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誰か常識を教えてください

ある日、いつもの様に朝食後の鍛錬を兼ねて領地内の森に行こうと思っていたらメイドに声をかけられた。


「お嬢様。本日はお披露目会がありますので、お屋敷にいていただきますよ」


忘れてたわ。今日は10歳の貴族を集めてお披露目会を行う。公爵家である以上、参加しないわけにはいかない。


「そうだったわね。じゃあ、ドレスを頼むわ」

「はい」


お披露目会となると適当なドレスにするわけにいかない。しかも王都に暮らす公爵の娘として流行りも取り入れないといけないし、お金もかけないといけない。正直面倒だが仕方がない。最近は話していると少し笑顔を見せたりしているアメリアも来年お披露目だが、恐らく参加もさせてもらえないだろう。……そっとお祝いしてあげようかな。

諸々の準備をすると時間はあっという間にすぎてゆく。昼過ぎに私は馬車で王都の王城に向かう。この世界の馬車は馬に魔道具を装備させて空を飛ぶ事ができる。書庫で見た本によると、領地から少しでも早く王都に行ける様に魔道具製作の天才と言われた人が開発したらしい。その人は一代で侯爵にまでなったそうだ。そのおかげで領地にいても王都まで半日もあれば到着出来る。

今日のドレスはピンクの華やかなもの。使用人達はもっと趣味の悪いショッキングピンクのドレスを勧めてきたが、全力で拒否した。このドレスは『地味だ』と不評だったが、ショッキングピンクのドレスよりマシだ。父上は先に行っているそうだ。と言うか、どうやら妾の所から行くそうだ。いや、せめて今日くらいは妾の所はやめようよ。と言っても仕方がないので諦めるしかない。

少し早めの昼食を取り王都に向かった。外は雪。道は数少ない領民と代官で除雪している。魔法を使えるものも少なくランクも低いため、魔法で除雪は困難らしい。『私がやろうか?』と代官に提案したことがあったが、『お嬢様は魔獣討伐でお疲れですから』と言って手伝わせてくれなかった。きっと代官の精一杯の優しさだろう。この代官がまともなおかげで領地運営が上手くいっているのだ。とてもありがたい。

道中、馬車が地上で横転しているのに遭遇した。同乗しているメイドと一緒に見下ろす。


「事故ね」

「ええ。負傷者もいる様ですね」

「大丈夫かしら」


墜落したのかな。怪我をした人は見えなかったが、馬車は大破していたしあの状況では絶望的だろう。近くで倒れている馬も随分立派な馬だ。上級貴族の馬車なのだろう。……攻撃を受けた跡があるな。襲撃か?


「お嬢様。今夜はお披露目会ですし、あまり気にされません様」

「……そうね」


気にして怪我が治るわけでもないし、ましてや死人が蘇生するわけでもない。少し虫の知らせ的な嫌な予感はしたが、気にしない事にしてお披露目会に向けて心の準備をする事にした。


お披露目会は言ってしまえば貴族同士のお見合いの場とも言える。子供たちより大人の方が気合が入っていたりもするのだが、今回は子供たちも浮き足立っている。何と言っても今日は第一王子もお披露目会に参加するのだ。件の舌っ足らず王子だ。10歳になった王子は噂によると随分と生意気盛りだそうだ。あのまま成長したなら推して知るべしだろう。そんな事も『王太子の妃』という肩書きの前には大した問題ではないのだろう。

城は中世ヨーロッパの様な佇まい。多くの馬車が集まっており、行列になっている。玄関前に到着するまでやや暫くかかってしまった。馬車を降りると執事が出迎えてくれた。


「エルドラン公爵家、リリア嬢。ようこそいらっしゃいました。この度は10歳のお披露目を迎えられました事、心よりお喜び申し上げます」


この執事は城の筆頭執事のセバスだ。叙勲された時からお世話になっている。いつも城に来ると世話を焼いてくれ、私にとっては祖父のようなものだ。今日は生後5ヶ月で叙勲された子を1人で会場まで行かせる訳にはいかないのかエスコートしてくれた。


「ありがとう、セバス」


差し出された手に手を乗せて会場まで行く。会場は子供たちと引率の親御さんで鮨詰め状態。私が入ると周囲の人たちはザワザワとこちらを見ながら話している。まあ、生まれてすぐに叙勲される様な公爵家の長女ですからね。社交界の話題にもなって当然だ。そして自分で言うのも何だが、リリアはとても美人だ。黄金色の真っ直ぐな髪が腰まで伸び、光が当たればキラキラと輝く。薄手の肩掛けから覗く肌は透明感があり、瞳は深海のような蒼だ。すれ違った人が振り返る程に美しい。今日もまるで花の妖精かの如く可憐で可愛らしい。


「お飲み物をお持ちいたします」


セバスはそう言って離れて行く。すると早速貴族が近づいてきた。


「これはこれは、リリア嬢。ロベルト侯爵家のアーノルドでございます」


ロベルト侯爵家。我が家の寄子となっている家だ。この世界では寄親寄子の制度が敷かれている。立ち行かない貴族を減らすためだそうだ。まあ、この侯爵は立ち行かなくなることはないとは思うが、派閥の関係もあるからどちらかと言うとそっち系なのだ。もちろん、寄親として父上が侯爵領に投資もしている。……私の討伐した魔獣の報酬で。ちなみにこの侯爵の初代が例の馬車を開発した人だ。侯爵自身は前世のアニメでよくいる痩せ型の口髭を撫でている様な人。悪い人の典型みたいな顔をしている。


「ロベルト様。ご無沙汰いたしております」

「すっかりお美しくなられましたな」

「ありがとうございます」


お世辞を言っても何も出て来ないのにね。いや流石に『そうでしょう?知ってました』とは言えないけどね。


「これは私の長男でバルトと言います」

「お初にお目にかかります、ロベルト侯爵家が長子、バルト・フォン・ロベルトです」

「エルドラン公爵家が長女、リリア・フォン・エルドランでございます」


よくアニメに出てくる優等生タイプかな。黒い髪に端正な顔立ち。小柄だが、もう少ししたら大きくもなるだろう。確実にモテるだろうな。令嬢達もイチコロだろう。少々緊張しているのか、表情が固い。公式行事は初めてだし、そういう事かな。.......ああ、そうか縁談か。きっと歳も同じだから結婚相手として候補になっているのかもしれない。


「お父上はどうしたんですか?」

「お仕事で外に出ていて……ここで合流する予定です」

「そうですか。いや、仕事熱心なのは結構だが、娘を放置するのはいただけませんな」

「公爵となるとお国のために尽力することも多くなります。父上もそうだと思います」


嘘です。愛人のところでお仕事中です。


「はは、理解のあるお嬢さんだ。流石は秀才と言われるだけはある」

「私なんてまだまだです」

「過剰な遠慮は嫌味にも聞こえますぞ?」

「過剰なお褒めの言葉もまたしかり、では?」

「これは一本取られましたな!」


OL時代のトーク力が役に立つ。大したことではないのだが、今は10歳だ。そのせいで秀才認定されちゃったんだけどね。


「リリア嬢。ジュースです」


セバスが戻ってきた。手にはオレンジジュースが握られている。


「ありがとう」


この世界のジュースは高級であればあるだけ砂糖が入っている。城のものであれば当然たっぷりと入っているだろう。一口飲むとやはり砂糖の味がした。もはやシロップである。前世で言えばカキ氷のシロップを原液で飲んでいる様なものだ。子供達は嬉しそうに飲んでいる。


「もうすぐ始まりますので、もう少々お待ちください」

「ええ」


セバスが離れていくと侯爵はフゥと息を吐く。


「エルドラン公爵、遅いですな」

「もうすぐ始まってしまいますが……」

「何かあったのかな?」

「トラブルでないと良いのですが……」


嫌な予感しかしない。公爵が遅刻とか、体面が悪い。ただでさえ妾の所から来ると言うのに。国王よりも遅い到着となると、公爵として恥でしかない。

そんな話をしている内に国王が第一王子と共に入場してきた。はい、遅刻決定。これは困ったな。周囲も『おや?』という表情をしてるし。

するとセバスが駆け寄ってくる。


「リリア嬢。お父上が馬車の事故に遭われてしまったそうです」

「ご容体は?」

「……残念ながら……」

「そうですか……」


あの道中で落ちていた馬車か。道理でいい馬だと思ったよ。そして少し考える。ここで私が出ていくと色々面倒だ。


「私が今出て行くとこの良き日を台無しにしてしまう可能性があります。国王には伝わっているのですか?」

「いえ、まだです」

「では、終わるまでは内密に。ご挨拶には私1人で参ります」

「承知いたしました」


さて、どうしようか。公爵家を継げる人間がいない。あ、私だった。兄上が継ぐのは父上が許さなかった。妹も無理だ。困ったな。まだその辺の事は何も習っていない。大体、学園がまだだ。卒業してからでないと公爵業なんて出来ない。


「リリア嬢。申し訳ありません。聞こえてしまいました。……大丈夫ですか?」


ロベルト侯爵は床に膝を突いて言う。バルトも心配そうに私を見ている。父親の死を知らされてこんなに冷静でいられる令嬢も珍しいかもしれない。


「ええ、大丈夫です。今はお披露目会に集中します。ご挨拶が終わり次第、退席させていただきます」

「それがよろしいかと」


すると乾杯になった。いつの間にか国王の挨拶が終わってしまっていた。セバスが新しい飲み物を持って来てくれた。


「それでは前途ある若者達の将来に、乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


国王への挨拶は爵位が上であればある程後半になる。つまり公爵家は最後なわけで、この場を取り繕うのはかなり苦労する。結局、領地でトラブルが起き行かなければならなくなったと言う事にした。侯爵も口裏を合わせてくれている。正直ありがたい。この侯爵、見た目は悪役っぽいのだが、父上よりずっと領民の事を考えている人だ。父上の方が余程領民に愛される領主に見えるのにね。バルトの態度なんかを見てもそつがなく、侯爵の育て方の良さがうかがえる。


国王陛下への挨拶も折り返し地点に差し掛かった頃。ゾクッとする殺気に気が付く。魔獣を討伐する時に魔獣から感じる殺気と同じだ。サッとセバスが来る。


「リリア嬢」

「殺気、ですね」

「どうやらリリア嬢に向かってのものの様です。これは危険です。お父上の事もありますし、すぐに退室なさいますか?」

「いえ、別行動をするとかえって危険かと」

「しかし……」


落ち着いて索敵すれば分かるはずだ。広間の中に索敵魔法を広げる。


「……!そこ!」


簡単な風の魔法を放つ。風魔法は弾かれる。会場を警備していた騎士達が私を庇い出て来て、魔法を放った方向に向かって警戒する。会場には動揺が広がる。


「何者だ!」


返事はないが、気持ちの悪い魔力を感じる。さっきから殺気の隠蔽が弱い。隠す気がないのだろうか。じゃあ、どうして中途半端に隠蔽を使ってるのか。貧弱な殺気だが牽制なのか?相手の狙いが分からない。宣戦布告と受け取って良いのだろうか。その割には黙ってりゃバレないだろう的な雰囲気もあるが。


「ダンマリ決め込んでますね。では、こちらからやらせて頂きますね」


【マジックリセット】


この広間だけ魔法が使用出来ないようにする。すると結界魔法が消えて1人のローブを被った人間が現れた。浮かんでいられず床に着地する。


「ほぉ。流石はSSSクラス。この程度、造作もないか」

「何が目的ですか?」

「お前以外に何がある?」

「まあ、そうですよね」


それ以外に理由が思い浮かばない。父上の馬車を襲ったのは私が乗っていると思ったからだろう。私はその場から飛び出し、あっという間に奴の懐に入り組み倒す。


「よっと!」

「な!」

「騎士さん!」


唖然としていた騎士に声をかける。はっと我に帰った騎士達は男を捉える。


「何故だ!どうしてお前のような魔法使いが武術を!」

「何故って、魔法の通じない魔獣だったらどうするんですか。魔力が切れたらどうするんですか?魔法の使えなくなった魔法しか使えない魔法使いなんて戦場ではお荷物ですよ?」


まあ、前世で合気道やってたのもあるけどね。ちなみに前世のおかげで剣術も使える。


「今回だって魔法が使えない状況になったから貴方は丸腰になってしまったじゃないですか」

「くそ!認めねーぞ!こんなの!」

「認めなさい。現実逃避はみっともないですよ?」

「うるせー!このガキがぁ!」

「あ?」


このままでは煩いので威嚇する。会場が静かになる。襲撃者は泡を吹いて失神した。騎士達に抱えられた状態で連れて行かれる。……かえって面倒だったか。失敗したかも。私が狙いということは別の国の刺客かな?でも、SSS相手にこんな危険を顧みず襲撃ってどれだけ無計画なんだろう。それにあの殺気って何?あれじゃあ狙えと言っている様なもんじゃないの?索敵隠蔽だってお粗末だったし。


「リリア嬢。よくあの殺気に気がつかれましたね」


殺気を収めた所で、セバスが声をかけてくる。


「いえ。あんな隠す気もない殺気に気が付くなという方が難しいのでは?」

「ははは!あれは相当な訓練を積んでいないと気がつきませんよ?騎士でも分からない者がいたくらいです。しかもあれだけの殺気を出せるという事は、レベルも20を超えているのでしょう」


セバスが笑っている。そうなの?咄嗟に侯爵を振り返ったら侯爵もうなづいている。


「私は慌ててセバスがリリア嬢に駆け寄っているのを見て、どうしたのかと思いましたよ」

「でも、セバスは気がついたんですよね?」

「私はSSクラスですからな」

「え。殺気がわかるのにランク関係ありましたっけ?」

「索敵魔法はSクラスからですよ」

「索敵なんて使わないですよね?」

「「……え?」」

「え?」


あ、駄目だ。これ、根本的に何かが食い違っている。


「害意感知は索敵魔法が必要ですけど、隠す気もない殺気なら必要ないでしょう」

「害意は索敵魔法がないとわかりませんよ?」

「いや害意も何も、あんだけ殺気を放っていたら魔法を使わなくても分かったでしょう?」

「……なのかい?セバス」

「い、いえ。私も警戒のために索敵魔法を使っていたのでわかっただけです。そうでなければ分からなかったでしょう。しかも隠蔽もされてたので、位置もわかりませんでした」


え、そうなの?いやまあ、国王がいるから索敵魔法で警戒していたのは分かるけど、あの中途半端な隠蔽じゃあ隠しきれてなかったんじゃ?


「害意と殺気は違うし、害意は魔力調整を鍛えていると素では分からないので索敵が必要ですけど、殺気は隠せないので魔法で隠蔽するはずですよね?それを隠蔽してないに等しい殺気だったので、魔法なんて必要なかったんじゃ……」

「なのかい?セバス」

「い、いえ。聞いた事もありません……」


はい?じゃあ知能の高い猿の魔獣とかの討伐、どうするんだ?彼らは賢いから魔力操作も上手いし、害意程度は消せるよ?索敵魔法に対して隠蔽も出来るほど狡猾だし。でも殺気を隠蔽は出来ないから猿系はそのくらいしか警戒できないはずだけど。


「故に猿の魔獣で騎士団が半壊する程なのですよ」

「猿程度に半壊させられるって……殺気で対策したらあんなに倒しやすい魔獣もいないと思うけど」

「倒しやすい……」

「体の構成が似てるから、急所も同じだから討伐しやすいですよ?」

「いや、その……」


侯爵親子唖然である。セバスは少し考えている。


「殺気の件といい、お嬢様は魔獣討伐に慣れていらっしゃるんですね」

「ええ。だって、毎日領地の森に入って討伐していますし」

「あそこの領地は中級の魔獣でさえ珍しいのに、上級の魔獣の討伐なんて何処で?」

「ロベルト侯爵の領地にお邪魔して討伐していました」

「え、いらっしゃってたのですか?」

「正確には森の中で討伐しながら歩いていたら突入してしまっていたのですが」

「いや、あそこから歩いてなんて何日かかると思っているのですか!?」

「え、身体強化して1日もあれば突入は出来ますよ?」

「宿泊は?」

「野宿です」


全員、茫然自失。あ、私もしかして地雷踏んだ?だって魔法使いとか武芸に秀でていたらやるもんなんじゃないの?いくら非常識な父上でもそこまでじゃないよね?あのノルマ、まさか非常識な折檻だったなんてことはないよね?え?フラグ?


「リリア嬢……なんという……」


ロベルト侯爵が涙目で私を抱きしめてくる。セバスも怒りを滲ませた表情をしている。側で聞いていたバルトも苦しそうだ。え、何?


「セバス、何事だ?リリア嬢は無事か?」


振り返るとそこには国王がいた。


「国王陛下。遅れました事、心よりお詫び申し上げます。エルドラン公爵家が長女、リリア・フォン・エルドランです」


慌てて挨拶をする。生まれてすぐにお会いして以来何かにつけてお会いしてるけど、結構大柄だよなこの国王。いつも座っているから分かりにくいけど。周囲の貴族達も最敬礼をする。


「陛下。少々、問題が起きてしまいました」

「なんだ?」

「まず、エルドラン公爵が亡くなりました。乗っていた馬車が事故にあった模様です。リリア嬢が同乗してると思っての襲撃とみて間違いないでしょう」

「なんと……」


この短時間で確信を得るだけの証拠が揃ったのだろう。セバス、優秀すぎるでしょう。


「それも問題なのですが、今聞き取りをしてもう一つ問題が……」

「何だ?」

「どうやらリリア嬢は、公爵から折檻を受けていた様です」

「何だと!?」

「いや……たかが猿の魔獣を討伐していただけなんですけど……」

「猿!?」


あ、やっぱり驚かれちゃった。そんなに強いかな?


「ロベルト侯爵の領地まで身体強化で森を歩いて行かせ、上級魔獣を討伐させていた様です。公爵の金遣いの荒さは有名でした。もしや、魔獣を売って金にしていたのではないかと」

「あ、それはそうです。贅沢し過ぎなんですよね、父上。私が討伐した魔獣を素材にして売って贅沢をしていたんです。よくあんなセンスの悪い物ばかり買っていると思ってましたけど」


ゴテゴテと装飾された装飾品や趣味の悪い服、味を犠牲にしたスパイス使い過ぎ料理を食べたり。私は領地の素朴な料理が好きだったから王都の高級レストランに行けなくても良かったんだけど。


「何という事を……よく無事で……」


国王は私を抱き寄せて頬をその大きな手で撫でてくれた。手はかすかに震えている。まるで自分の娘をいたわる様な態度だ。あ、これってもしかして、もしかしなくても……


「私の父上は非常識な事をしていたんでしょうか?」

「そなたの領地は低級の魔獣しか出現しないだろう?」

「はい」

「そなたの所の領地からロベルトの領地まで大人でも歩けば5日はかかる。10歳で身体強化を行い1日で他領地に入り上級魔獣を討伐し野宿を強いられるなど、はっきり言って異常なのだ」

「そうだったんですか……父上は兄を領地の代官にして私を公爵にしようとしていたのですが……」

「兄というとジェイコブだったな?」

「はい。魔力も少なく武芸も苦手で、しかし勉学には秀でているので……」

「なるほどな……確か妹もいたな?」

「はい。アメリアは、領地の屋敷でメイド見習いをしています。流石にそれはどうなのだろうと思ったのですが、王城で姫付きのメイドが出来る様にと言っていました」


確かに姫付きのメイドって貴族の令嬢だったりするものね。そう納得していたのだが。


「何だって!?」


ロベルト侯爵の声にびっくりした。


「姫付きのメイドは城で預けられるのが習わしだ!大体!彼女は魔法も使えず、虚弱体質で枕から頭が上がらないと!」

「いえ、ピンピンしてますけど……魔法使いの才はありますし」

「ランクは?」

「Sです」


周りがざわざわしている。何なら生まれてこの方、風邪だって殆ど引かない。確かに姫付きメイドならSの魔法使いなら護衛も出来そうだしと納得していた。


「気が付いてやれなくてすまなかった、リリア嬢。……どうやら色々と話を聞かないといけない様だ」


国王も怒りを隠せない様だ。殺気が溢れでている。おおぅ。この大きい体でこんな顔をすると迫力あるな。


「陛下。殺気が出ております。リリア嬢が怯えてしまいますよ」

「おっと。すまなかった」


セバスが気がついた様だ。まあ、このくらいの殺気なら大丈夫だけど。さて、問題が山積みだ。まず急いで解決しないといけない問題。それは……


「どなたか私に “常識” を教えてください」


何が正しい情報なのか、どなたか教えてください。


はい、クズ父上クランクアップでーす!お疲れ様でしたー!


予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします。

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