ロベルト領
一ヶ月後。リリアはロベルト領にいた。アメリアが10歳を迎え、体の関係でお披露目会には出られなかった。せめて学園入学前にお祝いだけでもしようと言う事になっていたのだ。『たまにはゆっくり休みーや』とメイベルにも言われ、バルトと休暇目的で向かったと言うのもある。そして帰りは一緒に王都に行き、入学式に出席する予定だ。
久しぶりに来たロベルト領は相変わらず温泉の匂いで満たされていた。
「お姉さま!」
「アメリア!」
自力で立って歩ける様になったアメリア。駆け寄って来た妹を嬉しそうに抱きしめるリリア。その姿は側から見て美しい光景だった。アメリアもリリアとよく似て『マジ天使』枠なので、この姉妹の肖像画は本物の天使が舞い降りたのではないかと錯覚させるほどだ。
「バルト。元気そうだな」
「はい、父上もお元気そうで何よりです」
「陛下から話は聞いている。何やら不穏な事が起きている様だが、大丈夫か?」
「今のところは問題ありません」
「そうか。ならよかった」
こちらの親子は何だか硬い。事務的なことをまず伝え合わないと気が済まないあたり、仕事人間と評判のロベルト侯爵親子だ。
「お姉さま!私、魔法が使える様になったのです!」
「本当!凄いじゃない!」
「後で見てください!」
「もちろん!」
妹に甘々のリリア。前世では一人っ子だったのもあり、妹が可愛くて仕方がないのだ。
「ははは!流石はリリア嬢の妹だけあって、すでに雷の魔法を使いこなしているのだ」
「あらまあ!雷魔法は制御が難しいのに、凄いじゃない!」
「えへへ!」
頭を撫でられて喜んでいるアメリア。ああ、癒される……。そしてそんな姉妹を見ているその他大勢も癒されていた。
「さあ!まずは温泉で旅の疲れを癒してくると良いでしょう」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
「お姉さま!こっちこっち!」
「ちょ!アメリア!待って!」
久しぶりに姉に会えて嬉しいのか、リリアの手を引き走るアメリア。道中の使用人達が癒されて行ったのは言うまでもない。
温泉の後は食事だ。白米と味噌汁。一人鍋にミノタウロスの溶岩焼き。お刺身に天ぷらまで出て来る。アメリアはまだ消化が戻り切っていないので少し柔らか目の白米と味噌汁、肉なしの鍋だけだ。
温泉の後、アメリアの魔法を少しだけ見せてもらった。贔屓目をなしにしても凄まじかった。的にした人形に落雷させたのだが、その威力と言ったらなかった。バルトは思わず『マジかよ……』と言っていた。学園の試験で使うのと同じ的だ。つまり壊れないのが当たり前の的。それが落雷で木っ端微塵だったのだ。話を聞くと、どうやら見習いメイド時代にリリアの訓練を見て1人で魔力調整だけはやっていたそうだ。それだけをやっていたからか魔力量は桁違いになり、ロベルト領の魔法教師が教えた魔法はほぼ一度で覚え、その中でも雷魔法が気に入りひたすら撃ちまくっているそうだ。
「楽しいのはいいけど、周囲に気をつけてね。雷魔法は特に周囲への影響が大きいから」
「そうなのですか?」
「電気は水を伝って流れやすいの。討伐の時はそれを利用する事も出来るけど、気を付けないと仲間にフレンドリーファイヤーしちゃうわ。あと、背の高いものに落ちるから外で使う時は周囲に大きな木とかがないか気をつけてね。木に落雷して火事起きたら大変よ?」
「はわわ……!気をつけます……!」
何も考えずに撃ってたな、この子。何も起きてなくて良かった。まあ、誰かが一緒にいただろうけど。
「ははは!博識な姉がいていいですな、アメリア嬢」
「はい!勉強になります!」
ロベルト侯爵に言われて笑顔で答えるアメリア。素直!良い子!可愛い!マジ天使!こんな子を虐待してたなんて、元メイド長マジで許さん!
夜は『一緒に寝たい!』と言うアメリアと一つのベッドに並んで寝た。話す事は山とある。ロベルト領で療養に入って以来、何をしていたのかとか、どんな人がいて誰に普段は助けてもらっているのか、先日初めてお友達が出来た事、その子と一緒に学園に通うのだとか。そんな話をしている内に眠くなって来たのか、いつの間にか寝落ちした。リリアも安心し切っているアメリアの寝息をBGMにウトウトし始めた。その瞬間だった。
ドォンという爆発音が遠くから聞こえた。リリアは咄嗟に起き上がり窓の外を見た。ロベルト領の門で煙が上がっている。
「お姉さま……」
「何、あれ……」
遠くに見えるのは、どう見てもオーガだ。しかしここは領地の奥。門からかなりの距離がある。そんな所から目視で判別できるオーガなど見た事がない。
「アメリア。危ないから屋敷から出ないんだよ」
「お姉さまは?」
「私は陛下お抱えの冒険者だ。行かないといけない」
リリアは急いで着替える。昨今の状況もあり下に着る防具はパジャマでも着ている。上に着る衣装だけを変えれば良いのだ。
「リリア!」
「準備できたよ!」
部屋のドアを開ける。バルトもすでに防具を着ていた。
「リリア嬢」
「侯爵。アメリアをお願いします!」
「任せなさい」
リリアとバルトは急いで門に向かった。すでに騎士達がオーガと戦っていた。
「街に入れるな!何としても街を守れ!」
なんて数だ。ただのオーガだけで10はいる。そしてその頭があの規格外オーガと言う訳だ。
「大丈夫!?」
「リリア嬢!」
襲われた騎士を救出したリリア。騎士には安堵の表教が浮かぶ。『エンシェント☆キラーズ』のリーダーが来たのだからもう安心だと思っているのだろう。しかし状況は良くない。メイベル達に救難信号は出したが身体強化を使っても半日はかかる距離だ。リリアとバルト、騎士達で半日防ぎ切れるだろうか。
「……防ぎ切らないといけない」
リリアは魔力を溜める。その量にバルトはギョッとする。
「騎士達!総員退避!リリアの広範囲魔法に巻き込まれるぞ!」
騎士達は全員慌てて逃げる。使うのは周囲に点在する血。この魔法は一度だけ使った。ゴブリン騒動の時に、バルトと一緒に突っ込んだ時だ。数が多く対処しきれない時に使う最終手段。正直見栄えがよくなくスプラッタ過ぎるので使う状況は限られるのだ。
「広範囲殲滅魔法【鮮血の華】」
流された血がリリアの魔力によって宙に浮く。血は刃となってオーガに襲いかかる。これの恐ろしいのは血を使っているからではない。対象の流された血で刃を増やせると言う所にあるのだ。ほぼ無制限に増える刃。それに襲い掛かられるオーガ達。無闇に動けば切り裂かれて死ぬ。しかし動かなくても斬り付けられて刃が増える。そして出血多量で死ぬ。どうあがこうが死ぬ運命しかない絶望のオーガ達。どんな巨体でもこの攻撃は防げないし逃れられない。オーガは積んだ訳だ。
「バルト。怪我人の搬送」
「……おう」
流石に血の刃を維持しながら救助は無理なのだ。この魔法の欠点は常に魔力を注がないといけない事だ。リリアの魔力は無限なのでできる芸当だ。
「騎士達は救護所に行くぞ。重傷者は領主館近くまで運べ。軽傷者はここで俺が治す」
バルトの言葉で騎士達は我に返った。
「鮮血嬢……」
「言い得て妙だな」
「止めておけ。切り刻まれるぞ。俺は庇えないからな」
バルトは苦笑して言う。あれが自分達に襲いかかって来たら……騎士達はゾッとしたのだった。
翌日の朝。救難信号を受けたメイベル達は急いで駆けつけたのだが、その現場は大惨事だった。
「アホ!これ普通の人らが見たら失神するで!?」
「臭いだけで吐き気になりそうだねぇ」
「トラウマにならんと良いけどな……」
「騎士でも辛いだろうな……」
状況は言わなくても分かるだろう。結局多くのオーガは切り刻まれた。頭のオーガも木っ端微塵である。その現場に血の匂いが充満し、騎士達も具合を悪くしている。最終的に刃とした血は地上に降り注いだため、恐ろしいほどになっている。
「メイベル」
「何や!」
「森の何処かに巨大な穴作ってくれない?」
「何でや」
「血を処理するから」
「……何やわからんけど、後始末するんならええわ」
メイベルは不思議そうな顔をして近くの森の地面に巨大な穴を開けた。
「こんなもんでええか?」
「良いと思う。よいしょ!」
「なぁぁぁぁぁぁ!アホぉぉぉぉぉぉぉ!」
メイベルは叫ぶのも無理はない。大量の血がメイベルの開けた穴に向かって飛んできたのだから。全て注ぎ込むと土をかぶせて閉める。人が100人乗っても大丈夫!
「ホイ、完了!痛っ!」
「完了ちゃうわ!この鮮血嬢!」
「その二つ名止めて!」
メイベルにハリセンでぶん殴られた。身体強化を使い、リリアが作った特製ハリセン。まさか自分が受ける羽目になるとは。
「それは魔獣相手に使うために作ったの!私のツッコミ用じゃない!」
「アホ!今までのハリセンで身体強化つこぉたらハリセンもたへんやん!」
「身体強化使わなきゃ良いじゃん!」
「使わんとリリアのツッコミは出来へん!」
「だからそれやめろーー!」
メイベルのハリセンから逃げる様に走って領主館に向かうリリア。よもや昨夜、流血騒動を起こした人とは思えないその姿に、騎士達の心中は微妙なものであった。
領主館の側に仮設された救護所は大騒ぎだった。
「アメリア!」
「あ、お姉さま!」
アメリアはリリアに抱きつく。まさか救護所にいるとは思わず、リリアはびっくりした。
「どうしてここに?!」
「回復魔法使ってました!」
「使えるんだね……」
「基本ですよね?」
「まだ学園に行ってない子が回復魔法を使うのは無理なんだよ。普通はね」
「そうなんですの?」
側にいたロベルト侯爵を振り返ってアメリアは首を傾げる。
「まあ、『普通』はね。しかし君たち姉妹に『普通』は通用しないですよ」
ロベルト侯爵は笑って言う。話を聞くと救護所の惨状を聞いたアメリアはいてもたってもいられず、自主的に回復魔法を使ったのだそうだ。その姿はまるで女神の様だったと騎士達は言っていた。ついに天使から女神になっちゃったよこの子。まあ、可愛いからしょうがないよね。
「リリアを見た後やから余計そう見えたんやろ」
「うるさい。言っとくけど、雷魔法だけで言ったらアメリアの方が上だからね」
「は?」
「この子、雷魔法が気に入って自重せずに練習したみたいだから、技術は私より上だよ。今すぐ戦闘で使えるくらいには」
「お姉さまより上……お姉さまに褒められた……」
「雷魔法なんておいそれと使えないし、その上に回復魔法もこれだけ使って魔力切れも起こしてない。控え目に言っても天才だよ」
「えへへ……いっぱい褒められちゃった……」
「……アホの子やった……」
これでもかと言うくらいに褒めまくられて照れながらも嬉しそうなアメリア。メイベルは頭が痛くなったのだった。
「伝令!王都から伝令です!ダンジョン “ 洞窟迷宮 ” でスタンピード発生!魔獣が大量流出!『エンシェント☆キラーズ』の皆様に召集命令です!」
「……!まさか陽動!?」
「そうか!こっちに全員を集めて!」
「リリア嬢!すぐに馬車を用意する!向かいなさい!」
「ありがとうございます!準備して」
「「「「「おう!」」」」」
メイベル達は救護室を出た。
「お姉さま!」
「大丈夫だよ。ありがとう」
リリアを心配してアメリアはありったけの魔力を使って回復魔法をリリアにかけた。怪我はしていないのだが、少し感じていた疲労がスゥーッと消えた。マジ天使。
「またお話ししようね」
「はい」
「無理しないんだよ」
「はい」
「疲れたら休むんだよ」
「はい」
「過保護かよ……」
まだ残っていたバルトは苦笑いをする。だって心配なんだもの。
「リリア嬢。私にお任せください。必ず守りますから」
ロベルト侯爵も笑って言う。心配な気持ちもわかるのだろう。
「お願いします。……バルト、行こう」
「ああ」
救護室を出ると丁度馬車が来た所だった。急いで馬車に乗り込む。馬車はすぐに飛んだ。
「この馬車って……」
「まさか私達が使う事になるなんてね」
「何や、このありえへんスピードの馬車」
「いや、本当はね?ロベルト侯爵が急に呼ばれた時のためにと思って用意した馬車なんだけどさ」
「まだ父上は使ってないからな。俺達が初乗りだ」
「これなら王都まで数時間で着くんだよ」
「「「「はぁ!?数時間!?」」」」
「アホか!」
「この距離を数時間……」
「馬鹿と天才は紙一重だねぇ」
「むしろ馬鹿寄りだろ」
散々な言われ様である。でも正直、作っておいて良かった。普通の馬車なら王都まで1日かかるのだから。
「武器の手入れをしておいてね。魔法使いは魔力を回復」
「「「「「おう」」」」」
魔力の回復は寝るのが一番なのだ。つまり『魔法使いは寝ろ』と言う指示なのだ。リリア達は馬車の中の仮眠室で一眠りすることにした。
一眠りした一行が起きてすぐ見た王都はまさに地獄絵図だった。
マジ天使!!
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