交換留学
「交換留学、ですか」
城に呼ばれて陛下から言われたのは私達を帝国に留学させ、その代わりに帝国からも留学生を受け入れるという、いわゆる交換留学だった。
「帝国とは長年にわたって友好関係にあってな。毎年交友を深めておるのだ」
レムリア帝国。この世界で二つある国の一つだ。
「レムリアは魔法の発展が遅れているのだ。昨今、魔法使いが少なかったのもあるのだろうが、技術が王国と比べてもかなり低い。魔道具もしかりじゃ」
この国でさえ魔法の技術は下降傾向にあったのに、それよりも下か。かなり低いな。
「しかし、ここにきて問題が発生した。魔獣の出没じゃ。今の帝国では無理なのじゃ」
「討伐ができないと?」
「フォレストモンキーで騎士団が壊滅するのじゃ」
「あ、それは……」
弱いな。確かに王国の騎士達も前までは猿の魔獣に半壊すると言っていたが、フォレストモンキーは流石にそこまでではなかった。
「そこで、交換留学じゃ。王国からは『エンシェント☆キラーズ』を、向こうからも帝国騎士団から数名を派遣するという話となった」
「魔法技術の輸出、と言う事ですね。そのついでに帝国で跋扈する魔獣を討伐して欲しいと」
「そういうことじゃ」
確かに帝国としても衰退した魔法の技術をもう一度取り戻したいだろう。しかし、それだとあまりにも……
「こちらの見返りは何なのですか?留学生を受け入れるだけでは割りに合わないのでは?」
レオールが言う。流石は王太子の護衛だっただけはあるな。
「うむ。実はな、帝国にはミスリルの鉱山があるのじゃ」
あ、そういうことか。こっちの鉱山と帝国の鉱山では採掘量が桁違いだ。理由は不明だが。
「ミスリルの輸出の便宜を図ってもらう代わりにこちらから魔法の技術を輸出すると」
「そうじゃ」
「確かにミスリルは魅力的ですね。こちらの魔道具の水準も上がります」
素材の質が上がるとそれだけ魔道具として耐久も上がるし、武器にはやはりミスリルを使いたい所だ。
「いつ行くのですか?」
「3日後じゃ」
「随分急やなぁ」
「帝国も慌てておるんじゃ。条件に出し惜しみしたかったはずのミスリルを出してきたほどにはな。
2日前にミスリルの条件付きで救援要請が来たのじゃ。そこに我が国に留学生を受け入れるという事で合意した。今後のことを考えても自衛策を取っておいた方がいいであろう」
確かに魔獣で帝国が滅ぼされかねないからな。この賢王、流石である。
「分かりました。すぐに準備します」
「よろしく頼む」
という訳で、いない間の公爵の仕事は全て兄上に投げてきた。兄上は引きつっていたが、リリアは1人でやっていたのだ。ガッツもいるし、頑張って欲しい。
3日後、城の前には2匹の白い馬が引く馬車が待機していた。この馬はリリアが契約しているガーディアンホースだ。先日領地でたまたまいた子達だった。どこからか逃げて来たようで、足に怪我をしてるのをフォレストウルフが見つけたのだ。
「警戒心の強いガーディアンホースと契約出来るとは……相変わらず規格外じゃな」
陛下に笑われてしまった。このガーディアンホース、何と神獣なのだ。ビックフェンリルに続いて2種目になる。……スグル様、何かしたのだろうか。今度聞いてみよう。
格好をつけるために『エンシェント☆キラーズ』専用の戦闘服も用意した。ベースはスーツのようなもの。完全機能重視で紺のブレザー。女性陣はスカートで、魔法使いはマントを用意。剣士には装備用のベルトもセットにした。こうして同じ装いだとそれだけで壮観だ。
「では、行ってまいります」
「うむ。気を付けてな」
馬車に乗り込むと、ガーディアンホースは一声嘶きフワリと飛び上がった。外からは歓声が聞こえる。
「……相変わらずけったいな馬車やなぁ」
メイベルは馬車の中を見回して言う。中は簡単に言えばマンションの一室のようなもの。3LDKで一部屋は執務室。残りは男女別の寝室。風呂トイレは別。これはマストだ。絶対に譲らない。
「とりあえず、これで仕事は出来るからね」
「するのか?」
「行った時に何かあったらね」
「まあ、会議は出来るな」
この馬車で帝都まで3日かかる。ガーディアンホースは3日通して走っても大丈夫なだけの馬力がある。最大で1週間は走り続けられるらしい。それまででは何をするか。
「帝国の情報に目を通すか」
陛下から帝国の情報が書かれた資料を受け取っている。かなりの量があるため、少しづつ目を通すことにした。
レムリア帝国は初代皇帝は女帝だった。黄金色の美しい髪と翠色の瞳を持つ女性だった。それは現在までずっと受け継がれているそうだ。そして帝国は鉱山と火山の国だ。ダンジョンはないためスタンピードはないが、火山の噴火はあるそうだ。その火山には炎のドラゴンがいるとか。
「本当にいると思うか?」
「どうやろうな。ドラゴンに見える何かかもしれへんで?」
「例えば?」
「……サラマンダー、とか?」
リリアが言うと空気が止まった。サラマンダーとはこの世界でも伝説とされている初代国王イニティウムの神獣だったそうだ。帝国で噴火した火山をサラマンダーで鎮めたという伝説がある。
「噴火する度に天辺から何かが覗くらしい。それがその伝説の通りならサラマンダーだよね。ドラゴンじゃなくて」
「本気かい?ドラゴンもサラマンダーも御伽噺の中の存在だよ?」
「私からしたら魔法自体が御伽噺だからね。今更だよ」
「リリアの前世の世界は魔法がなかったのか?」
「あったら便利だっただろうね。危険でもあるけど」
全員の頭の上に大きなクエスチョンマークが浮かんだ。
「地球ってね、魔法の代わりに自然の理を利用する方法があったの。それを使って魔道具みたいなものも作ってた。……兵器もね」
地球で最も恐ろしい兵器はやっぱり核兵器だっただろう。あれを魔法で作れたら……恐ろしい話だ。
「あんなものを魔法で作ってたら地球ごと滅びてたかもね」
「世界ごとって……」
「有り得るから怖いんだよ。そう考えると、魔法がなくて良かったかも」
「……リリアは、そんな兵器を作る気はあるのか?」
「ちょぉ、バルト!」
誰も恐ろしくて聞けなかった事をバルトが聞いた。メイベルは焦ったがもう遅い。リリアとバルトは少しだけ見つめ合う。そして……
「……作れないよ。あんな危険なもの。あんな恐ろしいもの」
「……そうか」
それが素直な答えだ。『作れない』それは技術的に、と言うよりは気持ち的にだ。あれの被害を幼い頃から刷り込まれているからこそ『作れない』のだ。あれはその時だけじゃない。未来にも影響を及ぼすものだ。絶対に作ってはいけない。
微妙な空気のまま一同はお風呂に入った。
「バルト。おまえ、どうしてあんな事聞いたんだ?」
レオールは湯船に浸かったバルトに聞く。レオンもフィアンもバルトを見る。
「みんな感じたことだろう?恐ろしくて聞けなかっただけで。なら、聞かないといけないのは俺だ」
「それは……」
「確かにリリアさえ恐れる兵器を魔法で作れちゃったらねぇ」
「こえーわな」
「これから外交だって言うのに、仲間同士でしこりがあったら支障が出る。そうだろう?」
誰も何も言えなかった。自ら汚れ役を買ってでたということか。確かに最も影響の少ない方法だ。
「旦那の仕事か?」
「……そうだな」
「本当にお前は……」
「うん?」
「リリアが好きすぎだろ」
「悪いか?」
「堂々と答えるなよ」
「好きじゃなきゃ、結婚しないだろ」
「そうだけどよ!」
いつの間にか男子の恋バナにすり変わる。脱衣所では『敵わない』と言った顔でため息を吐くリリアと、それを見てニヤニヤとしているメイベルがいたのだった。
なんだかんだ言ってリリアLoveなバルドが書きたかっただけです
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