学園生活が始まります
色々な人と話をして分かった事。それは父上が陛下や侯爵達に話していた事の殆どが嘘だったという事だ。領地運営は何とか黒字をキープしていたものの報告していたよりはずっと少なく、とはいえ黒字をキープ出来ていたのは代官のおかげだったのだろう。うちの領地は農業で栄えているのだが、自然に影響を受けやすく領民も年々減っていたため赤字の年もあったが、そこは黒字の所から持って来たり私の討伐した魔獣の素材をこっそり売ってプラスマイナスゼロにしていたそうだ。よくある典型的な改竄といえばそうなのだが、結局そうしないと運営が回らなかったのだろう。仕方がない。本当、何にもしてなかったからなあのオヤジ。お咎めはなしになり、私の希望もあり代官を継続することとなった。
ジェイコブは学園に通い代官になるべく勉学に勤しんでおり、それは構わない。誰にでも向き不向きがあるし、それは国王も納得していた。予定通り城付きの代官にしてエルドラン領に派遣するという。将来は宰相もあり得ると現在の宰相も言っていた。父上は調べていなかったが、兄上は代官のスキルがSSSまで上がっていたそうだ。魔法使いのスキルは後天的に上がるものではないが、代官や剣術など魔法以外のスキルは上がるのだそうだ。兄上は努力でSSSまで上げたという事で、国王も宰相も褒めちぎってくれた。兄上は目に涙を溜めて喜んでいた。褒められた事なかったもんなぁ。
問題はアメリアだ。私との関わりが少ないのもあって24時間とは言わないものの気をつけて見ていたのだが、彼女は重大な問題を隠していた。何と食事も満足に与えられておらず、体には多くの傷が残っていたのだ。私も初めて見た時は『何これ!』と思わず大きな声が出てしまい、城の騎士達がいる中でメイド長に尋問を始めてしまった。メイド長曰く躾だそうだ。公爵令嬢たるもの〜。城付きメイドなら〜。私の頃は〜。私の躾なんて〜。と言い訳のオンパレード。世界は違っても無能な上司の言い訳は変わらないのね。若い騎士がキレそうになっていた。私はキレていた。こんな躾があってたまるか!国王と相談してメイド長には城付きにしてアメリアと同じ目にあってもらう事にした。期間もアメリアと同じ9年。悲鳴を上げて赦しを乞いていたが、そうやって許さなかったのはお前だろうと無視。『悪魔だ!』と罵られたが、どの口がいうのか。アメリアは精神的な消耗も激しく、保護された直後から倒れてしまいベッドから出られない状態になった。緊張の糸が切れたのもあるだろう。アメリアや私の様に魔法使いはS以上だとちょっとやそっとでは体調を崩す事はないらしい。ちなみにSSSだと無敵だそうだ。そんなアメリアがベッドから起き上がれなくなるほどに、父上やメイド長は追い詰めていたのだ。ロベルト侯爵の好意でロベルト領で保養をする事になった。侯爵の領地は温泉街なのだ。保養にはもってこいだ。
私もアメリアの付き添いで初めて正面からロベルト領に入ったが、硫黄の匂いが懐かしい。前世でもよく行ってたなぁ。同僚に『地味なくせに肌が無駄に綺麗だ』と言われたっけ。1日だけ滞在させていただいたが、温泉はヒノキの様な香りの良い木で作られた大浴場。食事はこの世界では珍しい白米と味噌汁、漬物に煮物と焼き魚と豆腐の小鉢。ロベルト初代侯爵が開拓したそうで、国王と共に米の栽培をした。完成した時は随分喜んでいたそうだ。うん、転生者確定。初代様、ありがとう。おかげで私も懐かしの温泉が満喫できそうだ。
公爵は取り敢えず処分保留。何しろ死んでるからね。馬車を襲撃したのは、私を襲撃した人と同じ人だった。闇ギルドから派遣された様で、尋問したが呪殺されてしまったので真相は分からずじまいだった。アメリアとロベルト領に行く時もエルドラン領に帰る時も襲撃を受けた。アメリアがいた時は少し遠くにいる襲撃者を狙い撃ちした。アメリアを危険に晒す訳にはいかない。私だけの時はちょっと遊んだ。わざと襲撃者のしゅういに攻撃を着弾させておちょくってみた。それに気がついた御者に『適度になさいませ』と言われるまでやり続けた。衛兵が行った時にはすっかり怯え切っていたらしい。
私の処分に関しては国王やセバス、宰相とお話しした結果、被害者として扱われ皆にすごく同情された。私もアメリアへの仕打ちに気がつかなかった罪があると思うのだが、10歳では無理だっただろうという事になった。ありがたいけどね。領地も一時的に王国預かりとなり、私が学園を卒業したと同時に爵位を受け継ぎ、兄上と共に領地運営を任される事になった。
そう、私は今年から学園に通う事になっている。入学試験は首席合格。というか、国王の特別推薦枠だった。というのもSSSランクの魔法使いで入学試験に落ちるという想定がされていないのだ。試験を受けなくてもSクラス確定だそうだが、形として試験は受けた。結果は問題なく首席合格。筆記試験で満点なんて初めてだそうだ。意地悪な問題もあったらしい。どれだったんだろう。勉強ばっかりしていたからもはや簡単だった。
そんな怒濤の2ヶ月を過して入学式当日。私は新入生代表となっていた。父上の所業は王国中に知れ渡っており同級生になる子達から遠巻きに同情の目で見られている。いや、私より妹の方が可哀想だったんだけどな。
「新入生代表、リリア・フォン・エルドラン」
「はい」
壇上に上がると会場に目をやる。流石に緊張する。
「リリア・フォン・エルドランです。本日は私達新入生の為にこのような素晴らしい式を挙げて頂き誠にありがとうございます。
皆様からの沢山の支援のおかげで、私たちは伝統あるアトラント学園に入学する事が出来ました。真新しい制服に袖を通し、私たちはこれからの学園生活への期待や希望に胸を大きく膨らませております」
正直、代表挨拶なんて経験がないためOL時代の堅苦しい挨拶しか記憶にないのだが、学生なんだしもう少し柔らかくてもいいのかな。
「これから学園生活を通して多くの事を学び、様々な活動にも積極的に取り組み、多くの事を学んで行きたいと思います。
諸先生方、先輩方、保護者の皆様におかれましてはご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。
本日は誠にありがとうございました」
大きな拍手と共に壇上を降りる。一仕事終えてほっとした。少しざわついてるけど、悪いざわつきではないから大丈夫だよね。隣に座っている次席の王太子ドミニク様に全力で睨まれた気がするのは気のせいかな。あの頃からあの頃のままご成長あそばしたようだ。
国王挨拶になり国王が壇上に上がった。
「新入生諸君。入学おめでとう。この学園は平民貴族関係なく、貴族の権威も関係ない環境だ。たくさん学び、多くの友人を作って欲しい」
この学園は国王の権威も受け付けないというのが信条らしい。どうも学園創設の時に当時の王太子が立場を超えた対等な友人が欲しいと常日頃言っていた事から友人であった創設者がそういう理念を押し出したそうだ。王太子も国王になってその理念を後押しして行った。その結果、現在も理念が変わる事はないそうだ。しかし、真隣に座っている王太子の呪い殺されそうなほどのオーラを見ると、そんな理念も怪しくなってきている様だ。
入学式が終わり、教室に案内された。今日は校内の案内だけだ。私はSクラスだ。クラスとしては一番上だ。一学年に10人しかいないらしく、実は王太子の護衛が1人振るい落とされAクラスになってしまっていたらしい。一応もう1人は滑り込みセーフだったらしいが、護衛が1人Aクラスになるわ王太子自身は首席逃すわで、私が憎くて仕方がないらしい。子供かよ。いや、子供だけどさ。首席になれるかは試験で決まるそうで、私が試験を受けなければ首席は王太子だったそうだ。筆記試験は私が満点では如何ともし難く、王太子はSSランクの魔法使い。実技も便宜を図れなかったそうだ。いや、開校時の理念はどうした。国王は『規格外の魔法使いでは仕方がないだろう!』と笑っていたが、王太子はプライドがズタズタで荒れているそうだ。
「リリア嬢。凄いですね」
そう声を掛けてきたのはバルトだった。
「バルト様。Sクラス、おめでとうございます」
「ありがとう。リリア嬢も首席おめでとうございます」
「ありがとうございます。バルト様も魔法使いだったんですね」
「ああ、SSランクですけどね。流石にSSSとなると魔法も凄いですね。あの実技試験はびっくりでしたよ」
そう、試験でリリアは割と気に入っている風魔法を選択した。狩りでも炎の魔法は素材が綺麗に残らないし、野宿の時に食材を確保するのにも食べる分が減ってしまう。そのため狩りでは水魔法か風魔法を使っていた。当然上達も早くなるため他の魔法より自信もつくのである。
私が試験で使ったのは【エアーカッター】だ。しかしその威力が規格外で、魔法練習用の的が一刀両断だった。ちなみにこの的、壊れないのが当たり前。城の騎士達でも壊せず、騎士団長でようやく壊せる程度だ。それを、学園の入学試験で壊したのだ。試験官は目を点にしていた。
「私も正直、初級魔法を加減して撃ったのに的が壊れるなんて思いませんでした……」
「加減した、という事は遠慮なしに撃ったらどうなったんですか?」
「多分、試験場が壊れたかと。壁に傷が入ってましたし」
「恐ろしいですねぇ」
バルトは苦笑いだった。普通はありえないのだが、規格外の経験をしていた私の能力は年齢と不釣り合いなものとなっていた。
そんな話をしていると王太子の護衛が王太子を庇う様に出てくる。警戒したのはわかるけどね。
「ご安心ください。そんなくだらない事なんてしませんよ」
「く、くだらないだと?」
「王太子殺してどうするんですか?」
「次期国王を殺して征服出来るだろう!」
「嫌ですよ、面倒臭い」
「め……?」
「国王なんて面倒な立場になんて誰が好き好んでなるもんですか」
「……え?」
バルトですら目を丸くしている。国王という権力の塊はそれだけ魅力があるのだろう。……理解に苦しむが。
「王太子様がわざわざ面倒な立ち位置を買って出てくれるんですから、全力でお願いしたいくらいですよ」
「は……?」
「大体、今私は公爵を継がないといけないってだけで身に余っているんですから」
「いや……」
「父上があんな人間じゃなければ平和に過ごせたはずなんですけどね」
「あの……」
「大体、長女のお披露目会当日に妾の所に行って遊んでたとか馬鹿なの?いや、馬鹿なんだけど」
「……」
「そこから妾と一緒に馬車で王城に向かう途中で死ぬとか恥の上塗りですよ」
「……」
「襲撃とはいえ、妾さんまで死んでしまったんですよ?慰謝料とかどうするつもりなんですかね?お金を払っても死んだ人は戻ってきませんよ?」
「……」
「死ぬなら1人でひっそりと死にやがれってんですよ。わざわざ妾さんだけじゃなくて通行人まで巻き込んで、どれだけの方にご迷惑をおかけしたか。うんざりですよ」
「……」
「大体、あんな趣味の悪い芸術品(笑)を買い集めて、あんな高級な香辛料を大量に使えばいいと思ってる撃マズ料理にあんなお金を掛けて、どんだけ趣味の悪い人間なのかって話ですよ」
「……」
「私が継いだら全部処分ですね。金属やミスリルは溶かして再利用するにしても、その他は全部処分しないと。中古だし売ったって雀の涙でしょうけど、ただ捨てるよりはマシですよね」
まるで呪詛を吐くかの如き発言と呪い殺さんばかりの真っ黒オーラに、いつの間にか教室に入ってきていた先生でさえ黙って聞いていた。
「あ〜……リリア。もういいか?」
「あ、先生。失礼しました」
「いや事情は学長経由で聞いている。大変だったな」
「それはもう」
「……実感が籠もってるな」
「呪われそうでしたね」
バルトも苦笑いだ。一見大人しそうに見える美少女が据わった目で呪わんばかりに流れる様に話している姿は美しくも恐ろしかった。王太子と護衛が恐ろしさのあまりに腰を抜かして震える程度には。……殺気、出てたかな。
「さて、リリアがすっきりした所で、自己紹介してもいいか?」
「お願いします」
「おう、お願いされた」
流石はSクラスの担任だけあって恐れる事なく苦笑いで終わる。ユーモアもありリリアの印象は悪くない。全員がそれぞれの席に着くと、先生は生徒たちを見回した。
「俺はライオネル・フォン・アデールと言う。アデール公爵家の次男だ。魔法のスキルを持っていてSSクラスだ」
この国で2家ある公爵家の内の1家で、主に学者をしている。その有能さから王家の家庭教師を仰せ使っている。長男はドミニクの家庭教師だったそうだ。だからこそ今回の父上の不祥事の被害を被った私達兄弟のことを心配した国王陛下が私の担任に推したのだろう。
「このクラスはSクラスだ。同じ学年の学生と比べるとかなり平均点が高い。しかも今年はなぜか知らないが魔法使いが多いんだ。このクラスも10人中7人が魔法使いだ」
魔法使いが減っている中でなぜこの学年で魔法使いが増えたのかは分からないが、どうやら今年鑑定した10才の子達には魔法使いが多いそうだ。
「そこでこれを好機と捉えた陛下からの勅命で、魔法の実力を底上げしようと言う事になった。もちろん魔法使いだけではなく、前衛ともなる剣士なども準じて底上げしようと思う」
なるほど。卒業と同時に魔法師団へのヘッドハンティングをしようと言うことか。即戦力を育てようという話だ。
「今年は王太子殿下もいらっしゃるし、SSSの規格外魔法使いもいる。色々と規格外なクラスになるとは思うが、よろしく頼む」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
「まずは自己紹介だな。首席から行こう」
「はい。リリア・フォン・エルドランです。エルドラン公爵家の長女です。卒業後は冒険者として知見を広げつつ、国王陛下からの勅命もあり公爵を引き継ぐ事になっています。よろしくお願いします」
周囲から軽いどよめきが起こる。何しろ女公爵はこの王国始まって以来初だ。いや、本当は兄上でもいいのだけど、兄上は代官向きだし本人もそれを望んでいる。それを邪魔したくはない。
「次は次席だ」
「はい。ドミニク・フォン・アトラスだ。アトラス王国の第一王子で王太子だ。よろしく頼む」
何だか鼻につく喋り方だ。偉そうというか何というか。いや、偉いんだけどね。舌足らずじゃなくなった分、実に不愉快な印象になっている。
「3席」
「はい。バルト・フォン・ロベルト。ロベルト侯爵家の長男です。侯爵家の跡取り、とよく言われますが、僕はどちらかというと放浪の旅にでも出て魔法使いとして多くの事を学びたいと思っているよ。よろしく頼む」
ロベルト侯爵家は次男が継ぐ様だと父上から聞いたことがある。どうやら本当だった様だ。
その後も自己紹介は続いてゆく。4席のメイベルは大きな商会の会頭の長女で、商家の生まれだけあって読み書き算術はお手の物。しかも魔法もSクラスだ。将来は父親の商売を手伝いつつ冒険者として各国を廻りたいのだそうだ。初めて声を聞いたときはびっくりした。だって、ゴッリゴリの関西弁なんですもの。
5席はレオン・フォン・ノルン。伯爵家の次男で剣士だ。彼の父は王国の騎士団長を勤めているジョルジュ・フォン・ノルンで、王国一の剣士と名高く “剣聖” のスキルを持つ。その腕ひとつで平民の騎士から伯爵にまで上り詰めた人で、長男も学園の先輩として在校中だ。私も何度かお会いしているが、背が高く筋骨隆々とした男だ。鎧を纏っていようがいまいがそのシルエットが変わらない。
6席のフィアンはごくごく一般の生まれで、両親は王都の真ん中にある広場で肉を売る屋台で生計を立てている。スキルが魔法使いランクSだった事で国王の推薦で学園に通う事となった。ちなみにその場合、学費は免除となるそうだ。
7席はフェルデール・フォン・ドリューといい、ドリュー子爵家の長女だ。ドリュー子爵家は体術の家系で、現在の子爵はまだ王太子だった頃のアルベルト国王が国内を旅していた頃、護衛として共に旅をした仲だそうだ。国を継ぐ者は一度は旅に出て見聞を広げるのだそうだ。ドミニクも一度は旅に出るのだろう。
8席はポール・フォン・ダンベル。ダンベル男爵家の長男で、魔法使いレベルSだ。攻撃魔法と言うより支援魔法を得意としている。ダンベル男爵家は医者の家系だそうで、回復魔法を使う事を得意としている。
9席にいるのはツェルン・フォン・ジュール。ジュール男爵家の長男で、魔法使いレベルS。魔法陣魔法の研究者の家系だと言う事もあり、魔法陣魔法が得意だ。
そして10席にいるのがレオール・フォン・ドールと言う伯爵家の長男で、ドミニク王太子の護衛だ。ドール伯爵は現国王の護衛として旅をした1人で、親子二代で護衛を仰せ使ったそうだ。剣術に長けていてかなりの実力なのだが、今回は筆記試験で取りこぼしもあり10席だった。
ちなみにSSSの私に押し出されてしまいAクラスに落ちた護衛は魔法使いSだそうだ。
「さて、全10人の最優秀生徒諸君。これにおごる事なく、多くを学び上を目指してくれ」
「「「「「はい!」」」」」
ここから学園生活が始まるのだ。楽しみである。
第二のクズ、登場しました。クズは二人もいらないかな、と思って第一のクズは即死していただきました。
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