調印式
次の日。前日にトラブルはあったものの、予定通りリリア達は帰路につく。その一団にレオールの姿はない。
「あとはお願いね、レオール」
「最善は尽くす」
レオールの目には迷いがなかった。斜め後ろでステラ皇女も微笑んでいる。デニス率いる魔法使い達もいる。彼らが帝国支部の魔法師団だ。ここから人材を育成して帝国の魔法師団になるものもいるのだ。そして定期的に交換留学も行う事になっている。
「リリア公爵、本当に世話になった。そしてこれからも頼む」
「はい、皇帝陛下。また調印式でお会いしましょう」
「ああ。また会おう」
リリア達は馬車に乗り込む。今度は馬車が2台になっている。1台はリリア達が乗り、もう1台は荷馬車だ。レムリア帝国からの沢山のお礼の品が入っている。国王夫妻へだそうだ。
馬車はふわりと浮かび上がる。下を見下ろすと皇帝達が手を振っている。デニスに至っては両手を振っている。帝国は来た時とは見違えるほど綺麗な空気になっていた。鳥も飛び、帝都の人々も馬車を見上げて手を振っている。帝都を出るまで馬車はリリア達に手を振っているのが見えるギリギリの高度で走り、そして帝都を出ると高度を上げた。
「はぁ……」
「なんか忙しかったな」
「本当だな。色々疲れた」
「初めての外交だったけど、成功と言って良いのかな?」
「無事に帰って初めて成功よ」
「……たまにはええ事ゆーやん」
「『たまには』ってのが気になるんだけど?」
別にフラグっぽいこともなく、リリア達は帰路の3日間はほぼ睡眠に費やし、王国に到着した。しかし、ここからが忙しい。
王国に到着したのが朝の6時。即謁見が行われ、交渉結果の内容を確認。同じ日の昼過ぎに国王陛下夫妻を馬車に乗せて一同帝国に向けて出発。途中エルドラン領に寄りジェイコブを連れて行く。何故かというと夜会のためだ。調印後の夜会はパートナー同伴なのだ。唯一パートナーのいないフィアンとレオンは皇帝の第2皇女ハンナと第3皇女エリスをエスコートするそうだ。
国境にたどり着くと、すでに皇帝が待っていた。馬車を降りて国王は真っ直ぐに皇帝の方に向かう。
「久しいな、ガストラ」
「アル、何年ぶりだろうな」
「かれこれ5年ぶりか」
「そんなに経つか!早いものだ!」
「リリア公爵から話しは聞いた。体は大丈夫か?」
「ああ、心配をかけたな。もう大丈夫だ」
仲の良い2人だ。互いに抱き合い、握手をしながら話をしている。皇帝の側にはステラ皇女とレオールがいる。リリア達が帰路についている3日の間に婚約式が行われ、調印が終わってから結婚式が行われるそうだ。すでに居を支部に移しているそうで、夫婦としての生活は始まっている。そして婚約式を前にして皇女襲撃も起きたそうだ。が、そんな事を想定していないわけもなく、リリアが渡していた魔道具の指輪が結界を発動し、その間に騎士達が到着したそうだ。婚約式中にも襲われたそうだが、それはレオールがあっさりと倒しステラ皇女がうっとりしていたとか。
騎士達の指導も本格的に行っており、対人はもちろん対魔獣戦も視野に入れて行われているそうだ。リリア達はとんぼ返りだったが、帝国の方は5日の間に色々改革が進んでいる様だ。魔法使い達も力をつけ始め、魔獣討伐も行われている。素材の回収率も日に日に上がってきているそうだ。デニスは本当に優秀な弟子だ。
調印式は滞りなく行われた。そして製作者としてリリアの宣言の元で国王と皇帝の剣が交換された。ミスリルの剣が鞘から抜かれ、片手は調印した書類にかざし刃が交わる。その瞬間、刃と書類が輝きそして書類は消えた。帝国側はザワザワし、王国側は『ああ、またか』といった感じ。
「これで契約は成立しました。この契約が違われた時は、剣がそれを示す事でしょう」
まあ、それっぽく言ったが一種の呪いだ。この契約は国の国家元首の命を国ごと守るもの。この契約がある限り王都や帝都への魔獣襲撃はなくなる。もし背いたら、王族の血族全員が呪われて漏れなく死ぬ。そして国の守りもなくなる。『背く』というのは契約の内容はもちろんの事、守りにあぐらをかいて魔獣討伐を蔑ろにしたらそれも契約違反になる。もちろん救済方法はある。それは秘伝の書として剣と共に互いの宝物庫の中に入れられる事になっている。そして契約内容は継承者に語り継いでいく事になっている。代替わりしたら契約も更新される。……これは秘密だが、契約書は創造神の所に保管される。もちろんスグルには許可を貰った。『この世界が仲違いで滅びることがなくなる方法だから協力する!』と言っていた。創造神とリリアでかなり気合を入れて作っただけに失敗が怖かったが、上手くいってよかった。
「……どうなってるんだ、あれ」
「知らへん」
「相変わらず自重しなかったんだろ」
「国家間の事だからね。気合が違うよねぇ」
ジェイコブの問いにメイベルはサラリと答える。メンバーさえ分からないものを作った妹に頭が痛くなる兄である。
「両陛下がよく許したと思うな」
バルトは言う。どうして両陛下が許可をしたのか。それは『リリア公爵なら間違いはない!』という思考停止理論によるもの。理屈や恐怖は抜きにして、『契約に背かなければ良い話だ』という事をリリアが両陛下に切々と語ったのだ。それはもう、多少の殺気を含んで語りましたとも。何と言っても創造神を介した国同士の契約だ。生半可な気持ちでは出来ない。『一種の呪い』と言ったが、正確に言えば『加護』なのだ。『加護』を裏切れば『呪い』になるのは当然であろう。『何故こんなことが出来るのか』という皇帝の問いには『聖女だから』と答えておいた。間違いではない。
調印式が終わり、すぐに帝都に向かう。帝都内を皇帝直々に案内した。『エンシェント☆キラーズ』の支部も訪問し、ついでにハーン元宰相の話しもする。国王は皇帝を心配しつつも、『リリア嬢が対応したのだから大丈夫だろう』と言い、皇帝もそれに同意するという側から見たら『リリア公爵、マジで何者だよ』と突っ込みたくなる状態だっただろう。
夜になると夜会が行われた。バルトはリリアを、ジェイコブはメイベルを、フィアンは第2皇女ハンナを、レオンは第3皇女エリスを、レオールは第1皇女ステラを、それぞれエスコートしての入場だ。
「今宵は素晴らしい。王国から国王陛下夫妻を招待する事が出来た。そして国王陛下お抱えの冒険者パーティ『エンシェント☆キラーズ』、そしてそのリーダーで『天使公爵』と帝国でも名高いリリア・フォン・エルドラン公爵もお迎えしている」
流石に『鮮血嬢』とは言われなかった。夜会であの二つ名はね……。メイベルがボソッと何かを言った様で兄上が肩を震わせているけど、何を言ったかは想像がつく。メイベル、あとで覚えてなさいよ。
「この良き日に、帝国と王国の末長い友好を願って。乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
夜会には帝国の貴族が多く集まった。リリア達は質問責めに遭い、ご令嬢達はこぞってバルトにアプローチをかけて来る。その度に『鮮血嬢』としてのリリアを知り恐れて逃げていかれる。バルトはありがたい様だが、リリアとて無差別にスプラッタをする訳ではない。心外である。ジェイコブも見た目がいいのでご令嬢達に人気となっている。これもバルトと同じ作戦で乗り切っている。問題はレオンだった。第3皇女エリスに猛アプローチをかけられてしまった。特定の恋人はいないが、嘘も方便だろうに『恋人はいない』と言ったものだから凄かった。『うちの前衛がいなくなるのは困りますよ』とリリアが言うと『私が行きます!』とめげない。まだ幼いからか、典型的な白馬の王子様にほの字だ。結局、ステラに救助されて事なきを得た。皇帝が後で大変だろうな。
国王も皇帝と酒を酌み交わし大いに盛り上がっている。王妃と皇妃も楽しくおしゃべりに花を咲かせている様だ。途中で使用人達から逃げた第1皇子が会場に入ってしまい、何故かリリアにくっついて離れなくなるというハプニングがあった。『皇子でも天使は分かるのだ!』と貴族達の間で話題となったが、幼いうちは見えないものが見えるとも言う。まさか普通は見えない創造神の神気が見えたのだろうか。……まさかね。
来る将来リリアは創造神になるので、結局は契約書はリリアが管理する事になりますね
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