天使領主
あれから3ヶ月が経った。年も明けて雪も溶けたことから、エルドラン領は開発が始まったのだ。ブラッディージャイアントコングの討伐報酬として白金貨12枚を頂き、きっちり当分にする。それでも1人白金貨2枚なので、皆目を白黒させていた。
リリアは当然領地の開発に使う事にした。現在建設中なのはザック商会エルドラン支店と冒険者ギルドエルドラン支部、食料品ギルドエルドラン支店だ。ギルドの支店まで出来るのには驚いたが、それだけ期待されているという事で問題はない。ちなみに、冒険者ギルドのギルマスにバルトが、ザック商会の支店長にはメイベルが就く事になった。バルトをギルマスに推したのはリリアだった。変な人が来るよりいい。メイベルは父親に頼まれたらしい。『何でやねん!』と頭を抱えていたが、仕方がないよね。優秀だもん。
その他は宿泊施設を建設する予定だ。もちろん飲食店も多く連なるわけで、建設のための労働者が多く必要となる。予定通り王都のスラムから大量雇用する事にした。血の気の多い人間も多く、小競り合いも頻繁だった。……最初は。
まさに一罰百回。リリアに喧嘩を売った労働者が領地の森の中に身動きが取れない状態で放り投げられたのだ。そこにはフォレストウルフの群れが暮らしている。武器さえあれば問題ないが、丸腰で動けない様に足まで亀甲縛りにされて放置されたら……
『その男をその後見た者はいない』と噂では締め括られているが、ちゃんと衛兵さんが3日後に回収している。しかもフォレストウルフのボスは “ガロウ” と名付けられたリリアの従魔だ。命令がない限り殺すことはしない。リリアはマナーさえ守っていたら、毎日領地を見回って労働者に労いの言葉をかけてくれ、怪我人がいたら治療もしてくれる。労働者と一緒に入ってきたスラムの子供達のために仮設の教会を自ら建設してそこに住まわせ、教育ギルドから教師を雇い読み書き算術を学ばせている。『教会を最優先で建設せよ』と指示も出しているし、自身の領主館は最後の最後に改築するという方針だ。見た目の可憐さも相まって、まさに『マジ天使』である。つまり『怒らせたら鬼だが、怒らせたやつが悪い』という判断なのだ。
そんな天使領主、本日は代官からの報告に頭を抱えている。
「ダンジョンでスタンピードが起きてる、か」
「そんな時期なのか?」
「報告ではもう少し先の筈だったんですがね」
バルトの問にガッツが答える。今日の朝食はジンの根を入れたお粥だ。お分かりのとおりジンは生姜だ。朝には温まっていい。
「だから見に行こうかなって思って」
「そうか。そうしたらダンジョンの様子を見て何かあればギルドに報告するか?」
「そうだね。何もないといいけど」
美味しいお粥を食べてリリアは言う。まさかこのスタンピードが王国を揺るがす大事件に繋がっていたとは、この時まだ誰も思ってもいなかった。
『天使領主』に遭遇するか『堕天使領主』に遭遇するか……
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