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判決

3日後、城の謁見の間には多くの人が集まっていた。玉座には怒りを含んだ国王陛下と真っ直ぐと目を見つめる王妃陛下。玉座に向かって伸びる階段のすぐ下には、すっかり回復したバルトを含めたリリア達『エンシェント☆キラーズ』が警護のために控えている。そしてその先に下着のみで亀甲縛りに猿轡でひざまづいている4人の男。その中にはドミニクもいた。


「聴取によると、ドミニク・フォン・アトラス王太子殿下はアデール公爵家の長男でドミニク王太子の家庭教師でもあるカール・フォン・アデールと結託し、闇ギルドに在籍している研究者デルミンに協力を依頼。デルミンに資金提供をし、魔獣の上位種への進化、ならびに暴走させ王国を混乱に陥れたました。またそれだけではなく、王都近くにあるダンジョン “洞窟迷宮” に出現する魔獣を同じく暴走させ、ダンジョンマスターを襲撃。ダンジョンコアを暴走させ人為的なスタンピードを起こし王都を襲撃させ甚大な被害を負わせました。またダンジョンの人為的なスタンピードについては、その実験としてエルドラン領のダンジョンマスターを襲撃し、スタンピードを起こしました」


ジョルジュ騎士団長は資料片手に事の顛末を説明する。謁見の間はザワつく。あまりに衝撃的な話しに『本当の話なのだろうか』と疑っている者も多い。しかし、本当に信じ難いのはここからだった。


「資金はドミニク王太子が提供し、カール殿が指示役となり一連の騒動を起こしました。最終的な目的は人為的なスタンピードを起こし王都を襲撃させ王都の民を大量虐殺し、その責任を取る形で陛下を退位に追い込み自分が国王の座に就こうと画策。

しかし、その計画は変更されました。その理由はドミニク王太子が学園へ入学する際リリア嬢に主席を取られ、リリア嬢がリーダーを務める『エンシェント☆キラーズ』のメンバーであるクラスメイトにも次々と超されて行くのが悔しかったから。学園の行事でもある実地研修にてゴブリンキングを生み出し捕獲していた大量のゴブリンを解き放ち自分達で討伐する事で名声を手にしようとして失敗。その後フォレストモンキーをブラッディージャイアントコングにする事で『エンシェント☆キラーズ』を始末しようとするも失敗。次第に焦燥感が増していったとのこと。今回の騒動で国王陛下のお抱え冒険者として招集される事も予測した上で『エンシェント☆キラーズ』を全滅させようと計画した模様です。そのためにオーガ集団にロベルト領を襲撃させ、休暇でロベルト領を訪問していた『エンシェント☆キラーズ』を足止めし、少しでも対応を遅らせようとしたそうです」


魔獣を暴走させスタンピードを起こすその方法が魔石である事は言わない事にした。陛下とリリア達が話し合い、公表するべきではないという結論に達したのだ。人間は弱い生き物だ。こんなに簡単な方法を知ってしまえば理由はどうあれやってしまうかもしれない。未来の罪人を生み出さないためにも、この研究結果は闇に葬ろうと言う事になった。


「……ドミニク。相違ないか?」


陛下は静かに問いかける。どうか間違いであって欲しい。違うと言って欲しい。そう祈るような雰囲気を感じる。しかし、その願いは無情にも打ち砕かれた。


「間違いありません。先程の説明通りです」


猿轡を外されたドミニクは澱みなく答えた。その表情はまるでイタズラをした子供が『僕、こんな事もできるようになったんだよ!』と言っているようなものだ。


「そうか……」


陛下は椅子に体を沈めて目を閉じた。本当なら斬首刑相当。王都の広場で断頭台を出して公開処刑するのが相応しいと思われる。しかし、陛下は国王であると同時に父親である。そんな人がそう簡単に出せる判決ではない。それも分かっている。だから……


「ドミニク・フォン・アトラス。国王アルベルト・フォン・アトラスの名において、王太子を廃嫡とする。『エンシェント☆キラーズ』リーダー、リリア・フォン・エルドラン。予定通り、判決と処刑はそなたに任せる」

「御意のままに」


リリアは陛下に頭を下げる。ザワザワとする中、リリアはドミニクの前に進み出た。ドミニクは憎々しげにリリアを見上げる。リリアは陛下から賜った豪華な造りの剣を鞘から抜く。これは貴族である証。公爵位を継いだ時に陛下から受け取った貴族を示す象徴。それをドミニクの首に宛てがう。


「アトラント王国国王アルベルト・フォン・アトラスの代理人、リリア・フォン・エルドラン公爵の名において、ドミニク・フォン・アトラスの判決を言い渡します」


その場の人間は一様にゴクリと唾を飲む。よく聞けば全てはドミニクのリリアに対する国を巻き込んだ八つ当たり。しかも全てが失敗に終わり、今は下着姿でリリア考案の捕縛方法で足元に膝まづいている状態。屈辱以外の何物でもないだろう。そして今、憎い相手から判決を言い渡される。


「その命尽きるまでカール・フォン・アデール、研究者デルミンと共に城の中で監禁するものとします。その場所を知っている者は『エンシェント☆キラーズ』と国王陛下、ジョルジュ騎士団長のみです。金輪際、太陽を拝めないと思いなさい」


周囲の者達は眉根を寄せてコソコソと話している。ドミニクもニヤッとしている。監禁刑と言うのはそこまで重いものではない。王族にそれをやるということは、『監禁』と言いながら他国への『亡命』と同等なのだ。そして他国は王族だと言うこともわかって引き取るため、それなりの扱いになってしまう。それだったら斬首刑の方が重い刑となるのだ。『鮮血嬢』と呼ばれたリリアならもっと残酷な刑を言い渡すかと思っていたのだろう。やはり陛下のお抱えだと何か忖度したのだろうと誰もが思っていた。


「ドミニク・フォン・アトラス。何か申し開きはありますか?」

「……怖気付いたか。『鮮血嬢』と呼ばれた『エンシェント☆キラーズ』のリーダーでも死刑は嫌だったのか?」

「残念ながら、陛下が私に判決と刑の執行をお任せになった時点で、ただの『監禁』ではありません。ただの『監禁』ならば私である必要なないのですから」


ドミニクは表情を固くした。


「その他、闇ギルド在籍である実行犯ジョン、ユレイは鉱山奴隷80年とします。陛下、よろしいですか?」

「うむ」


思った以上に深刻そうな表情の国王夫妻に全員察した。この『監禁刑』は自分達の知っている『監禁刑』ではないのだと。

謁見は終了となり、再び猿轡を噛まされたドミニクとカール、デルミンはリリア達に両脇を固められながら陛下を先頭に刑の執行場まで連れて行かれた。そこはドミニクの部屋。魔法を思う存分使える様にとドミニクが生まれた時に陛下が用意した魔法の演習場。ドミニクとカールは眉根を寄せた。自分達の知らない扉がある。決して豪華な扉ではない。粗末な木の扉だった。騎士団長は黙って扉を開けた。陛下はその先に進む。リリアを先頭に陛下の後に続く。魔石灯だけが頼りの人1人が通るだけでやっとな石の螺旋階段をひたすら降りてゆく。ドミニク達は裸足のため、その石の冷たさがよくわかるだろう。カールとデルミンは普通の『監禁刑』とは様子が違う事に気が付いていたが、ドミニクは上の空だ。ここからどのくらいで出られるだろうか。出たらどこの国に行けるのだろうか。どんな美味い飯が食えるだろうか。そんな淡い期待を胸に抱いていたのだった。

どれだけ降りただろうか。いつの間にか真っ直ぐの地下通路に出ていた。その先には牢獄があった。明かりは魔石灯だけ。ドミニクは気が付いていなかったが、カールと魔石の研究をしていたデルミンは気が付いていた。この空間は魔石によって制御されていて、魔法も使えないようになっているのだ。それは脱獄を防ぐため、そして魔石の破壊を防ぐため。デルミンでさえどうやっているのか分からないほど高度な魔力操作の果てに組み込まれた魔石に制御されていた。そして中には3人の荷物の全てが運び込まれていた。デルミンの研究資料の全ても運び込まれていたため、デルミンは少し喜んでいた。


「ここが刑の執行場だ」


牢獄に入れられたドミニク達は拘束を解かれた。解くまでに時間もかかるため、ここでの生活についてリリアから説明受ける。


「ここには貴方達の所持品は全て運び込んであります。寝具も洋服も武器も研究資料も。食事は日に3回。同じ時間に配膳されます。食べ終わり次第回収されます。ここには人が来ませんので、何かあっても助けは来ません。最低限のポーションなどは薬棚に自動で補充されます」

「どうせ、そんな長くはないだろう」

「……そうかもしれませんね」


鼻で笑うドミニクにリリアは微笑んで答える。余裕のある受け答えにカールとデルミンの背中に冷や汗が流れる。この女、一体何を考えているのだろうか。笑顔からはまるで感情が読み取れない。殺気は出ていないのに、まるで殺気が充満しているかのような空気だ。よく考えたらこの『鮮血嬢』と呼ばれた公爵が、そんな生温い刑を執行する訳がない。脳天気なお坊ちゃまにはそんな空気は欠片も感じられない様で、相も変わらずニヤニヤしている。


「では、さようなら。……永遠に」


リリアはそう言って陛下を振り返る。陛下は息子の視線を振り切るかのように踵を翻した。いつの間にか牢獄の入口はなくなっていた。そして騎士団長を先頭に来た道を戻り、そしてリリアを最後に通路が消えようとした時、思い出した様にリリアは振り返る。


「刑の終了は『魔石の魔力が切れた時』ですから」


穏やかなリリアの笑顔と共に通路は塞がれた。ドミニクは首を傾げた。


「魔石?魔石灯の事か?であれば、そんな長時間ではないな。こんなの、2日と持たないだろう」

「……違うな」


デルミンは周囲を見回し、自身の研究資料を読み漁る。


「この周囲には大量の魔石がある。魔石灯は上位種のゴブリンの魔石だろうが、それ以外の周囲に配置されている魔石は恐らくエンシェント魔石だろう」

「「エンシェント魔石!?」」

「て事は用意したのは『鮮血嬢』か……」

「だろうな」


リリアが用意した、と言うだけでカールは嫌な予感がした。


「ここから見る限り、その魔石で制御しているのはここで魔法が使えない様にする魔法と窒息しないだけの空調魔法。あと通路がない以上、配膳も制御しているだろう。この明かりだって、おそらく魔力供給はエンシェント魔石からやってる。温度管理も当然やってる。だが、正直いって『それだけなら』わざわざエンシェント魔石を使う必要はない。エンシェント魔石を使わないといけない理由はたった一つの魔法だ」

「たった一つの魔法?」


ドミニクは首を傾げ、カールはその魔法に思い至って震える口を開いた。


「空間魔法……」

「そうだ。この空間そのものが空間魔法で制御されているものだ。つまり『魔石の魔力が切れた時』に刑が終了するという事は……」


流石に察しの悪いドミニクでも気がついた様だ。顔色が悪くなる。


「エンシェント魔石の魔力が切れたら空間魔法は消えて、この空間も消滅する……?」

「この空間はあの通路の消え方を見る限り、完全に魔法で作った空間だ。つまりここには本来穴なんてない。空間魔法で無理やり作ったものだ。魔力が切れてこの空間も消滅したら俺達は……」


事の重大さに初めて気が付いたドミニクは発狂した。カールは呆然として、そして気が狂ったように笑い出した。一方デルミンはと言うと、資料片手に1人でブツブツ言っていた。


「いくらエンシェント魔石を使っているとはいえ、この制御技術……。リリア嬢は神系の称号を多く受けていると聞いたが、それが関係しているのか……?これだけの空間を維持するのに必要な魔力を制御し、そこに悪い干渉を起こさないように必要な干渉だけさせる……。そんな魔道具をたった3日で作り上げた?いや、ロベルト領でのオーガ戦やスタンピードの時にかなりの魔力を消費したはず……。彼女の魔力を消費するために組んだ作戦だった。期間的には可能でも、魔力の使用量を考えるとありえない……。やはり彼女は神系の称号を得た事で我々には想像もつかない魔力量になっていたのか……?いや、確か彼女の魔力は『測定不能』なほど少なかったはずだが……」


ドミニクの頭の中ではリリアの魔力も体力も『計測不能』なほど少ないという認識に擦り変わっていたため、デルミンを完全にミスリードしていたのだ。そんなミスリードにも気が付かず、しかしデルミンの魔石に関する知識欲を満たすには十分過ぎる環境。他2人とは別の意味でデルミンは狂っていた。

こうしてある意味で天才的だった1人の研究者はその研究資料と共に、また欲と嫉妬に塗れた王太子と公爵の子息と共に永遠に消されたのだった。


本当に危険な研究でしたからね。最も人の目に触れない様にする最善の方法でした。



予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします

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