閑話休題 第二王子フランク
夏真っ盛りのある日。新築の城に暮らす陛下から召喚命令が来た。早速向かうと全員困り顔だった。
「第2王子の衰弱が激しい、ですか」
「ああ。何か妙案はないであろうか」
また急な話である。第2王子が病気がちなのはずっとではなかっただろうか。
「そうなんだがな……」
「なるほど。後継者争いですか」
一緒に来ていたバルトに言われてリリアも納得した。ドミニクがいなくなった今、第2王子が死んでしまうと第3王子へのプレッシャーが大きくなってしまうのだ。どちらかと言うとのびのびと育てたい両陛下だ。このプレッシャーをどうにかしたいのだろう。
「それに最近、王妃への風当たりの強さもあってな」
「え?どうしてですか?」
「病弱な王子を産んだ、と言っておる者も多いのだ」
……W H Y ?
「何故ゆえそうなるのですか?だって流行病にかかって以来、ですよね?それまでは普通だったんですよね?」
「ああ、そうだ。生まれつき呼吸が少し弱い所もあったが、ごく普通の子供だった」
喘息持ちか。男の子には多いと聞くからな。少し大きくなると女の子にも増えてくるらしいが。
「と言う事は、決して生まれながらにして虚弱と言う訳ではないですよね?」
「うむ。余もそう思う。しかしここまで長患いになると、呼吸が弱かったのが原因だとか言う話にもなってくるのだ」
「……呼吸の問題は恐らく喘息ですね。それは対策は取られているんですよね?」
「ああ、薬もあるからな」
あるんだね。聞けば再生魔法の開祖が作った薬なのだそうだ。ナイス、転生者。
「それで治るなら問題はないでしょうね。では、その流行病にかかった後の虚弱の問題ですか……」
「医師達は元から虚弱だったのだろうと言うのだが……」
「それは喘息を持っているからですか?」
「うむ」
「ちなみに私も幼い頃に喘息を持っていましたよ?」
「え?」
「は?」
陛下とバルトは目を丸くする。喘息とは程遠いSSSだからだろう。確か5歳くらいから埃っぽい部屋で起こした事がある。あの屋敷は掃除が行き届いているとは言いがたかったからな。SSSでも疾患系は防げないらしい。
「大きくなって治りましたけど。喘息の程度にはよりますが、治る子もいます。少なくとも私は虚弱ではないです」
「では王子は虚弱ではないと?」
「後天的に弱ってしまっているのは事実でしょうね。その原因に喘息が含まれている可能性もあります。しかし、喘息を持っているからと言って虚弱を決定づける証拠にはなりません」
「そうか」
陛下は少しほっとしている様だ。大好きな王妃様が悪者になっていていい気はしなかっただろう。
「第2王子にお会いする事はできますか?」
「うむ、構わんぞ」
こうして初めて第2王子と顔を合わせる事となった。フランク・フォン・アトラス第2王子。年齢は8歳とまだ幼く、その体は痩せ細っていた。
「第2王子フランク様。お初にお目にかかります。リリア・フォン・エルドラン公爵でございます」
「夫のバルトと申します」
「両親から話は聞いているよ……悪いね、こんな状態で」
「いえ、どうかお気遣いなく」
起きていられない様で弱々しい笑顔を見せる。その言葉はとても8歳とは思えぬ利発さが見て取れる。側には王妃が付き添っていた。顔色の悪さ、乾燥して切れている唇に窪んだ目。これってどう見ても……
「……王子、お食事は?」
「ほとんどお召し上がりになりません」
側にいた医師が答える。お前には聞いとらんのだが、まあいいだろう。
「メニューは?」
「陛下と同じ物を」
「いつもですか?」
「そうです」
「と言う事はステーキとか固形物ですよね?」
「そうですね」
「すぐに重湯を作ってください」
「は?」
「王子は栄養失調なんですよ。昔、症状を聞いた限りでは恐らく感染性胃腸炎にかかったのでしょう。消化が弱った方がステーキなんて食べられるわけがないでしょう?食べてないんだから体を動かすエネルギーがないのは当然です。起き上がれなくて当たり前ですよ」
それを聞き、一緒に来ていたセバスが急いで部屋を出た。恐らく食べていないから栄養失調になっているだけなのだろう。逆に言えば、食べれば回復するかもしれない。
「食べねば治るものも治りません。とにかく重湯から初めて粥を食べられる様になりましょう。話はそれからです」
「粥もお召し上がりになりませんが?」
「いきなり粥を食べたら下痢をするに決まってます」
「だからといって王子に重湯……」
王子に重湯を飲ませてはいけないなんて法律でもあるか?聞いたことがない。そんな質素な物を、って?んな悠長なことを言っていられる訳もない。このまま放置したら死んでしまう。
「王子。選んでください。このヤブ医者を信じて食べられないステーキを出されるか、重湯を飲みながら回復を図るか」
「ヤブ……?」
ヤブ医者という概念がなかった様だ。しかし揶揄する言葉だというのは理解出来たのか、医者は顔を真っ赤にしている。
「……重湯をくれ」
「分かりました。あなたはまだ生きる気力がございます。それが何よりの薬となりましょう。この状態で生きておられたのが何よりの証拠です」
気力がなければどれだけ尽くしても意味がない。フランクは生きたいと思っている。それが大事なのだ。王子は少し驚き、そして微笑んだ。両陛下も生きる気力を感じたのか嬉しそうだ。
すぐに重湯が届いた。一すくいずつリリアが口に運ぶ。ゆっくりだが確実に飲んでいき、そして器一杯の重湯を飲み切った。
「いつもは水さえ受付ぬのに……」
医師は驚いている。そりゃあ、水じゃぁねぇ……
「体が欲したのでしょう。セバス、軽く塩を入れた?」
「はい。ごく少量ですが」
「水では塩分は取れません。体を動かすためのエネルギーも。重湯に軽く塩を入れれば体は欲するでしょうね。私も指示し忘れてたけど、よく気が付いてくれたわ」
「少し顔色が良くなってるわ……!手も少しだけど温かく感じる……!」
ずっとフランクの手を握っていた王妃は目に涙をためて言う。いや、それは早すぎる。気のせいだろうが、両陛下が喜んでいるし良しとしよう。
「しばらくは重湯でいきましょう。1週間後から様子を見ながら三分粥、五分粥、七分粥、全粥と進めていきます。下痢を起こす様なら一度重湯に戻して、症状が落ち着いたら下痢を起こす前の粥にして続けてください」
「味は塩のみで?」
「今はその方がいいかと。肉の油を消化できないと思いますし、野菜の繊維も消化不良を起こしますから」
「かしこまりました」
セバスはメモを取る。この人に任せれば大体何とかなるだろう。
「早ければ今日からお小水も出ると思います。無理して出そうとしないで、少し羞恥はあるでしょうが手伝ってもらってください。まだ自力で出すエネルギーもないでしょうから」
「分かった……」
「大丈夫よ!私が手伝うわ!」
「王妃様。お気持ちは分かりますが、王子の羞恥を煽ってしまうかと……」
まだ子供だが赤児ではない。恥ずかしさで出せなくなるかもしれない。バルトは同性だからか人事とは思えなくなった様で思わず意見している。フランクも苦笑いをする。
「では私達で行いましょう。ご幼少の頃からお世話をしてきておりますから」
セバスは言う。重湯を持ってきたレイもうなづく。この夫婦、マジで優秀である。
「ではお願いするわ、セバス、レイ」
「はい」
「お任せください」
王妃に言われてセバスとレイは頭を下げた。
医師が放置されてしまっていた事に気がついたのは領地に戻って一息ついてからだった。まあ、仕方がない。初歩の初歩に気がつかないなんてヤブだもんね。この世界に栄養失調という言葉はないにしても、食べねば動けんという考えはあるのだから。
後日、よく調べたらあの医師はカールが陛下に進言して呼んだ医師だったそうだ。つまりそういう事だろう。怒り狂った国王夫妻によって即解雇されたそうだ。他の医師を呼んでフランクを診せたら、よくここまで生きていましたね、と言われたそうだ。ずっと与えられていた食事を知ると、消化系の病気を起こした後でステーキなんて無理に決まっている、と。リリア監修の食事も完璧とのこと。全粥になった後の食事は医師に任せる事にした。やはりヤブ医者はヤブ医者だった。
感染性胃腸炎って辛いですよね。
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