ダンジョンマスター侍
王国トップクラスのダンジョン、それが “ 洞窟迷宮 ” だ。ダンジョンマスターが何者なのかも分かっておらず、ダンジョンコアも人の目には晒されていない。……とされてきた。今のいままでは。
「おお!良いのか!この様な上ものの『ダイギンジョウ』など!」
「ええ、飲みすぎない様にしてくださいね」
「もちろんだ!感謝する!」
武士の姿をした男は早速、一升瓶を傾けてお銚子に注ぐ。リリアはやれやれと言って火の魔法で囲炉裏に火を入れる。上には鍋が吊り下げられていて、男はそこにお銚子を入れる。
「やはり温燗であろう!其方も一杯どうだ?」
「私はまだ未成年ですよ」
「そうであったな。まあ、ゆっくりして行ってくれ!」
バルト達は苦笑いをしている。どう見ても友人の家に来ただけの様に感じてしまう。何しろダンジョンに潜ってからリリア達を襲う魔獣はおらず、むしろ久しぶりに来たリリアに擦り寄ってくる魔獣ばかりだったのだ。そして顔を合わせたダンジョンマスターは、まるで同志の様にリリア達を迎え入れてくれた。このダンジョンマスター、実は学園の教師をしているトウヤ先生のご先祖様だ。どうも転生者の様で、そのよしみで仲良くなったと言う背景もある。
「今日はどうした?随分と久しいが」
「ええ、最近ちょっとダンジョンが騒がしくて」
「ふむ?」
「人為的にスタンピードが起こされているダンジョンがあるんです」
「何と……!」
「しかも、我が領地のダンジョンマスターが襲撃を受けています。闇ギルドの人間が襲撃を行い、我々で討伐しました」
「リリア嬢の領地のダンジョンを襲撃とは……恐れを知らぬのか、はたまた無知なのか。そうか、それでここを心配したわけだな?」
「はい。ここ10年ほどスタンピードを起こしていないと聞いたので」
10年もスタンピードを起こしていないとなると、ダンジョンコアにはそれだけエネルギーが溜まっていると言うことでもある。
「とりあえず、ここは某が均衡を保っておる。案ずる事はない……と言いたい所ではあるが……」
「人為的に起こされている。ダンジョンマスターが襲撃を受けている。と言う所ですよね」
「うむ。某の魔獣が守っておるとはいえ、不安はあるな」
「しかも魔石によって魔獣が凶暴化させられる事案も発生しました。ここの魔獣も例外ではないのではないかと」
「うむ。警戒は怠らない方が良いであろうな」
「そこで、一つ提案があります」
「提案と?」
「はい。陛下も人為的なスタンピードの事はご存知です。そこで国の騎士をここのダンジョンの警護に当たらせるのはどうかと」
「ほぉ」
このダンジョンは王都に近いのもあり、陛下にとっても他人事ではない。襲撃を受けないためにも尽力する事はやぶさかではないと言ってくれている。しかし、ダンジョンマスターの中には気難しい者もいる。人間との関わりを極度に嫌がる者もいる。
「承った。陛下にはお手数をかけ申すが、是非警護をお願い申し上げたい」
「わかりました。では陛下に申し上げておきます」
「うむ、頼む。……おっと!熱燗になってしまうな!」
ダンジョンマスターは慌ててお銚子を引き上げる。温度は丁度良い温燗だった。いや、リリアが気がついて温燗で保温したのだが。
「お酌しますね」
「おお、すまぬな!」
前世でしっかり上司のお酌係をやっていたので慣れている。
「ははは!良い妻になりそうだのう!」
「すでに鬼の片鱗を見せとるさかいな」
「妻とはそう言うものよ!一見すると夫が引っ張っておるが、実際は妻が操っておる!それが良き妻であろう!」
「一見しても実際もリリアが操ってるっすよ」
「まあ、リリア嬢ならそうであろうな。婿殿は尻に敷かれておるのだろう?」
「尻の下に滑り込んでるねぇ」
「……その方が平和だからな」
「ははは!自らとは恐れ入った!リリア嬢を相手にするならその位でないとな!」
この武士、男尊女卑の思想を嫌っている。本人曰く『亭主関白』だそうだ。表には男が出て妻は半歩後ろを歩く。それは蔑んでいるのではなく、妻を守るため。真隣や前では何かがあった時に庇いづらい。根本的な力では男の方が優っている以上は男は半歩前で愛する妻を守るのが当然だろうと言う考えだ。たった1人の妻さえ幸せに出来ないものが道を極める事など出来る訳がない、と言う考えから妻も1人だった。この武士、イケメンである。
「某の子孫は息災であろうか」
「元気に大量のゴブリンを大量虐殺してましたよ」
「うむ。ゴブリンとはいえ、量がいると危険である。無事で何より。……して浮いた話は?」
「刀が恋人でしょうね」
「……まあ、本人が良いのであればそれでいいのだがな」
子孫の事はやはり気がかりらしい。主に結婚的な意味で。結局、一升瓶が半分ほどなくなった所でお開きとなった。この武士は全く酔っ払わないのだ。体に悪いと言いたいが、ダンジョンマスターはその程度で体を壊さない。結局、『ダイギンジョウ』だから一気に飲むともったいないですよ、と言う事にしてある。気分は父と娘だった。
大吟醸って美味しいんですかね?(←下戸
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