卒業式
5年が経った。リリア達は15歳となり、卒業式を迎えた。すでに卒業が決まっていたわけだが、陛下の計らいで同期達と卒業式に出席したのだ。学園が始まって以来初めてのSSSランクの国王陛下お抱え冒険者を輩出する。それももちろん前代未聞なのだが、もう1つ衝撃の事実があった。
「まさか魔法使いのランクもあげられるとは思わなかったよな……」
「他のスキルランクが後天的にあげられるのは知ってたけどな……」
「これジェイコブもあげれるんちゃうん?」
「言ったけど、生活魔法には必要ないからって断られたよ。自分は文官のランクがあるから良いんだって」
「さよか。ホンマ、欲あらへんなぁ」
そう、魔法使いのランクがあげられる事が分かったのだ。もちろんそんなに簡単な方法ではない。魔獣の討伐数一万体とか、一撃必殺とか、特定の魔獣を時間制限付きで討伐とか、指定された数の魔獣を一定時間内に討伐とか、その上でレベルが100である事とか。かなりふざけたレベルの上限解放方法だった。城の書庫でこれを見つけた時は思わずメイベルの様に『アホ!』と言ってしまった。メイベルの横で。これ、多分創造神が付けた設定だよね。前世のクソゲーの上限解放条件みたいだ。誰が気が付くんだよこんなの的な?……まあ、出来てしまったのだが。と言うのもスタンピードの一件で条件をクリアしてしまっていたのだ。あんな大規模な討伐はそうそうお目にかかれないため、今回は運が良かったのだろう。この条件を見てすぐ、ギルドカードを見たのだ。これを見たら何の魔獣をどれだけ討伐したかがわかるから。見たら全員SSSに上がる条件を満たしていたため上限解放に踏み切ったのだ。
ちなみに、上限解放するには一日魔力循環を行うだけ。創造神、ここできっと設定を作るのに疲れたのだろう。適当すぎるもんね、この方法。『もう、1日中魔力循環してたらできるで良いんじゃね?』みたいな。ちなみに、レオンとレオールもランクが上がった。
そしてここでとんでもない事が起きた。SSS昇格と同時にレベルが1に落ちると言うトラップがあった。そこにトラップ作るのかいな、創造神。慌てて私が “洞窟迷宮” で “パーティの輪” を全員に装備させて周回し、全員のレベル上げを敢行した。『洒落にならん!』と言ってひたすらダンジョン内の魔獣を討伐しまくる私を見たバルト達は『リリアが本気を出したらスタンピードを1人で止めれたのでは?』と思ったのだが、結局全員がレベル100になるまで周回した後のリリアを見てそんなことは冗談でも言えなくなったのである。ダンジョンマスターでさえ、リリアを敵に回したくはないとのちに言っていた程度にはリリアも追い詰められていたのだった。
卒業式当日。前日までダンジョン周回をしていたため疲労マックスのリリアを見て先生は苦笑していた。
「最後までリリアらしいな」
「お褒めいただき光栄です……」
「俺も最後の卒業生がお前達で誇らしいぞ」
先生に言われてリリア達はちょっと微妙な表情になった。結局、ライオネルの兄であるカールが影の黒幕だったのだ。責任を取ってアデール公爵は退任。後任にライオネルが着く事になった。アデール家にはライオネル以外に後継がおらず、まだ幼いカールの息子に継がせる事もできず、結局はゴブリン騒動やスタンピードで活躍したライオネルが継ぐ事になった。しかしSクラスの担任がまだ残っている。そのためリリア達が卒業するまではほとんどを代官に任せている。ライオネル先生も決して公爵を注ぐことを嫌がるわけではない。むしろ自分の功績が讃えられたという事もありとても名誉な事なのだ。しかし、その代償はかなり大きかった。
まず、ライオネルは離婚した、元妻は元踊り子。ライオネルが公爵位を継がない事を条件に結婚したそうだ。何故かと言えば面倒だから。公爵夫人としてしょっちゅう夜会に出席しなければならないことも、貴族の妻として常に好奇の目に晒されることも。全てが面倒臭くて嫌だったらしい。踊り子は『好奇の目に晒される』職業ではないのかと言いたいが、それは稼ぐために仕方がなくやっていた事だそうで、彼女は『とにかく楽をして贅沢な暮らしをしたい』と言う人だった様だ。何でそんな人と結婚しちゃったのだとリリアが問えば一言『惚れたんだよ』との事。今でこそ『出不精』が祟って『デブ症』になってしまっているが、昔は『妖精』の二つ名をいただく程の妖艶さで、若かったライオネルは家事が一切出来ない事も可愛げの範疇であると思っていたそうだ。元々一般家事は一通りできるライオネル。俺がやれば良いのだからと思っていたらしい。実際結婚してみたら『家事が出来ない以前の問題だった』と。『惚れた男の弱みを地でいってたからな』とケインに言われ、ライオネルは苦笑いをしていた。
結局、元妻は『公爵になるなら離婚する』と言ったため、離婚する事になってしまった。子供もいなかったため、あっさりと終わってしまった。ちなみに子供がいないのも彼女の『面倒臭い』が原因だそうだ。そこまで徹底しているといっそ清々しい。それでも娼婦館通いにならなかったライオネル先生は『ホンマに奥さんが好きだったんやなぁ』とメイベルに気の毒そうに言われた。後妻には王弟陛下の第5公女ビビアンが嫁ぐ事になったそうだ。ライオネルの元教子らしい。実はリリアとも仲が良く、話を聞けばライオネルに片思いをし続けていた。それを知っていたため、リリアは陛下に進言をしてライオネルに嫁がせるという話に持っていったのだ。当然ライオネルはそんな事実は知らず、元教子が妻になるという事に『もっと良い嫁ぎ先があっただろうに』と何とも複雑な心境の様だ。『そんな事、ビビアン様に言ったら駄目ですよ、早速泣かせる事になってしまうから。泣かせたら許しませんよ?』と満面の笑みで言ったら『絶対に言わない』と堅く誓っていた。まあ、結婚したらビビアンの漢っぷりに驚いただろうが。
「あ、あの……」
「フェルデール?」
声を掛けてきたのはフェルデールとその他のクラスメイトだった。結局、ほとんど登校してなかったので全然顔を合わせていなかった。
「ゴブリンの時、助けてくれてありがとう。あの後ライオネル先生から聞いて、お礼言いたかったけど会えなかったし、会っても忙しそうで声掛けづらくて……」
「無事で良かったよ。今度機会があったらうちの領地においで。歓迎するから」
「うん!」
フェルデールも流石は道場の娘と言うのだろうか。かなり成績は優秀で、レベルも30まではあがったそうだ。他の子も優秀で家業だけでなく騎士団に就職したり、冒険者になったりする子もいる。ここまで彼女達を育て上げたライオネル先生は凄いと思う。
「では講堂に向かおう」
先生先導で卒業式会場に向かう。会場には多くの人がいた。今回は『エンシェント☆キラーズ』が全員卒業とあって一般のお客様もいるのだ。もちろん人数制限を設けたが、それでもごった返していた。
「ああ、リリア公爵……相変わらず天使だ……」
「バルト様もカッコ良くていらっしゃるわ」
「メイベルちゃんだって可愛いわよ」
「レオン様のあの精悍な顔立ちは、やはり騎士団長譲りだな」
「フィアン様のあの少し荒い感じも萌えるわ」
「レオール様だってあの腕でよくあそこまで上り詰めたよな」
「でも、やっぱり彼らを育て上げた英雄様は素晴らしいわ……」
「「「「「それな!」」」」」
「……だそうですよ?先生」
「あのな……」
ライオネルは苦笑いをする。結局行き着くのは『英雄はすごい』だった。そりゃそうだ。元々先生が英雄だったなんて知らなかったリリアも、先生の討伐を見ていて『これは英雄だわ』と思うほどだった。あの黒い炎、カッコいいよね。厨二心をくすぐられる。先生に教えてもらおうとしたら『お前がやったら地形が変わるから教えられん』と言われた。火炎放射で黒い炎とか出せないかな?今度実験してみよう。理屈は締め上げたら教えてくれたし。
「卒業生代表、リリア・フォン・エルドラン」
卒業生代表挨拶だ。リリアは壇上に上がる。あ、デジャブ。
「今日は私達のために卒業式というすばらしい式を開いていただきましてありがとうございます。卒業生代表リリア・フォン・エルドランです。そしてご来賓の皆様、保護者の皆様、お忙しい中、わざわざこの卒業式に参列していただいたことを感謝し、また温かいお言葉をいただきましてありがとうございます。今日、無事に卒業式を迎えることができました。入学式を迎えたことが昨日のことのように思い出されます」
相変わらずこの代表スピーチは緊張するし堅くなりがちだ。
「学園入学以来、様々なことがあり長い様であっという間に過ぎた5年間でした。私達にとっては本日の『卒業』というのは5年間お世話になったライオネル先生と共に迎える特別な『卒業』となります」
先生は少し目を丸くしている。先生、悪いですけど堅くなり過ぎたご挨拶を和ませる話題にさせていただきますよ。
「特に私は何度もライオネル先生の胃を攻撃し、何度も胃薬を提供する状況を作り出していました。かなり特殊な生徒としてご迷惑をおかけした事を申し訳なく思っています。せめてものお詫びの気持ちとして胃薬は無償で提供させていただきました」
会場おは笑いに包まれる。先生も苦笑い、バルト達もニヤニヤとしている。
「先生方、たくさんのことを教えていただきまして、誠にありがとうございます。そして今までたくさんの面倒を見ていただいた、王都の皆様にも感謝させていただきます。そして両親にも感謝します。今日でこの学園とお別れするのはとても寂しいです。しかしこの学園で学んだことなどや、教えていただきました先生方や、お世話になった皆様のことを忘れることなく、また新しい環境で教えて頂いたことをしっかりと胸に抱いてがんばっていきたいと思っております。
本日は本当にありがとうございました。リリア・フォン・エルドラン」
拍手と共に席に戻る。
「……自覚はあったんやな」
「うるさい……」
メイベルに突っ込まれ、リリアはブゥと拗ねた。ないわけないじゃん。自重しないって決めたのは私なんだから。無自覚的暴走ではなく自覚的暴走なのだ。
「それでは卒業のお祝いの言葉を国王陛下から賜りたいと思います」
全員が立ち上がる。壇上には国王陛下が上がった。
「卒業生諸君。今日は本当におめでとう。今年の卒業生の中には少々『規格外』が混ざっており、その影響で『規格外』が量産された。その事で特にライオネル先生はかなり胃の痛い5年間であった事だろう。余の無茶によく答えてくれた。心から感謝する」
国王の臣下としてこれほどの誉はないだろう。先生は小声で『もったいないお言葉です』と言っていた。
「今年の生徒は他のクラスもかなりいい仕上がりになっていると聞く。これからの国を背負っていくに頼もしい限りと余も王妃も喜んでおる。これからの活躍に期待しておるぞ」
卒業式は終わった。
「全く……最後の最後までお前は……」
「胃が痛かったですか?」
「……いや。ありがとう」
先生は微笑んでリリアの頭を撫でる。昔はこれで喜んでいたリリアだが、今はそんなに喜ぶわけではない。
「ふふ、よかった」
「流石にもう慣れたか」
「それもありますけど、うちの婚約者も焼きもち焼きますから」
「なるほどな」
「案外、面倒臭い男なんで」
「なんか言ったか?」
「何でもなーい!」
リリアは悪戯っぽくいう。この男、焼きもち焼くとしばらく物理的に離れなくなるところが面倒なのだ。少し嫉妬を含んだ目で見られて先生も笑う。
「色々理解した」
「それに……」
「うん?」
「ビビアン様にも焼きもち焼かれちゃうから」
「……アイツも好きなのか?」
「慣れてないんでしょうね。彼女もそんなことをしてくれる男が近くにいなかったから」
「そうか……」
ライオネルは少し考える。彼も歳の離れた若妻にどう接していいのかと思案しているのだ。不器用夫婦はその事情を知っている誰かが時々発破をかけないとすれ違いが起きてしまうのだ。くっつけた張本人ゆえ、フォローはしてあげないといけない。
「そういえば、リリアも大変なんちゃうん?ウチとジェイコブだけやなしに、アメリアの結婚も決まったやろ?」
「しかもトウヤ先生とな」
メイベルとフィアンに言われてリリアは苦笑した。そう、何と学園に入学したアメリアはいつの間にかトウヤ先生と恋仲になっており、つい一ヶ月前に結婚させて欲しいと言ってきたのだ。こんなに衝撃を受けた事は後にも先にもないだろう。ジェイコブもあまりの人選に流石に驚き笑っていた。
「当主が父上じゃなくて良かったね」
「父上だったらまず出会ってないけどね……」
リリアは頭をかかえた。別にトウヤ先生が駄目なのではない。その親も問題はない。剣一本で道を極めて来た家系だ。アメリアが条件としていた『お姉様よりも強い人』の条件にも会う。正直言って魔法なしで剣のみで戦って勝てる相手では確かにない。それはリリアもわかる。しかし問題が一つ。この家の開祖は “あれ” なのだ。例のダンジョンマスターなのだ。別に構わないが、あの酒飲み侍と親戚になるのか……挨拶に行かないとな……『怖い方ですの……?』とアメリアに心配そうに聞かれたが、いろんな意味で怖い。
何しろリリアは15歳で成人してしまった。そう、成人してしまったのだ。これは付き合わないといけなくなる。酒宴に。『某が防波堤を任される故……!』とトウヤ先生は切腹ばりの覚悟で言っていたが、『いや、下戸に防波堤は無理』と却下した。そう、この先生は下戸なのだ。しかも一舐めで倒れる程に弱い。妹婿に死なれたら困る。むしろ私がトウヤ先生の防波堤をしないといけないと思う。アメリアにも『無理しては駄目ですよ……?』と上目遣いで言われて防波堤作戦は諦めた。あんな可愛いウルウルおめめで言われたらそりゃあ思い止まるよね。分かるよ、先生。私もそうだもの。
「まあ、何とかなるでしょ。多分」
「多分かいな」
「結婚式にはダンジョンマスターも出席するのかい?」
「しない。させない」
「堅い決意が見て取れるな……」
「まあ、大騒ぎが目に見えてるからな」
絶対にあの家の人達は感激するし、喜ぶだろうけどね。その勢いで酒を浴びるほど飲んだら事故が起きる。何しろあのダンジョンマスター、どれだけ飲んでも酔わないし体も壊さないのだから。そのスピードに合わせて飲んだら生身の人間は確実に体を壊す。それは避けないといけない。
「まずは兄上とメイベルだよ?」
「リリアとバルトちゃうん?」
「長男だもの。だから婚約式と結婚式は兄上とメイベルが先だよ。それから私とバルトで、最後にトウヤ先生とアメリアなんだよ」
「なんや大変やなぁ」
「まずエルドラン領でジェイコブとメイベルが婚約式をして、俺達が1週間後にロベルト領で婚約式。その2週間後にジェイコブとメイベルの結婚式をエルドラン領で行って、その3週間後に俺とリリアが結婚式だな」
「婚約式はロベルト領なのか?」
「結婚式はうちでやるからね。どっちもうちでやったら体裁が悪いでしょう?」
嘘です。婚約式の準備までエルドランでやるとなったらリリアが過労死するからです。ロベルト侯爵が提案してくださったのだ。少なくとも兄上とメイベルの結婚式はエルドランで行うのだ。それを考えればすでにキャパオーバーだ。
「メイベルの花嫁衣装もリリアが用意するんだろ?」
「そうじゃないと間に合わないもの」
「ええねんで?無理して角隠しにせーへんでも」
「そこは私の意地よ」
「意地なんや……」
「これだけ規格外に仕上げちゃった責任は取らないとね」
「あ、責任感じてたんだね」
「一応ね。兄上以外にもらい手なんていやしないでしょ?こんなプライドを打ち砕いていく女なんて」
「「「「「「あぁ……」」」」」」
「みんなして同意するなんて酷いわ!」
だって、守ろうにもこの子守るならそれこそライオネル先生かトウヤ先生かギルマスくらいの人じゃないと守れないし。精神的な支えになるなら兄上くらい頭の良い人じゃないと務まらないよ。
「布地はザック会頭にお任せしてるし、アメリアも使わせて貰えることになったしね」
「結局トウヤの方の衣装にするんだな」
「ドレスも着ますよ?」
「え?」
「お色直しです。式では角隠しで披露宴でドレスを着るんですよ」
「……衣装は?」
「布だけ仕入れて私が作ります」
「妹に激甘なんや。先生、諦めーや」
「……そうだな」
トウヤ先生は『主役は花嫁故、アメリアの好きな方を選ぶが良い』というし、リリアも『どっち選んでも良いよ』と言った事ですごく悩んでしまったアメリア。見かねたリリアが『どっちも作ったら良いじゃん!』という脳筋思考に走ってしまったがためにお色直しという作戦に出ることとなった。珍しいらしいが、式と披露宴の間に時間もあるので着替えは可能だ。トウヤ先生も呆れたように笑っていたが、アメリアが嬉しそうなので何も言わなかった。天使の笑顔はプライスレス。
アメリア、マジ天使
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