいた。父は『これが紗智の事を守ってくれるよ』と毎日のように言っていた。
「紗智。これが紗智を守ってくれるわ」
『……私を……?』
リリアは近くにある湖に魔力を注ぎ込む。水面には懐かしい映像が映った。
北の大地では連日ニュースを賑わせる事件が起きていた。とある建築デザイン事務所で働いていた女性が交通事故に遭い亡くなったのだ。それだけだとただの事故だったのだが、問題だったのは彼女が務めていた職場のブラックさだった。女性は大学ではトップクラスの実力を持っていて、首席卒業で鳴り物入りで就職したのだ。父親はその世界では有名な鍛冶師で真剣の師範でもある。彼の作る剣や刀は高値で取引されている。まさにこの親にしてこの子ありといった人材だった。にもかかわらず、会社での彼女の活躍は皆無と言っても過言ではなかった。それとは反比例するように、パッとしなかった会社の業績は鰻登りだった。今までさして活躍していなかったデザイナーが彼女が就職したと同時に大活躍をし始めたのだ。これは一体どういうことなのだろうか。
そこでその理由を裏付ける証拠として挙げられたのが父親の訴えだった。同僚が賞を受賞したデザインの中に、娘が幼い時から作っていたデザインの家があると言う。幼い時にクレヨンで描いたデザイン、そして紗智の自宅パソコンからそれをリメイクしたものが出て来たのだそうだ。つまり同僚達は彼女のデザインを盗んで、その功績を搾取。剰え、彼女にはサービス残業を強制し、納期に間に合う様にデザインを仕上げさせていた。そしてまたそのデザインを搾取する。そんな事がこの会社では常習化していたのだ。
そしてもっと問題だったのは、将来父親が引退した時に娘がデザインした家を立てようと計画していた土地を弁護士が勝手に売って金にしていたそうだ。その金は弁護士が使い込んでいた。父親は自分の道場で涙の記者会見をしていた。娘の出産の時に妻を亡くし、男手ひとつで育てて来た娘がデザインした家は奪われ、それを建てようとしていた妻の墓に近い土地は勝手に売却された。その悔しさを吐露する姿は世間の涙を誘った。
「あの子はっ!私の宝だ!裁判をしても娘が帰ってくるわけではない!しかし!私は娘の名誉を取り戻し!娘の功績で甘い蜜を吸い続けた奴らに!必ずこの手で地獄を見せてやる!」
そして、それと同時に事故にあった彼女を救護したサラリーマンも取材に答え、その惨劇を語っていた。実はそのサラリーマンは同じ会社で別の部署に配属されていた同期だった。彼は残業していた彼女のことも覚えていて、時々声をかけていたそうだ。
『……覚えてない』
「まあ、もう最後の方は無意識で働いてたしね」
紗智の呆然とした言葉に、リリアは苦笑いをする。しかしリリアが気になっているのは、このサラリーマンがバルトに似ていると言う所だ。
「ああ、珍しいな。こう言うのは地球では『ドッペルゲンガー』って言うんだよ」
「つまり同じ存在ってことですか?」
「そういうことだな」
スグルはうなづく。平行線世界ならともかく異世界同士にドッペルゲンガーというのは珍しいのだそうだ。どうしてそうなったのかは分からないそうだ。
「……これは創造神の間で出ている話なんだがな。こうやって異世界同士でドッペルゲンガーが出ると身近な人間の魂を異世界同士で引き合うって話があるんだ」
「引き合う?」
「ああ。お前がこっちに来たのは偶然なのか、はたまた必然だったのか。そういうことだ」
スグルの言葉にリリアは首を傾げる。
「まぁ、鈍いリリアには難しい話やな」
「……メイベル。それ、どういう事よ!」
失礼な話だ。身近にいる人のドッペルゲンガーが異世界にいると、死んだ後にその異世界に引っ張られる事があるってことでしょう?流石に鈍い私でも分かるわよ!
「……ぜってー分かってねぇ」
「完全に勘違いしてるよねぇ」
「根本的な所は理解してるんだろうけどな」
「まぁ、いいけどな」
バルト達も笑っている。なんなのか。よく分からないが、まあそれを問い詰めるのは後にしよう。リリアは紗智に視線を戻す。
「紗智。この剣はお父さんが貴女に作ってくれたもの。貴女を守る『宝剣エクスカリバー』だから。これが貴女を導いてくれる。……ね?」
『……痛くない?』
子供のような問いかけだ。
「それも分からないくらいに一瞬だ」
スグルの言葉に紗智はコクッとうなづいた。リリアは紗智を抱きしめて剣に触れる。すると紗智が消えた。剣を抜き天に向かって剣を掲げると剣は光り輝き、光は天に向かって飛んで行った。
お父さんがまともだったら、魔王リリアは誕生していませんでしたね。
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