闇夜の戦闘
今夜は満月。この世界の月は何故かとても大きい。そんな月を背景に巨大な影が現れた。
「いや……確かにブラッディージャイアントコングは大きいけどな……」
「これは大きすぎちゃう……?」
フィアンとメイベルが驚くのも無理はない。バルトもレオンもレオールも目を丸くしているし、2度ほど戦っているリリアでさえ想定外で逡巡している。
「これは異常だよね……」
「何が起きてるのか分からないけど、倒さないと危険だねぇ」
「バルト、メイベル、フィアンは支援魔法。レオン、レオール、行くよ!」
「「「「「おう!」」」」」
「まずは視界を奪うで!【ライト】」
リリア達は飛び出した。それと同時にメイベルがブラッディージャイアントコングの頭上に強い光を出す。闇夜に突然現れた明かりで視界が奪われるだろう。狙うは腕。移動せずとも攻撃的機動力のある腕は最初に始末しておく。落とすなら肩から落とすべきだ。左の肩に向かう。そんなリリアに大きな手が襲いかかるが、バルトの爆発魔法が当たり防がれる。
「よっと!」
あっという間に肩関節から大きな腕が切り離された。腕はズドンッと音を立てて落ちた。
「こっちがお留守だよ!」
痛みで叫ぶブラッディージャイアントコング。レオンは右肩から腕を落とす。レオールが正面に飛び出して首を取ろうとする。
「ゴアァァァァァァ!」
「うわっ!」
叫び声とともに衝撃波がレオールに襲いかかった。しかしダメージは来なかった。フィアンが結界を貼ったからだ。
「すまん!フィアン!」
「正面はやめておけ!」
「分かった!」
地上に降りたレオールはフィアンに感謝を伝える。レオールに気が向いているブラッディージャイアントコング。いつの間にかリリアが背後に回っていた。
「くっ!駄目か!」
「任せろ!」
後ろからブラッディージャイアントコングの首に斬りかかった。しかし、そこは異常に大きなブラッディージャイアントコング。一太刀では落とせなかった。今度こそ、と言う様にレオールが下から切り上げる。頭は胴体から切り離され、ブラッディージャイアントコングは倒れた。
「ふぅ」
「レオール、ナイス!」
「左での剣の扱いに慣れてきたねぇ」
リリアとレオンに褒められ、レオールは少し嬉しそうだ。
「フォレストモンキーが減らへんな。どないする?」
「このまま王都中を飛び回られたら迷惑だし、討伐しようか」
「よし、メイベルとレオン、フィアンとレオール、俺とリリアで行こう。騎士さんを何人か引き連れて討伐するぞ!」
こうして騎士達とフォレストモンキーの討伐に出動した。
「おっと!」
「ちょこまかと邪魔や!」
「……意外とメイベル嬢が脳筋だな」
「ああ、もう少し作戦あるのかと思ってた……」
「意外だったな……」
「誰が脳筋や!聞こえとるで!」
先行して切り倒しているレオンに襲いかかるフォレストモンキーにメイベルが石の礫をぶつける。すばしっこくてなかなか攻撃が当たらないフォレストモンキーだが、『だったら手数を増やせばええやん』と言う事で、大量の礫を同時発射すると言う脳筋戦法を取っている。燃費は悪いが、おかげで数打ちゃ当たるでフォレストモンキーが蜂の巣になっている。商会頭の娘でパーティの財務担当だと言うのは周知の事実。商会との連絡から仕入れまでを一手に引き受けているだけに才女の評判が立っているメイベル。そんな彼女の意外な一面に騎士達は微妙な顔をしていた。
「とりゃ!」
「うぉ!おい!熱いだろ!」
「大丈夫だ!その防具、リリアが作った耐熱だろ?しかもミスリル製」
「だからと言って熱くねー訳じゃねーんだよ!」
「ミスリル……」
「しかも耐熱……」
「リリア公爵、マジで半端ねーな……」
フィアンはひたすら【ファイアーパレット】を打ち続けている。なんだかんだ言って最も燃費の良い火魔法。魔力はそんなすぐに切れないが、フォレストモンキー相手ではやはり節約はしたい。そしてこちらも一度に何発も発射して数打ちゃ当たる戦法。幼馴染は考え方が似るのだろうか。しかし、そんな事より希少なミスリルで作った耐熱防具を躊躇いなく作るリリアに騎士達は驚いていた。
「ほらほら。早く逃げないと切り刻んじゃうよー?」
「キキーッ!?」
「リリア……遊んでないで倒してくれ……」
「え?駄目?」
「楽しそうなのは良いけど、公爵閣下がそれをやってると悪い噂が流れるぞ?」
「「「……」」」
リリアにとってフォレストモンキーは小物。そんなに苦労せずに倒せる。今はたまたま外の騒がしさに何事かと起きて窓を開けてしまった子供を襲おうとしたフォレストモンキーを生け捕りにし、魔法で身動きが取れない様にして尻尾から吊るしておちょくっていた。逃げられるか逃げられないかギリギリの加減でかけた魔法なので、本気を出したら逃げられる。しかし、このフォレストモンキーは個体差で少し弱く、本気を出しても呪縛の魔法から逃れられないのだ。リリアとしては『そんな程度の存在が弱いものいじめの様に子供を襲ってるんじゃねーよ』と言ったところなのだ。だが今は騎士達が同伴している。こんなところを見られたら悪評が立ってしまう。実際、同伴した騎士達は『絶対にエルドラン女公爵を怒らせてはいけない』と全員が硬く決意している。もし怒らせたら、そいつは今リリアの手の中で弄ばれてるフォレストモンキーの立場になってしまうだろうから。
フォレストモンキーが殲滅されたのは朝日が上る頃になってからだった。
「はぁ……疲れたわー……」
「流石に夜通しはねぇ」
「さっさと帰って寝ようぜ」
「そんな簡単だと思う?」
「え……」
フィアンはリリアを見る。
「城に戻って討伐完了の報告に行ってからだよ?ブラッディージャイアントコングの報告もあるし。いつ終わるだろ……」
「騎士達の報告を指揮をとってたジョルジュ騎士団長が受けて、それからリリアがまず騎士団長に報告。騎士団長が陛下に報告して、そこから国王と非公式の謁見をして報告と褒美の事前報告。そのあとで騎士団が報告書を作成して日中に公式の謁見がある」
「つまり……」
「今寝たら、公式の謁見に遅刻するな」
「マジかよ……」
レオンの説明にフィアンは絶望した。騎士達もぐったりしていたし、騎士団長も報告書の作成があるので徹夜だ。つまりブラッディージャイアントコングとフォレストモンキーは本当に害悪でしかなかった訳で……
「ちょっともう一度ブラッディージャイアントコング切り刻んできて良いか?」
「真顔でいいなや」
「しょうがないよ。謁見が終わって領地に帰ったら今日の仕事はなしにするから。全部ガッツにぶん投げておく」
「ガッツ災難やな」
セバスの案内で陛下との謁見部屋に案内された。出てきた紅茶は少し濃い目。軽食にサンドイッチも出してくれた。
「お疲れ様でした」
「セバスも。陛下は?」
「今はお休みされています。お眠りにはなられていないでしょうが」
「まあ、無理だよね……」
出されたサンドイッチをパクリとして言う。あれだけ動けば正直お腹も減る。フィアンはパクパクと口に放り込んでいく。
「フィアン。遠慮なく食べ過ぎや」
「腹減ったんだよ」
「うちの分も残しや」
「そっちかよ」
育ち盛りにサンドイッチは足りない様だ。お茶を持って来てくれたレイはクスッと笑う。
「お気に召した様ですね。リリア嬢も昔からこのサンドイッチが好きなんですよ」
「そうなんっすか」
「良かったら夜会で残っているコッコの丸焼きをサンドイッチにして来ましょうか?」
「……いいっすか?」
「ええ、もちろん。男の子ですし、あれだけ活躍なさったのですからお腹も空きましょう。すぐにご用意しますね。皆様も?」
ミノタウロス一頭丸々食べ切れる程のパーティだ。当然イエス。レイとセバスは笑って準備にかかった。すぐにコッコのサンドイッチとオークのグラタン、ミノタウロスのローストを使ったサラダなど、夜会で余っていたものをアレンジしたものが出て来た。
「ウメェ……!」
「アンタ、野菜もちゃんと食べーや」
「お前は母ちゃんかよ」
「誰が母ちゃんや」
基本的に全員好き嫌いはなく、野菜も食べるがそこは育ち盛り。肉の消費が激しい。リリアも黙々とサンドイッチを食べている。そこに騎士団長が入ってきた。
「おっと。食事中だったか」
「あ、父上」
「はっはっはっ!腹が減っては戦ができぬだな!」
「流石に僕も空腹でしたからね」
父親に言われて、恥ずかしそうにレオンは答える。
「いいさ!食わんと大きくなれないからな!」
ジョルジュ騎士団長は筋骨隆々で2メートルを超える身長。それが鎧を着ればそれだけで威嚇になる。そんな男の息子は線が細く、しかしリリアに鍛え上げられたため細マッチョ。服に隠れて分からないが、かなりいい体らしい。正反対な親子で、相応に食事量も違った。ジョルジュ騎士団長は目の前にあればテーブルと食器以外は食べてしまう。レオンは必要な量をバランスよくと言った感じだった。しかしあれだけ動けば食べねば動けなくなると脳が警告を発している状態なのだろう。
「食べながらで構わん。話を聞かせてくれ」
「はい」
紅茶で口の中に入っているものを流してリリアは答える。バルトもサブリーダーとして食事の手を止める。フィアン、メイベル、レオンはもう少しかかるかもしれない。
「司令塔のブラッディージャイアントコングだが、何か変わった所はあったか?」
「まあ、あの異常な大きさですよね。私は2回遭遇してますが、今回の個体は数倍の大きさはありました」
「数倍か」
「はい。あれだけの大きさを1人で相手はできなかったでしょうね。パーティで突っ込んで正解でした」
元がフォレストモンキーだ。上位種になるとはいえ、そこまで大きい訳ではない。地面に落とし穴を作って底に罠を仕掛ければいける。しかしあの図体では罠も無理だ。
「ただ大きいが故に動きも鈍かったです。少なくとも移動しながら攻撃というのはありませんでした。どちらかと言うと、上位種になりたてで、その身体を持て余してるような印象を受けました」
「持て余している?」
「はい。うちのパーティもそうでしたが、急激なレベル上げで直後に戦うと自分の体に違和感があると言いますか……」
「「「「「あるある!」」」」」
もれなく全員経験した事だ。『これ誰の体?』現象である。
「なるほど。つまりフォレストモンキーからブラッディージャイアントコングになったばかりだった個体というわけだな?」
「恐らくそうでしょう。通常のブラッディージャイアントコングならば森の中で暴れるでしょうけど、あれは図体が災いして森の中に暴れる場所がなかった」
「ぶっつけ本番だったというわけか」
「あの腕のパワーのなさを考えると、経験不足でしょうね」
「確かに。元々魔法が効きづらい魔獣なのに、自分の爆発魔法がダメージこそないもののかなりの足止めにはなってました。少しでもスピードが遅くなれば程度だったんですがね」
バルトも少し考えて言う。あの時、リリアに襲いかかる腕のスピードの遅さも少々びっくりしたが、自分の放った爆発魔法が意外と効果があったことにも驚いた。何しろあの図体だ。あの程度じゃあ効かないのは分かっていたが、それでも一瞬でも止められたらリリアのスピードで突っ切れると思っていたから。
「びっくりし過ぎだったのは確かです。ブラッディージャイアントコングになってからの戦闘の経験が少なかったのかな、と思いました」
「……そうか」
騎士団長は考えていた。その話が本当だとしたら、どうしてブラッディージャイアントコングは王都を襲った?森の中にいてもフォレストモンキーは動かせたはずだ。王都のど真ん中にいたら討伐されるのは分かるはずだ。猿の魔獣は頭がいい。そのくらいは考えられるはずなのに……
「……飼育されていた……?」
フィアンがぼそっと言う。
「そうか。直前まで飼育されていたフォレストモンキーが何らかの理由でブラッディージャイアントコングになってしまったのなら!」
「経験不足の理由も、王都のど真ん中にいた理由も分かるな。何しろそいつにとったら王都が自分の森だ」
「でも、飼育されとるフォレストモンキーがブラッディージャイアントコングになるなんて聞いたことあらへんで?」
「群れでよほどの戦闘訓練をしていないとなれないね。そんなことしてたら誰かが気がつくはず。つまり『自然に上位種になった』のではないのかもしれない」
「……『人為的に上位種になった』……?」
騎士団長の表情が険しくなった。そんなことが可能なのだろうか。
「不可能ではないでしょうね」
全員の視線がリリアに向いた。
「昔、城の書庫に入ったことがあります。その中に下級魔獣が『とある方法で』上位種になったという記述がありました。方法は書かれていませんでしたけど」
「その方法を見つけてしまった者がいる……?」
「可能性はありますね」
騎士団長はため息を吐いた。人間は弱い生き物だ。方法を知ってしまったら試したくなるだろう。
「リリア……アンタ……」
「うん?」
「いや、何でもあらへんわ……」
考えたことは皆同じだろう。今、爆弾が2つ投下された。1つは『城の書庫に入ったことがある』という事。そしてもう1つは『下級魔獣上位種になる方法を知っている、もしくは気が付いているのではないか』という事だ。恐ろしくて誰も聞けない。今日も今日とて天然系爆弾令嬢である。もう公爵だが。
「陛下への報告が……胃が痛い……」
「父上、胃薬いりますか?」
「いや、いい」
「レオン……アンタ、リリアと発言が似てきたで?」
「えぇ……」
「嫌がんないでよ」
胃を痛めながら報告書を作成した騎士団長。それが終わるまでリリア達は仮眠を取らせてもらった。そして、その報告書を元に陛下との非公式な謁見が始まったのは朝の6時頃だった。
本来のブラッティージャイアントコングは、大きいと言っても尻尾や手足を器用に使って木々を飛び回れる程度の大きさだという設定です。
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