魔王リリア
魔王が襲撃して来るかもしれない。その噂は何処から漏れたのか国中に広まっていた。領民も領主であるリリアに聞きに来る事が多い。とは言え、臨月を迎えたリリアの公務は減らせているので、ほとんどはジェイコブかバルトが担当している。陛下と話し合った結果、リリアの出産は城で行うことに決まった。魔王襲撃に向けての安全策だ。リリアの出産にはフィン様が付くことになった。戦闘になった時に城で騎士の回復にはアメリアが、そして魔王襲撃の時は魔獣も活発化するため、そこは『黒炎』とトウヤ先生率いる学園の先生方、そして何とフェルデール達も参加する事になった。卒業以来、あのメンバーで冒険者をしていたらしく、Cランクになっていた。そして魔族は全て騎士達が担当し、バルト達は魔王に集中する事になっている。そしてリリアの出産が終わり回復したら魔王戦に合流すると言う事にはなっている。
「何だか申し訳ありません……」
「良いんだよ。君が無事でいる事が、王国を守る事になるからね」
出産前の検診に来たフィン様は微笑んで言う。リリアの部屋には認識阻害の魔道具が設置されている。そうする事で魔王にリリアの位置を知られない様にするのだ。その代わり、リリアは出産が終わるまでこの部屋から出られないのだが。
この部屋には常にセバスとレイ、そしてロベルト侯爵が付いている。
「今は出産に集中しましょう」
「そうですよ。戦闘はバルト達にお任せください」
セバスの言葉にロベルト侯爵も同意する。確かにこの体では戦闘もできない。今はこちらに集中するしかないだろう。エルドラン領の領民は領主館の地下に作った避難所に避難させた。そこは太陽がなくとも農作物が栽培でき、肉なども自動補給され、領主館ごと認識阻害と結界によって守られた空間だ。是が非でも領民を守ると言う領主としての覚悟を示した空間だった。そこにはジェイコブとガッツが詰める事になった。
「伝令!魔王軍が襲撃してきました!」
騎士が入ってきた。
「……来たか」
「始まりましたね。……こっちも」
「「「「え?」」」」
感じた事のない腹痛が始まった。これは……
「陣痛ですね。さあ、ここから戦いですよ」
「はい」
長い戦いが今、始まろうとしていた。
バルト達は遠くに見える黒い集団を城の屋上から見つめる。地上も城壁の前には多くの魔獣が集まっていた。
「こりゃまた何と言うか……」
「異様な姿だよな。帝国との契約で結界が貼られているから王都内は安全だと思うがな」
レオールが言う。そう、リリアの穴を埋めるためもあり王国に来ていた。『エンシェント☆キラーズ』の帝国支部から多くの援軍が魔獣討伐を担当してくれる。
「帝国は大丈夫なのか?」
「ああ、なぜか帝国側の魔獣はゼロなんだ」
「……王国に照準を合わせてるんだな」
バルトの言葉に全員が納得した。もし魔王がリリアなのならば、王国しかターゲットにしない。これはリリアも言っていた。
そして魔王の姿がはっきりと見えた。
『……墜ちてゆく……暗い、暗い、闇の底に……』
「まあ、そうだよな」
「想像はしとったけど」
「リリアだよな。ってか、迫力あるな、魔王リリア」
魔王リリアは恨みと憎しみで『天使令嬢』は見る影もない。美しい黄金色の髪は真っ黒になり、瞳には感情が感じられない。そのオーラからは何もかもに絶望した様な雰囲気が見て取れた。
「陛下からの扱いは悪くはなかったが、父親からの扱いは酷かったからな。こっちのリリアは問題なかったが、向こうのリリアは気がついてもらえなかった時点で同罪だとでも解釈したんだろう」
「その結果、お披露目の時期にクーデターか」
あの後、クーデターはお披露目会当日だったと言う事が分かった。会場で父とお披露目会に参加したリリア。バルトを紹介され、その場で婚約が決定し自分はお飾り公爵として王国初の女公爵になる相談がされたそうだ。そしてリリアは絶望し、クーデターの引き金になったそうだ。王国内を暴れ回り、自分の下につくか敵対するかを選ばせ、部下になる者は契約し、敵対する者は容赦なく消滅させたそうだ。そうして残った者は少ない。そしてバルト達は消滅しているそうだ。
そんな話しをしていると魔王軍は守護の結界を通り越して進入してきた。流石に想定外だった。
「おいおい……」
「城に結界を展開しておいてよかったな」
「ああ。……魔法師団!初撃、準備!」
バルトの指示で魔法師団は魔力を溜めた。
「撃て!」
魔法師団総出で発射された魔法は魔族達の塊に直撃する。墜落した魔物達は下にいる騎士団によって次々に退治されていく。
「城には近づけさせるな!」
バルトはそう言ってメイベル達に合図を送る。全員魔道具を起動して空を飛んだ。浮遊魔法の魔道具。リリアが用意してくれた魔道具だ。バルト達は邪魔な魔物達を蹴散らして魔王の元に向かう。
『あら……?アンタ達が来たの?』
「ああ。来てやったぞ、リリア」
『頼んでないんだけど』
「そう言うなよ。こっちは待ってたんだからな」
『ふぅん?まあ良いけど』
魔王リリアから膨大な魔力を感じる。一瞬で発射された炎をさっと避ける。すぐに反撃の魔法を撃つがすでにおらず、背後に現れた。
「おっと!」
『へぇ、反応出来るの』
バルトは即座に結界を発動し、魔王の攻撃を防ぐ。魔王は意外そうな顔をする。
「流石に魔王リリアだけあって強いな!」
『ふん。アンタに褒められても嬉しくないわね』
「釣れないこと言うなよ。一応、こっちではリリアの夫なんだからな」
『あら、お飾り公爵を甘んじて受けたって言うの?』
「どうやらお前の想像している運命とは少し変わってる様でな。あのお披露目会の時、会場に向かう途中の父上殿は何者かに襲撃されて殺された。そしてリリアは図らずも父親から折檻を受けていた事を俺の父上に話した。その結果として、リリアは陛下から保護を受けて公爵となり、俺はエルドラン領で冒険者ギルド支部のギルマスをやってる」
『……嘘よ』
「本当だ。リリアは公爵として、陛下お抱えのSSランク冒険者パーティ『エンシェント☆キラーズ』のリーダーとして外交もしたし、この国の騎士団の強化もやってるしな」
『そうやって騙して何が楽しいわけ!?』
魔王はボンボンと火の玉を放つ。火の玉は四方八方に放たれ、全員が避けるのに必死だ。
「うわっちょ!」
「ちぃと落ち着きぃな!」
メイベルは魔王の手に魔法を放つ。攻撃は止まったが、ダメージは何一つ入らなかった。
『嘘つき!嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!』
魔王の『病み』が広がっていく。リリアの殺気並の重さだ。
「こらアカン!押さえるだけで手ぇいっぱいや!」
「王都に入れるな!ここで押さえ込むぞ!」
ちょっとでも違った未来だったら、同じ事が人間世界でも起きていたのでしょうね。
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